感情複合バッドステータス16
僕の先走りすぎた指摘に、ありすの頬の肉が痙攣した。困惑をあけすけにさせた視線を僕に停滞させたまま、おずおずと指先が件のティッシュに接触する。ある切欠を境に、仄かに熱を帯びて朱色になっていた顔が、加速度的に深紅で染められていく。
意味を違えて羞恥の色に上書きされる様子を眺める中、自業自得とはいえ後悔の念が頭の中で蠕動した。自重という単語が今頃になって展開していたけれど、砲撃手なにやってんの!? って感じで、遅すぎる弾幕に絶望気味だ。
「にゃにゃにゃにゃにゃんでっ!?」そうありすは悲鳴をあげて、それから一拍おいたあと瞳孔を収束させ手で鼻を覆い隠す。明らかにありす自身の疑問と思しき声音だけど、擬人化された猫が狼狽するような鳴き声に聞こえなくもない。ありすの眼球を、猫のそれと連想したからかな。もしかしたら、ありすの中の人は妖精猫で、我輩は猫でなかった事実に驚いてるのかも。そういう可能性も考慮する。「ふななななななっ!?」
まああり得ないと思うのだが、罷り間違って仮に後者だとしたら、妖精王国ご帰還の際には是非とも鯉と蛇をお供に加えてほしいものだ。
しかし。
それが正しいか否かは、僕の裁量では決めかねるけど。
さて、妄想と懊悩はさておき。
「ところで揃姉。昨日の電話、もしかしたら揃姉の仕事と関係あったりする?」何の前触れもなく、そんな質疑をする僕を揃姉は流し目で一瞥し、そして黙殺する。
はい。では、肯定ということで。
そんな評価を下したあと、二杯目のコーヒーに口をつけた。
ありすに駄目出しされた荒唐無稽を嚥下する。しかめっ面している自分が容易に想像でき、そんな事実に少しだけ首を捻る。見た目もさることながら、味もグラン・ギニョール的とはこれ如何に?
「というか、血液の匂いが顕著なんだけど」カップに鼻を近づけて、くんかくんかする。しかし、ずびびびと音が漏れるのはどうしてだろうな?