感情複合バッドステータス14
「崇さあ、このジャムなんか錆びついてる」
カップを唇に当てたまま、顎を引いてありすの顔を眇め見る。口にトーストを咥えて
いるありすは、半ば睨むようにしてガラス製の瓶を見下ろしていた。うっかりフォアグラのペースト(ダウト!)でも奮発したのかと胡乱に思い、ラベルに綴られている文字列を目線で追ったけれど、それはなんてことはない普通のミルクジャムだった。
いや、斬新な味覚を提供している時点でミルクジャムはその普遍性を喪失していることになる。しかし、これは僕ではなく、ありすの視点から観測した場合に限っての事象であり、やはり僕にとってしてみればミルクジャムは普通のミルクジャムでしかないのだ。よって、幼馴染の尖った指摘には外連味を感じざるを得ないわけで、その演出には「てやんでぃ! おれっちのミルクジャムにケチつけようってのかい?」と、江戸っ子ばりに憤懣やるかたない気分すら覚えてしまうくらいである――まあ奴の歌舞いた顔を見なければの話しなんだけど……。
なんだかんだ言いつつも、テーブルを見つめたままトーストをはぐはぐ皆既月食しているありすさん。だけど、消失しているトーストに反して、鼻から供給されている液体は止まることを知らなかった。終いには、ぼたぼたと赤い斑模様をテーブルクロスに描き始める始末。
「あれ? 鼻から苺ジャム出てるよ」舌で上唇を端から端までなぞったあと、ありすはぼんやり天井を見上げる。「ミルクジャムに苺ジャムを混ぜると、鉄の味になるんだね……、知らなかった」
サンジェルマン伯爵も思わず大絶賛の錬金術ね。などど桜庭好みの突っ込みはおいておいて。
「いや、それはなぢだから」空想科学実験している幼馴染を嗜め、僕は椅子から腰を浮かせる。「そのままじっとしていろ。今ティッシュ取ってくるから」
「うぃ」
「病院とか行かないで大丈夫なのか?」僕とありすを交互に見ながら、揃姉は絶え間ない瞬きを繰り返す。「救急車呼ぼうか?」
肩を竦めて、首を横に振った。
遺憾ながら、揃姉の期待に応えられそうな病院はどこにも該当しそうにない。かろうじての候補の一つとして動物病院が上がったけれど、鯉の病気はその治療対称に該当するのかは、浅学な僕には図りかねる。
――というか魚類違うから。
いずれにしろ、揃姉の提案は徒労に終わることは自明だ。「ま、ティッシュ突っ込んどけばその内止まるでしょ――」
っと――語尾を殊更強調し、その勢いに乗じて程好く丸まったティッシュをありすの鼻穴に突っ込んだ。せ、積年の恨みを発散させただけだからね! べ、別に照れ隠しなんかじゃないし。などど、内心でツンしてみたけれどまったく萌えない。やれやれ、当然だけど。
「ふまっ!?」




