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感情複合バッドステータス17

 洗面所を兼任したバスルームをあとにする。

 まだ鼻にありすの体温の余韻が残留しており、それが温床となって実体のない質量を芽吹かせていた。

「あででで……」今だ痛みに苛まれ続ける鼻の表面を撫で擦る。「まるで鎌鼬(かまいたち)だな」

 もっとも実際に切れたのは、表面ではなく鼻腔なんだけど。

 しかし、気づかなかった点を踏襲するならば、どちらにせよそれは同義であると認識せざるを得ない。「顔を洗って来い」そんな揃姉の言葉で、初めて僕は自分の(かんばせ)の異変に気づいたわけだし。

「女の子の鼻に、勝手にティッシュを詰め込むやつがあるか」僕がキッチンに這入ってくるなり、開口一番揃姉はそう呟く。

 ありすの手のひらで圧縮された鼻を掻きながら、天井を見上げた。呆けていた幼馴染に処方できる最適な手段はあれくらいなものだろう。それよりも上位の方法はあるにはあるのだけれど、鼻の入り口に唇を押し付けて蝙蝠みたいに鼻血をちうちう吸ってみたりでもしたら、眼前の姑が夜な夜な欲求不満で憤りそうなので敢えてソフトな手段に落ち着かせたのである――と、冗談はほどほどにして。

「あれは不可抗力なのです。溢れ出る情熱(パトス)を堰き止めるには仕方がなかったのですよ」たはは、っと揃姉に愛想笑いを振りまく。

 揃姉は目を細めただけで、僕の言葉に言及はしなかった。コーヒーを嚥下したあと、カップをコースターに載せてテーブルに目線を置く。それから、僕にまた目線を配置して「で、嫁は?」、とテーブルクロスに惨劇を振り撒いた地獄少女の所在を訊ねた。

「家に戻ったよ。化粧を直さなきゃどうとかこうとか」

「そうか」揃姉は首肯して、何故かそこで相好を崩す。なんだろう君。

「今からありすを迎えに行って、そのまま学校に行くから」食器をシンクへ運びながら僕は言った。「テーブルクロス、洗濯機に放り込んでおいて」

「わかった」

「あ、洗濯機は回さないで良いから。で、食器は帰ってきたら洗いますので」

「わ、わかった。それはお前に一任する」

「あ、それと財布にレシートしか入ってなかったんだけど」

 尻ポケットから財布を取り出して、揃姉に証拠を開示する。

 椅子から腰を浮かせた揃姉は財布を覗き込み、眉間を揉みながら嘆息した。

「財布は、私の部屋のキャビネットにある」合法的に、勇者のアウトローな捜索を許可される僕。合法ついでに箪笥も捜査の対象に加味しようか。なんだかオラわくわくしてきたぞっ。というのはもちろん冗談ですの、あはっ。「好きなだけもっていけ」

「いや、揃姉凹みすぎだから」自暴自棄のステータス異常に(かか)った揃姉を嗜める。ちなみに頬は林檎病を患っております。

「わ、私は、凹んでなど、いない」唇を尖らせて抗議を漏らす揃姉、いとかわゆす。

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