プロローグですらないメランコリー21
さて。
これで、恩田ハーレムに迎える面子が概ね揃ったわけだけど――
「あー」
思考がひりだすモノローグに羞恥を覚えながら、僕はソファへと倒れ込んだ。
リビングの滞留した空気が、皮膚の温度を上昇させることで空調の確保を推奨していたけれど、泥濘とした思考は身体へと伝播していて現状維持で妥協することを訴えている。
そのまま怠惰に身を任せる。
抜けきらない疲労はソファへと沈殿して、癒しを与える家具はその効果と相乗して睡魔を誘う小道具へと変化していた。
咽頭から競り上がる欠伸を噛み殺す。
仰向けになって天井をぼんやりと眺める。
「あー」思考を活性化させようと声を上げてみた。声は空気へ昇華されずに、高度を下げ僕に降り注ぐ。声を上げたのが返って逆効果だと評価してみる。しかし、まったく反省はしていない。「うー」
江戸川・フールフール・莉鈴――望む望まないに関わらず、僕達は再会した。赤い竜と獣の末路は、未だ見えていない。
桜庭灰霧――秘密結社同好会(仮)の創設に僕は巻き込まれた。彼女が、何をやろうとしているのか何を考えているのか、僕にはわからない。今後の動向に注目したい。
夢野かのん――桜庭と因果を結んでいる事実に驚いた。あと、あの変態外科医の関係者であるのはほぼ確定事項だろう。たゆんたゆんがゆんゆんとしていて、ぶちゃけ好きになりそうだ。
宮部現実――かつてのクラスメイトだという記憶はある。それ以外はまったくの謎。夢野先生のカルテで発見したのも何かの因果だろう。追々調べることにする。思い出せないのも気になるし……。
恩田揃音――要領を得ない通話。でも、僕の隣にありすを据えようとする意思は窺える。揃姉は僕にナイトの誉れを与えたいらしい。剣呑。剣呑。
夢枕ありす――とりあえず、幼馴染を再開することを約束した。お互い色々なものを棚上げにしているのは明らか。それを全て清算した先に辿り着くのが破綻だとしても、きっと僕はそれを享受するだろう。
村上水色――
「あー、うー」
天井へとだだ漏れる思考を遮断する。
投影された映像は急速に精彩を欠き、本来あるべき時間軸へと回帰していく。そして、泥濘とした思考は次第にクリアになっていくのだけど――
目蓋の裏にひりついている水色さんは、今日もご機嫌。
立ち直ろうとしている思考を一気に疲弊させた。
「息災です」
目蓋をそっと閉じ、未練を贈呈している水色さんの虚像を暗闇に溶け込ませる。
機能が回復するまで、あと数十分。
それまで、じっと大人しくするしか僕にはやることがない。
虚脱状態にある身体を緩慢に反転させて、ソファに顔を埋める。
できるだけ水分を身体から排出して、水色さんの成分を薄めないと。
おいそれと明日の行動基準も設定できないしね。
それでは皆さん、
僕は一時、降り注ぐ現実をまどろみに逃避させますので、
――どうか息災で。