第26話 筆記試験なんてサイコロ鉛筆転がせば楽勝でしょ?
……ざめよ…
…………目覚めよ
むにゃ…誰だ?
……………目覚めよっ!!
どわっ!!
「あ、レイ起きたわねっ!! もう試験が始まるわよっ。 やっと目覚めの魔法が効いて良かった。」
ここは冒険者ギルド…か?
天井が高い…、俺は天井を見ている。
視界の半分に何か直感的に顔を上げたら素敵なことが起こりそうなモノが写っている。
後頭部には素敵な感触…、ちょっと硬い?、これは膝枕かっ?
くっ!俺は紳士だ、気づいてしまった以上は飛び起きて頭の左半分に幸せを与えることなど出来ないっ!!
でも起きちゃうっ!!
--ごつっ
「あらんっ、急に動いちゃダメよっ」
トンコッツ(メス)ともカンワ妖精(?)とも違う新キャラっ!!
人族のオネェさん。
逞しい胸筋に頭突きをかました形になった。
なんでこの人に俺は膝枕をされていたんだろう。
オネェさんの後ろから声をかけていたのか、わざとじゃないよな?
「えっと…俺って宿でアクアと会ってから記憶ないんだけど、もうすぐ試験がはじまる?」
「うん、レイが宿屋で気絶しちゃってなかなか起きなくて…。 そしたら、同じDランクのジェンスちゃんがレイをここまで運んでくれたの。」
ジェンスちゃんは、アクアと同じ宿の隣部屋にいた王都のギルド所属の冒険者で乙女チックな話で意気投合して俺が合流するまでの間、一緒に行動していたらしい。
角刈りマッチョ、むっきむきで乙女言われてもなぁ。
「ジェンスさん、運んでもらってありがとうございました。 俺はレイオットです。」
「ちゃん付けで呼んでくれると嬉しいわ。」
「うっぷ。 あ、すみません、まだ体調戻ってなくて。」
危ない、吐きそうになった。
ごまかせたか微妙な判定だけど、良いタイミングでセイガが来てくれた。
「あーっ! いたいた、今までどこにいたんだよレイオット。 セリさんの飲み仲間に引きずり…いや、誘おうと思ってたんだけど、王都に入ってからずっと姿を見なかったから心配したよ。」
セイガ、酒くさいぞ。
酔っぱらってるのか、少し本音が出てたし!
「うん、いろいろとあってね。 あとお酒は20才を過ぎてからって決めてるんだ。(この世界の飲酒可能年齢は15才だけどね…)」
「えっ! それってセリさんの前で同じことが言えるといいね…。」
あっ、遠い目してる…。
言えなさそうだからセリさんには近づかない。うん。
「うぇいうぇーぃ♪ レイオット、イメチェンじゃん? ボクの真似とかイケてるぅ~♪」
やべ、屁んげ解けてなかった。
--すっ
「あれぇ? なんで戻すのさー! まっいっか、これでお互いオンリーワン♪」
「ねぇ! レイちゃん、この二人素敵ね。 アタシに紹介してよ。」
ジェンスちゃん…、んで、ここでライミアの反応は…
「角刈りマッチョ!! 二人も寄せて両成敗っ!? ぶぶぶばっ!!」
おーおー、鼻血を噴水のように…ぜんぜんぶれなかったよライミアさん。
あっ、ポーションで回復してる。
魔力温存しとかないと試験で何があるかわからないよな。
シリカルは…あっ、すごい視線で将来の有望株を物色してるぞ!
すげぇな、あんなに首が回るのって梟か狼顧の相を持つと言われるあの天才軍師ぐらいじゃね?
あとはセリさん、ウルス君だけど、ウルス君はこれだけ人が多いと探せないか。
「あ、ジェンス…ちゃん、こちらの二人は… 「おい!どけよっ!!」 あいてっ!」
後ろからドンってされて振り向くと白い特攻服にそり込み入れたお兄さん方がぞろぞろと…。
「「「 どけどけどけっ! どけどけどけっ! 」」」
「バカやろこんにゃろ!おめぇ!! 王都所属のギルメン様がお通りだぞっ! バカやろこんにゃろ!おめぇ!!引き殺されてぇのかっ!!!」
お揃いの刺繍入れてる珍走団が登場だな。
やべっ!
「あぁん? 何見てんだてめぇ? あーん?」
「み、見てないよ。」
「あ、誰にため口聞いてんだ? あーん?」
「あ、すみません。」
「勝手に謝ってんじゃねぇよ。 あーん?」
ヤンキー得意の無限ループにハメられたっ!!
面倒…。
「おい、何黙ってんだよ? あーん?」
「てめっ、ビビってんじゃねえよ、あーん?」
「お前、どこ中だよ? あーん?」
「ちょっと、あなた達、やめなさいよっ!!」
アクアっ!ダメだ、その入り方は一番不味いっ!!
「ひゅー、まぶい女連れてんなぁー♪」
「おい、お前にゃもったいねぇな。 あーん?」
やっぱり悪化したぁっ!!
どうしよ、このあとってそろそろ…
「お前らぁっ!! やめねぇかっ!!!!」
ほらほら、みんなー、ボッス来ったよーっ!!
って、ボッスも特攻服かと思いきや、帽子の機能が低下した破れた学生帽、学ランの袖から先は破れてむきむきの腕が自己主張している、ボタンはあるけど留めてない。
俺のボディを見てほしいのか上着の下には何も着けないスタイル。
学ランズボンはどこで転けたのか、膝部分が破れている。
からんころんと下駄が鳴る。
まじか、いつの時代の番長さんだよー、もうこの時代(前世ね)では久しく見ない野蛮なハイカラ略して蛮カラスタイル、一周回って逆に新しいっ!!
「おい、ガキィ…、兄貴に向かって舐めてんのかっ!? あーん?」
「レイっ! 言い過ぎよっ!」
えっ…?
『自分のボッスはボッスっす。 あの人はボスっすよ。』
うっさい、意味がわからない。
えっ、アクアのハエ子、何言ってんの?
って、セイガ達は俺をドン引きした目で見ている。
あーん?人はガンつけてきているし、番長は静かに肩を震わせている。
「…、もしかして声に出てました…?」
番長以外の周囲の人が、ゆっくりうなずく…。
「………、おい小僧…、これは…俺の矜持だ。」
「ですよねー、すっ、すみませんでしたーっ!!」
とりあえず土下座の文化ってラノベだけじゃね?
「てめっ、謝ってすむ問題じゃねぇぞ? あーん?」
「あーん?」 「あーん?」 「あーん?」
「「「 あーん? 」」」
ヤバい、このあとに『とっても大好き♪ ピーーー』でJAFじゃなくてJISでもない音楽系の協会から叱られる奴やっ!!
脳内に「あーん?」が鳴り響く、今日は眠れそうにないぜっ。
「くっ! これがコイツらのスキルっ!」
『んなわけないっすよ!!』
「……、お前、どこの所属だ?」
ボッス、放置しすぎてた。
所属…登録したギルドのことか。
「え、えっとアラソニークのギルドですけど。」
「「「「 はあっ? アラソニークつったらギルドランクCのとこじゃねぇかっ!! 」」」」
--マジかっ? --受けるっ! --お上りさんじゃん
--ざっこ乙 --万年Dランクギルド… --なんだイキってんじゃねぇよ
会場が一気にざわつき出した、なにこれ?感じ悪いんすけど?
「(レイちゃん達の所属ギルドってここ数年ランクが上がってないの。 でもそれは王都のギルドが将来有望な冒険者を引き抜いているからなんだけど、そういう話は外に出なくて…。 結局、万年Cランクギルドってバカにされるようになっちゃったのよね。)」
「ベアースさんのところか。 ふんっ、言葉遣いには気をつけることだな。 お前ら、もういい行くぞっ!」
番長…ベアースさん知ってるんだ。
「「「 へいっ 」」」
「けっ、命拾いしたなっ。」
「なによあれ、感じ悪いわね!」
「しかも、俺たちだけじゃなく、ベアースさんやリンファさん…それにアラソニークの皆をバカにされた気分だ。」
「悔しければ実力を見せればいいことだ。 レイオット、見返してやろう。」
「やっちゃうよ~ん♪ 頭かっち~んだね!」
チャランも多分怒ってるんだろう。
「「 ないわ~ 」」
一人は題材として、一人は男として…ないらしい。
そこは同じギルドをバカにされたことに怒ろうよ…。
「ふぅ、同じ所属ギルドの者として非礼を詫びるわ。 ごめんなさいね。」
「ジェンスちゃんが謝ることじゃないよ。 でも、ありがとう。 よっし、アラソニーク組は全員さくっとCランクに合格しようぜっ!!」
「「 おうっ! 」」 「「「 うんっ!」」」
ところで…
「ねぇ、試験って何やるの?」
「「「「「「 ずこーっ!! 」」」」」」
『ガビガビガビー、タッタッタッ、タッタカタッタタッタカタッタタッタカタッタ、タッタッタッ、タッタカタッタタッタカタッタタッタカタッター、ぴーぴぴっぴっぴーぴーぴー♪』
場面転換妖精さんは激レアらしい。
いや、だって俺はさっき着いたんだからね!
知らなくて当たり前じゃね?
試験の範囲だけど、マナー、野営、魔物の知識、クエスト、ダンジョンなどの筆記試験と、実技(戦闘訓練)だそうだ。
ある一定の基準を越えたら誰でもCランクになれる絶対評価が採用されていて合格率40%。
ちなみに、Bランクの試験は相対評価で年に3回の試験で合格率は20%未満、Aランクになると年に1回、合格率は10%以下だという。
ちなみに、Aランク合格者は王都出身者に偏っていて『王都判定』と言われている。
『王都の冒険者を絶対に選べとはいわない。でも競ってるのに、王都の冒険者に(合格を)つけないということは俺に逆らっているのかということになる。反対につけたら、お前なめとんのかと』
これは、王都の冒険者ギルド総本部の会長が言ったとか言わないとか。
ただ、試験会場には似つかわしくない豪華な皮張りの椅子がここからでもよく見える…。
あそこには会長が座るのだろう。
あぁ、果てしない冒険者の高みよ。
うん、筆記試験に受かる気がしない…。
「では、これより筆記試験を開始する! いいか、俺は試験の間はお前達の未来を考えるため、目を瞑っているが余計なことはするなよ? 隣同士で見せ合いっこしたり、誰かと相談して答えを考えたり、人の答案をカンニングしたら大変だぞ。 もう一度言う、これから俺は目を瞑るからな!」
ダメとは言わなかった。
試験官の目をかいくぐって答えを出す試験なのか、本当に瞑想してやりたい放題を黙認するの…あ、黙認なのか。
試験官、寝ちゃったんですけど。
あんなに見事な鼻ちょうちんを初めて見た。
--ざわっ おい、この問題…難しいぞ!
あー、なるほどね、カンニングしても難しいってわけか。
どれ気合を入れて…
第1問( マナー )
混雑した馬車では、お年寄りに席をゆずってあげましょう
○はい いいえ
回答欄にうっすら○印まで見えてるんだけど!
これ、カンニングの必要なくない?
誰だ、さっき難しいって呟いた奴。
第2問( 野営 )
テントの正しい設置方法は…どっちか選べ!
○テントの立てる手順が書かれた絵
テントを魔物にぶつけている絵
まじか?
第3問( 魔物の知識 )
野良オークと魔王軍残党オークを見分けよ!
見た目 で見分ける。
○腰みのがあるかないか で見分ける。
これ森人族に聞いたわっ!
知らない人はどっちを選ぶか分からないかも。
第4問( クエスト )
冒険者はクエストを受けましょう。
○そのとおり
一択っ!? ね、選択肢くらいあってもいいと思うんだけど!!
『…ボッス、こうなったら自分が答えを見てくるっす!』
「(ハエ子、何がこうなったらか分からんが俺はカンニングしない。 てか必要ない。)」
こっそり周りを見渡すと、みんなで答えを見せ合って相談してるんだけど!!
えっ、これ冒険者ならだいたい分かるだろ?
逆に俺が気づいていない罠が張ってあるのか?
うーん、だんだん心配になってきた。
「(…まぁ俺はいいからアクアを手伝ってやれ)」
『わかったっす!!』
ハエ子は手をこすこすっとしてアクアのほうへ飛んでいった。
アクアも大丈夫とは思うけど。
第5問( ダンジョン )
ダンジョンでは何が手に入る?
次の中から複数を選らべ。
名声 財宝 友情 努力 勝利
待て、後ろの三つは某雑誌の三大原則だ。
第6問……、第7問……、第8問……
うっすら○印あるし、これでどう悩めというのかって問題ばかりだ。
ねぇ、誰かこの試験の意図を教えてください。
どうやったら60%が落ちるわけ?
第9問( ジャンプアップ問題、正解者は得点2倍 )
あなたにとって冒険とは…?
簡潔に述べよ。
『 』
おい、いきなり深い問題来たぞ!
難易度、急に高いなっ!
だいたい得点2倍ってなんだよ、おかしいだろ!
ラスト問題( 会長問題、正解者は筆記免除 )
ギルド総本部で精力的に活動されておられるマントルート会長にお出しする『おもてなしセット』を全てあげよ。※複数回答可
『 』
マントルートのこと、ぜんぜん知らねーんですけど!!
しかも筆記免除って会長に近しい人ってこれだけ解ければ良くね?
とりあえず満点は無理だけど、及第点は取れてるかなー。
ふぅ、なんとか時間内に終わった。
「…よし、やめっ!! 筆記試験終了だ。 周りと答えが違ったら今なら間に合うぞ! 俺はゆっくり答案用紙を回収する。 パスは1人一回までだぞ!!」
いや、もうどんだけーっ!!
結局、試験中どれだけ騒いでも試験官は一度も目を開くことはなかったし、書き直してるの待ってるし。
「アクア、どうだった?」
「うーん、自信ない。」
え?なんで??
「おばあ様に文字を習ってたからなんとか読めたんだけど、問題を読むのに時間がかかっちゃって。」
あ、俺は婆さんにこの世界の文字を小さい頃から教わったから試験問題は普通に読めたけど、この世界の人達の中には文字を読めない人もいるのか。
となると、頭でっかちばかりが昇級する試験になるから、脳筋冒険者のために筆記試験は甘くしているのかもしれないな。
まあ、どっちも自信なければ会長に取り入れば合格できそうだけど。
さて、次は実技試験か。
『がんばるっす!!』
いや、お前が言うのかい!
…やるぞやるぞやるぞー、おーっ!!
寝起きスタートが多い今日この頃。




