感情複合バッドステータス21
昇降口にて、僕達の爛れたアバンチュールはひとまず終息を迎えた。
で、結局僕は韜晦するありすを解さぬままここに至ったわけで、その際蕩尽し湯豆腐みたいになっていた脳みそは、「それでどうなのさ?」と僕の心中などお構いなしに詰問する奴によって木っ端微塵に打ち砕かれることとなる。僕がその詰問に応えあぐねるのはむべなるかな、「そんなことより上履きに履きかえようぜ」などと鼻孔からゴーヤがひり出せそうな嘯いた切りかえしができるわけでもなく、ぐしゃぐちゃにされた頭の中の湯豆腐があたかも襟元へ流れ込こんだようなアンニュイな面持ちで、こうして僕は黙して因果の応報に身をつまされているわけなのだ。
つまり、手段が目的へと刷りかえられた好例ともいえる。
しかし――
――スカートの丈が短いと、自然とそちらに目が向けられるものだよ。
誰ともなしにそんな感想を漏らしてみた。さて異論はあるかね?
いや……、
諸君気にしないでくれたまえ僕の思考は今やチャンプルーしている。
泥濘とした思考に苛まれながら僕が口を噤んでいると、ありすは短く鼻息を漏らしそのあとに『やれやれ』と言葉を追随させそうな雰囲気を匂わせて指定の下駄箱へと姿を消す。
「随分と堪能されたご様子」
そして起伏を損なわせたプラスティックみたいな声が、消失したありすに入れ替わり僕を再び苛み始める。眉間を揉みしだきながら嘆息を繰り返す。振り返って確認するまでもない。
「お前は這い寄る混沌なのですか?」そう。我らが秘密結社同好会を束ねる人外、ナイアラルトホテプとはこいつのことだった。「桜庭……、つけてたのか?」
「心外」トリックスターの予兆を垣間見せて、桜庭灰霧が僕を横ぎる。「良い感じの雰囲気に声を掛け辛かっただけ。特に恩田君が」
「お前の眼は節穴だな。あと最後の言葉は聞かなかったことにしておく」
「恩田君の眼にはオセロが張りついていそうね」
「耳にポップコーンでも詰め込んでいそうな意味のわからなさだ」
「恩田君は猫を耳に飼っているのかしら? 煙に巻いてこの場が丸く収まると思っていたらとんだお笑い種だわ。罪を悔いて、しかるのちに根無し草を芽吹かせなさいな」
あれ? 益体のない言葉の応酬だと思っていたんだけど。
もしかして、いつの間にやら僕は貶められていたりする?
「ストーカーの捕縛は、風紀委員のお仕事なのかしら?」首を傾げてから、桜庭は下駄箱から上履きを取り出した。そしてどうしてか上履の底を打ち合わせ金属製円盤の真似事に興じる。「とにかく……、迎撃する」