第24話 いくら仲間だからといっても越えられない壁ってあると思う。
朝の寝覚めが悪かったせいか、戦闘や魔法使用のせいか昼休憩は夢を見ることもなく爆睡してしまったようだ。
「よく寝てたわね。」
「まあ、多少は疲れていたんだろう。 アクアは休めた?」
「うん、特には何もなかったわよ。 プンちゃんが凹んでいたから慰めてた。 あんまりいじめちゃダメよ。」
「あぁ、それはハエ子には悪いことしたけど俺たちの仲間になるならハエ子の世界の郷土料理は許容できなかったんだよ。」
ハエ子はデフォルメされててハエの見た目でも多少の愛らしさを感じるからいいが、タッパーの中身…お前はダメだ!!
あんなもん人外とはいえ、幼女が食してるとかR18ものだぞ。
「まあ、レイがそう言うならそうなんだろうけど…。」
さて、昼休憩を終えて俺たちは広々とした草原を歩いている。
空からハッピーコンドルが襲いかかってくるし、足元には跳ね蛇が草むらに潜んでいて油断の出来ない場所だった。
魔物の強さは正直そうでもないけど、こいつだけが…
DQキメラが あらわれた! どうする?
(出たっ! 目線に黒い線をつけてても全体的にアレってわかる。 いろいろな諸事情に引っ掛かるから殲滅しないと!)
「レイ! あの頭がハゲワシで身体が芋虫のようなキメラには気をつけて!!」
アクア、描写するのはやめよう。
「くっそ、FFキメラよりは弱いはずだが…危険な匂いがするぜっ!!」
えっ!ちょっとニックさん、もう一つの会社のほうも存在すんの?
あ、合併したから?ねえ、そうなの?
(とにかく攻撃だっ!!)
レイオットの こうげき。
かいしんの いちげき。
DQキメラに 1897の ダメージ。
DQキメラを たおした。
(ふう、危険は去った…。)
なんと DQキメラが おきあがり
なかまに なりたそうに こちらをみている!
なかまに してあげますか?
はい いいえ
(正直ハエ子よりも仲間にしたい、頭も良さそうだし、ステータスも高そう。 だけど… いいえ )
DQキメラは さびしそうに さっていった。
(すまん、出会う場所が違ったならきっと仲間にしていただろう。)
このあとも、DQ○○やFF○○といった危ない魔物に襲われたがなんとか退けた。
ハエ子は魔物の死骸の周りを飛び回っていたけど、食べたいのだろうか。
やっぱ仲間から外そうかな。
「ボッス!、それはひどいっす!」
「あ、口に出てた。 すまん、すまん。」
「あんまり心がこもってないっす! ……ぐすっ」
「またプンちゃんを泣かせてっ!! レイ、やめなさいよっ!!」
「うわーん、アクア姐さーん。 ボッスがひどいんすぅ。」
くっ、ハエ子め、アクアに抱きしめてもらってこれ見よがしに俺にぱふぱふを見せつけてくる(気がする)から腹が立つんだよな!
「うらやまけしからん!」
「レイ…、聞いてる?」
「はっはい、アクアさん、まだ次の休憩まで先なんでその杖は下に置いていただきたい。 ちょっと打ち合わせしてくるわっ!!」
ここは逃げる。
ハエ子、覚えてろー。
さて、草原地帯をすぎて辺りが暗くなる頃、俺たちはアラソニークより小さな町に着いた。
今日はここで泊まるらしい。(町の入口付近の広場を借りてテントで寝る。)
町では温かい食事にありつけた。
ニックさん達は酒場で騒いでいる。
俺は時間があったのでトイレを掃除している。
『ボッス! 少し汚れを残しておいたほうが情緒があるっす!』
小さくなったハエ子がついてきた。
やっぱトイレは好きなのか。
「なんの情緒だよ! 『トイレの汚れは、心の汚れ』、ハエ子も復唱しろ!」
『いやっす、トイレは汚くてなんぼっす! まぶしいっす、ボッスの磨き方ヤバいっす!!』
そりゃ長年かけてどんなところでもピカピカにしてきた俺の磨きテクニックだ、ヤバくてなんぼだろ。
うーん、ハエ子ってどうして仲間になる気になったんだ?
『えっ?なんでっすかね~。 それはメ…(言っちゃダメな奴っす。) いえっ、ボッスから漂うそこはかとない臭いっすかねぇ。』
不本意である!ってアイツのせいだろ…これ。
『もぎたてオーレンジ』をとりあえずかけてみた。
『すんっ、すんっ、うーん、やっぱまだボッスから臭うっすよ。』
「それ…、アクア達に言ったら、ハエタタキで叩くからなっ! 掃除の邪魔するなら向こうに行ってろ!」
『わ、わかったっす。 じ、自分、先に寝るっすよ。』
「おう、おやすみ!」
たくっ、俺はトイレ掃除を邪魔されるのは嫌いなんだ。
『…あの…ボッス…』
まだいたのか!
むすっとした顔でハエ子を見るとおどおどしているように見えた。
『あっ、その自分、人族が嫌ってるのは知ってるんす。 それに自分、弱いっす。 でも…一生懸命、これから頑張るんで見捨てないでくださいっす。』
ペコッと頭を下げて飛んでいってしまった。
うーん、ちょっと価値観が合わないからって厳しくしすぎたか。
かといって、ここにある郷土料理を持って帰るのは無理だしな。
………どうしよ。
テントに戻るとハエ子はアクアの胸に挟まれて熟睡しているようだった。
羨ましい…じゃなかった、じっくりとハエ子の顔を見るとまだ幼い感じがする。
魔物としては成体になりたてってとこなのかもしれないな。
そうだすっかり死にスキルになってる鑑定を使ってみるか。
レベルが ひくくて わるかったです!
(いや…すみません。 ハエ子の鑑定してもらっていいですか?)
【ヤプンスキー】
レベル: 13
せいかく: がんばりや
しゅぞく:ビッグフライ
けいとう: あくま
タイプ: ひこう
おもさ: 27
ねんれい: せいたい
ボス: レイオット
のうりょく:【縮小】
【高速飛行】
【念話】…派生【人語】※仲間中のみ
【悪食】
とくしゅ:【メ■■ガのきまぐれ】
…やっぱペット枠いるだろ?こいつ魔王の素質あるから
将来は楽しみにしろよ。
ふーん、幼女の見た目だけどやっぱ成体なのか。
能力はだいたい想像がつくけど、とくしゅ…魔王の素質あるとか危なくて育てたくないのだが。
あの選択の余地なく仲間になってる感じ…、やはりアイツが裏で動いていたか…。
いきなり魔物が仲間って心配だったけどこれなら…一応…今のところは問題なさそうだな。
知りたくなかった事実もわかったけど、もっと早くに鑑定しておけば良かった。
ステータスがわかったけど、さっきハエ子に厳しく当たったことの解決にはならなさそうだ…。
こういうときは、素直に謝ろう。
『一方、その頃…』
ニック、ビオフェ、チャラン、セリ、シリカル、ライミア達は酒場で人事交流をはかっていた。
「…………」
「おい、ビオフェいきなり帰りたいじゃねぇっての!」
「シリカルはビオフェさん一筋ですっ!」
「ちょいちょいちょーい♪ まずは乾杯っしょー!!」
「ニックさんとビオフェさん…微妙か、今のところセイガとレイオットさんだよね…ぐひっ」
「はぁ、リーダー、まずビール飲んで自己紹介しちゃわない?」
「おう、それじゃ…ごほん。 昨日、今日と無事にここまで護衛できたことにアーク様に感謝をし、ここエディの若者達とのこうり…「「「「「「 かんぱーいっ!! 」」」」」」 おい、まだ…「「「「「 いえーぃっ!! 」」」」」」 …乾杯」
ニックの乾杯の声は誰にも聞こえなかった。
「あ、あのっ、ニックさんですよね? あたし、エディの町のファインです。 時々ニックさんパーティーがここにいるときからずっと気になってました…きゃっ!」
「ちょっとファイン、フライング~。 みなさん、私はシックです。」
「マジまじマジかよー! エディの町のレベル高くねっ? みんな可愛いすぎぃっ!! ボクはチャランだよ♪」
「町長の息子で、エディサンです。」
「おらは、ロックだぁ。」
「ニックさんがモテてるー♪ 私はシリカル。 ビオフェさんの嫁です!」
「…………」
首を振るビオフェ。
「……アサヒ、よろしく」
なんとなくビオフェとアサヒは見つめ合う…。
が、シリカルがカットイン!!
「アサヒちゃんか、よろしくね(シリカルの邪魔しないで…)」
「……こくこく。(こわい…)」
「ライミアです、僧侶やってます。 エディサン君とロック君はもしかして幼なじみですか?」
「あ、そうです、俺たちずっと一緒…ってライミアさん?大丈夫ですか? ちょ、誰かティッシュを!!」
「はあ、みんな自由ねぇ。 セイガ君も大変ね。 はい、飲んで♪」
「僕は明日があるからそんなには…」
「セリお姉さんのお酒が飲めないの?」
「いえ…飲みます。」
「ライミアさん、おら達で変な想像してねぇだか?」
「おいおい、ロック。 この子は僧侶だぜ?」
「そんだけども…。」
お酒が進み……
「えっ!すっごーいっ! ニックさんてFFドラゴン倒したことあるんです? ファイン憧れちゃう!」
「おっ? いや、そんなことも…あるのかなぁ…な、ビオフェ?」
「…………」
「ちょっとニックさん、ビオフェさんはシリカルと話してるの!!」
「あー、そりゃすまんかった。 FFドラゴン退治といえばビオフェもやってたからな。」
「「 えっ、ビオフェさんもすっごーいっ!! 」」
「ねーねー、シックちゃん、ちょっと二人でカウンターで飲まねー?」
「えー。どうしよ。 私、そんなに軽くないっていう 「ボクもドラゴン楽勝だよー」 行きます!」
「……すごい。」
「…………」
少し嬉しそうなビオフェ。
「ねぇ、ビオフェさん? シリカルはここにいるよ? ちゃんと捕まえてくれないと飛んでっちゃうよ? 風船みたいに飛んでちゃうよ?」
「…………」
「……話をきかせて」
「…………」
アサヒに向き合うビオフェ。
「えっ? 無視なの?シリカルを無視するの!? ちょっとひどくなーい? ……………っ! ねぇ、エディサン君って次期町長になるのかな?」
梟のようにぐりんと首だけを回してエディサンを見据えるシリカル。
「ひっ、そっ、そうかな。 …あー、俺よりもロックはさ。 あー見えてすっげぇ金持ちなんだぜ?(すまないロック)」
--きりきりきりきり…
(シリカルスキャン開始)
【ロック】
職業:大農家
年齢:23才
年収:大金貨3枚※豊作時は5枚
装備:上品な服、上品なズボン、金の腕輪
「えっ、えっ? そうなの? ねぇ、ロックさんって素朴な感じがシリカル好きかも…。 (年収が大金貨3枚って遊んで暮らせる…。)」
「(エディサンてめぇ) お、おらはそんなに言うほど持ってねぇだよ。 シリカルさん、悪いけど「ウソよっ、平均年収が大金貨3枚ちょっとだったらニックさんと変わらないぐらい稼いでるわよっ!!」 なんでわかってるだかっ!」
「(やっぱBランクよね!!) あっチャランさん、ごめんなさい。 ちょっとニックさんと話してくるわ。」
「あらー、ボクちゃん残念♪ ねっ、君さー、仕事終わったら一緒に飲まない?」
バーカウンターの女の子に意識を移すチャラン。
「ほらっ、男ならもっと飲めるでしょ!!」
「うっぷ! セリさん、ペース…早い…。 それに背中を叩かれると…でちゃう。」
ぷっ! きらきらきらきらーん
「「「「「 あっ! 虹っ!! 」」」」」
-エディの町の人事交流まとめ-
・ビオフェとアサヒがいい感じに成立。
・ニックはファインとシックのバトルに巻き込まれて不成立。
・チャランはバーカウンターの女の子狙うが不成立。
・エディサン、ロック、ライミア、シリカルはカオス。
・セリとセイガは後にこの一件をきっかけに付き合うようになるが、それはまた別の話。
『それはさておき~♪』
「ハエ子っ! 今まですまんかった!!」
朝、俺はハエ子に土下座している。
「ちょっ、ボッス! いきなりなんすか!、それと謝罪するならヤプンスキーって名前を呼んだほうが誠意が伝わるっす!!」
あ、普通に名前がハエ子だと思ってた。
「いや、昨日、ヤプんす?…が俺の仲間になってくれたのに俺ときたら『うっそハエかよ』とか『Gよりましかぁ』や『アクアぱふぱふ』って思ってて厳しく当たってしまって悪かったよ。」
「ヤプンスキーっす!! 結構、自分が考えてるより辛辣なこと思ってたんすね。 それと3つめはボッスのやりたいことっすよね!!」
「ほんと悪かった…、ヤプ…ハエ子 「諦めるの早いっすね! もはや自分の名をハエ子以外で呼ぶ気ないっすよこの人っ!!」 が何の役に立つのかも分からないし、選択の余地もなかったけどこれからよろしくな!! あ、町の人に話つけて畑の肥溜め使っていいって言われてるから今からでも食事にしてきていいぞ。」
トイレ掃除のお礼を言われたときに話をつけておいたんだ。
とても不本意な目で見られたけどな!
「だぁーっ!! 自分、諜報とか情報収集や敵の注意を逸らしたりできるっす!! 少しは期待しろっす!! ふぅふぅ…、それと誤解してるっすけど自分らビッグフライは臭いのは好きっすけど、食べる物は普通にボッス達と同じ食事っす!! だいたい自分の実家の郷土料理も人族の子どもが大好きな食べ物カレーっすよ。」
うっそ!まさか俺は先入観からハエ子の実家のカレールーを誤解して捨てさせたってこと?
それよりも異世界にカレーが…?
ビッグフライお手製カレー…、これって勘違いした俺が悪いの?
「すまん! そこも誤解していた!!」
俺はもう土下座から土下寝にポーズを変えて謝っている。
「…レイ、プンちゃんときちんと話してあげないと。 まだ小さいんだから。」
そいつ成体だぞ、見た目に騙されるなアクアよ。
「ボッス…、もういいっす。 顔を上げてくださいっす。 お互い文化の違いは仕方ないっすよ。 とにかく自分も頑張るんでよろしくっす。」
「ハエ子、お前のボスになったのに嫌なことばかり言ってすまなかったな。 よろしくな。」
そんなわけで俺たちはなんとか仲直りできた。
「ちょっとボッス! 自分と握手した手をズボンで拭くのやめろっす!!」
バレた。




