感情複合バッドステータス27
「ひっ!?」
――というより、寧ろそっちの線が濃厚かもしれなかった。
まさか、悲鳴のあとに続く言葉が「バカップルだわ」じゃないよな。足早で教室に向かう女の子の背中を眺めながら思案に耽り嘆息する。まあどちらにせよ、僕としては歓迎できる代物でないことには変わりはない。背中でセッションしている、猟奇的な彼女の方はともかくとして。あぁ、これは前者に限っての意味なんだけど。日本語難しいですね。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃっ――」
このまま立ってるだけでは埒が明かないので、前進を試みようと僕はもがく。パチくのを止めないありすさんをずりずり引きずったり、ときどき立ち止まっては腕を穿っている爪の進行具合を確かめたりして僕達二人の前途は目下多難を極め中。
随分と交流が途絶していた故に、尚更自分の迂闊さが身につまされる。
しかし、剥き出しにされた感情がここまで厄介だったとは。
幼馴染の気持ちに気づかなかった当時の僕としては無論杳として知れないわけで、しかし、知ったところでそれを持て余してしまうのは物理的な損傷を被っている時点で既に実証済みだ。どうにかなるかなと思って、幼馴染との因果の修復に勤しもうと日和ってみたけれど――これは……、僕がどうにかしないといけないみたいだな。
いや、それよりもまずは、現在置かれている僕の状況をどうにかしないと。
こうも感情に雁字搦めにされていると、思考すらもままならない。
「うぅ……、あの馬鹿。私を置いて、一体どこへ行くって言うのよぅ」
「ありすさん、僕はここにいる! ここにいますよっ!」
嫉妬と猜疑の果てに視野狭窄に陥った幼馴染に、僕は自我を主張し所在のほぞを固めてみる。だけど、ありすさん全然聞いちゃくれねぇわ。流れる血も止まっちゃくれねぇわ。行き交う人はもう目もくれねぇわ。さすが一階がインフェルノと揶揄されるくらいはある。いっそ食人鬼になるくらい目一杯弾けてくれりゃあ、と強がってみても絶望を上塗りするだけで益体ない。