感情複合バッドステータス11
僕の裏側で、挨拶を交えたギミックの破綻をありすは自ら口にした。
「敢えてスルーしてたんだけどな」数歩下がってありすと対面し、ツンとお澄ましさんしている黒色のアイデンティティーをそれぞれ鷲掴みにする。「お前の突っ込みは、入間さん並に音速なのですか?」
「止めろ! 力が抜けていくっ!」いや寧ろ漲ってんじゃねーか……。僕にツインテールを持ち上げられ、猟師に狩られたあとの兎みたいな格好になっているが、眼球の表面を覆っている攻撃性はまるっきり狼そのもの。額を苛むフィジカルな苦労がいてーいてー。「うぐぐぅ……、追撃よろし!」
ありすのさらなる抵抗に備え身構えようと身体を緊張させたとき、ふと空間に木霊する笑い声が弛緩を呈する。
「その意味のわからないやり取りも、久しぶりだ」くすくすと指の隙間から声を漏らして、揃姉が可笑しそうに僕達を見上げていた。
お気に入りの映画を鑑賞する子供のような眼が、粘度を帯びて皮膚を這い回る。ありすの髪から両手を剥離させ。そして、抵抗と甘受を綯い交ぜにして膿みだされる拒否反応に、幼馴染の情報を摩り込み馴染ませる。
こいつも同じようなことをしているから、笑えてくる。
だから、まったく問題なし。
しばらく、それを繰り返していれば僕とありすはいつも通り。
きっと、細胞が僕達の関係を思い出してくれるはず。
それまでしばらくごっこの関係で。
嘘も吐き続ければやがて本物になるって言いますもんねぇ。
「やはり、嫁がいないとどうにも違和感が拭え切れなくてな」
――ふむ。
我が姉ながら、ストレートに欲求不満を吐露する実直さも、また萌えますなー。
「よっ!? よよよよよ――」
「ヨグ……、ソートス!」
ありすさんがどうやら時間連続体の外側から送信される暗黒電波で精神に異常をきたしたため、偽者でありますが、まかりなりにも魔術師でありますこの恩田崇めが、幼馴染に代わって外なる神に接触を試みた次第でございます。たっはー。
頭頂部から湧き上がる目一杯の疑問符を可視化できるくらいに、不思議そうな顔を揃姉は拵えていた。
というか、まったく噛み合っていない僕達なのである。
いやはや、水色さん成分は一筋縄じゃいかない模様ですな。
やれやれ――と。水色さんではない村上さんふうに自嘲することで自分を戒める。
「どうやらこの子、寝不足でバステ気味みたいねえ」
どん引きしている揃姉に愛想笑いを振りまいてから、ぽんこつしているありすの手を引きテーブルへと誘う。




