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感情複合バッドステータス20

「ごめんあさーせ」

 歩調を緩めたのを好機と見て取り、アスファルトを踏みしめる回数を上昇させる。茹だるような外気に伴い背中の皮膚が落涙を訴えているが気にしない。優しさと余計なお世話をワイシャツに兼任させて、本懐を遂げるべく僕は歩を進める。これでも世間では姉思いの弟で通っているのだよ。一部でシスコンと評されているところが不本意では――!?

「そーい」

 顎をかすめる暴力に思考がぶつ切りになった。

 重心を失い、太陽に干された眼球がたちまち黒焦げになり視界を酩酊させた。眼球が覚える酔態に便乗して身体を後退させ、両脚に少しだけその余韻を愉しませる。それから目蓋越しに指をそっと当てて酔態したそれを押し潰した。

 やがて素面(しらふ)に復旧した眼球が、撲殺天使(未遂だけど)の認識を開始する。

 腰に右手を当てて前屈みになって、僕を眇め見るありすさん。暴力を持て余し振り子時計の道化へと変じた鞄を一瞥したあと、おもむろに姿勢を正し再度僕に視線を投射する。

「隣に立たせてあげてやんない」そしてにべもなくそう吐き捨て、一度頬を膨らませてから「今日のところは」と、舌でマシュマロをくるみ込んでいそうなもごもごとした声調で補足する。

「どうしても?」

 僕の質疑にありすは無言の首肯で応答し、

「だから今日は私のお尻でも堪能していりょっ!」ひとしきり僕を睨みつけ、上擦った声でそう宣言した。

「………」

「………」

 いや、言ってる傍から動揺されちゃあこちとら立つ瀬がねーんですけど。まあ幾ら幼馴染とはいえ、視姦は御免こうむりたいところだけど。

 僕の意向などてんで意に介さずに、ありすは踵を返しぷんすか歩き始める。もちろんありすの言葉を鵜呑みにするのはちゃんちゃら狂っているので、全体のシルエットが視界に収まるようにして所在のほぞを固めた。仕方がない。今日のところは見習いのスタンスに甘んじようではないか。情報が不足しているのも確かだからな。

 揃姉はあんな調子だし、ありすに至ってはときどき思わせぶりに振り返る(かんばせ)から察したところ、あいつから情報を抽出するには困難な気がした。もし仮に今すぐありすから情報を得ようとするならば、僕は性格の修正を早急に図らなければならない。

 しかし、鈍いなりにもさっきの言葉が含蓄を持った表現だとは概ね理解できるけど。

 だったらスカートの中を透視でもすれば良いのか、と思うところが僕の限界を如実に表していて笑えてくる。

「何か面白いことでもあったの?」

「いや、面白がるほうが変態だろ」

 振り返り不機嫌そうに訊ねるありすに、僕は平静を取り繕って応えた。

「意味わかんない」

 わからんでよろしい。

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