第23話 魔物が仲間になったからといって同じ系統の魔物が仲間だとは限らない。
「はあっ!! ごめんてーっ!!」
がばっと飛び起きてしまった。
えっと、ぶも…じゃなくて私は…でもなくて、俺は何時だっけ?
レイオットは こんらんしている!
「レイ、大丈夫? ごめんなさい、私、頭に血が上ってついやってしまったわ。」
その顔に後悔は見えないね!
「あいててて…、うん、暴力は良くないよ。 それで今はどんな状況だっけ?」
「レイが先頭集団を助けて、ヤプンスキーちゃんを私に押しつけて気絶したあとの話よね?」
そうだね、気絶したのは主にアクアのせいだけども。
ヤプンスキーは幸せそうにまだ寝てるな。
殺虫剤でも撒いてやろうか。
「自分の主食は肉っすよ~!!」
いや、どんな寝言だよ。
ハエらしくピーーーでも食ってろ…と思ったけど仲間になるのなら何の肉か知らんが肉を食べてもらおう。
うちのパーティにベーさんは要らない。
「えっとシーツさん達がケガをしたんで、出発時刻を遅らせて今は治療してるところかな。 あまりに臭いがひどいらしくて僧侶達が鼻つまんで詠唱するからうまく呪文が発動しないんだって。」
「そうか、じゃあ、手伝ってくるか。 出発が遅れちゃうと商人達に迷惑がかかるからな。」
「うん、それとニックさんが『今までバカにしてすまなかった、お前は立派な冒険者だった。』と伝えておいてくれって言ってたよ。 なんか、くっ、俺のために…とか傷を隠して…とか?ぶつぶつ言いながら戻っていった。」
過去形になってるけど死んでない。
「どうゆうこと?」
詳しく教えてもらうと、俺が気絶してすぐのタイミングでニックさんがテントまで俺の様子を見に来てくれたらしい。
そのときの俺の状態は、両肩の下と鳩尾辺りが陥没していて血を吐いて気絶していたそうだ。(アクアやりすぎ!!)
なるほど! 多分だけど、いい感じに勘違いされている。
・戦闘後、そそくさと去った俺 → ケガをしたがバカにされるから隠してテントに戻った。
・アクアにやられて気絶中の俺 → ケガが悪化して倒れた、若しくは死んだ。
「うーん、とりあえず生存報告も含めて手伝いに行ってくるよ。 アクアはそこのハエ子を見ておいて。」
「わかった。 だけどハエ子は可哀想だよ。 この子のことはプンちゃんって呼ぼうよ。」
ハエ子でいいと思うけど…、ヤプンスキーは長いからプンちゃんか。
俺がテントから出てきてニックさんのところへ行く途中、みんなにびっくりされた。
「ニックさん、皆さんの様子は…臭いですね、『もぎたてオーレンジ』」
「あっ! お前…生きてたのかっ!! 良かった、シーツとサンガのケガの治療が終わり次第そっちへ向かう予定だったんだが、なにぶん臭くて…詠唱がうまくいかなくて治療が難航していたんだ。 …って臭い消えたな。」
「そうですね、それと…『範囲善玉菌操作』」と同時に【浄化クリーナー】でシーツ、サンガを綺麗にしてあげる。
「「 うぅっ!! 」」
「お前ら、良かったな。 レイオットが治療してくれたぞ。 あとで礼を言っておけよ。」
「それからレイオット。 アクアちゃんには伝えたんだが、あらためて言わせてくれ。 今まですまなかった。そして、俺たちを助けてくれてありがとう!!」
おっと!
これは完全にマッチポンプだよな。
なんだか申し訳ないけど、今までのことを考えると説明するのも面倒だし、そのままにしておこう。
人間知らなければ良かった事実なんていっぱいある。
たとえば 『しばふ』
(へいっ、コマンド! ビークワイエットプッリーズ!!)
「いや…冒険者は助けあうのが当たり前ってベアースさんに教えてもらいましたからお礼なんていいですよ。 今後ともよろしくお願いします。」
「はっ、こりゃ完全に俺の負けじゃねぇか。 わかった、今後は一冒険者として扱わせてもらう。よろしく。」
ニックさんが手を差し出してきたので、しっかり握り返す。
「まっ、アクアちゃんのことは諦めてないからな。」
ぐぐぐっと力を込めてきやがった。
「大人気ないですね、俺も引く気はないですよっ!!」
「ふふっ、あんたたち、若いわねぇ。」
セリさんも十分若いと思いますが。
シーツ、サンガ、セリさん達からそれぞれお礼を言われて俺はテントへ戻っていった。
「ただいまっ、無事に治療してきたよ。 ついでにニックさん達と和解してきた。」
「おかえり、そう良かったわね。 私のほうも出発の準備をしておいたわよ。 そろそろでしょ?」
「うん、ビオフェさん達のところにニックさんが連絡に行ったみたいだからもうすぐだと思うよ。」
「んあ~っよく寝たっす。 ボッス、お腹空いたっす。」
「起きぬけに飯を食いたいだとハエ子の分際で!」
「いたいっす。頭を持つのはやめるっす!!」
じたばたと暴れているが、頭を掴んで上にあげているからハエ子は逃げられない。
「ちょっと! プンちゃんが痛がってるからやめなさいっ!!」
「…ねえ、その子はどうしたの?」
「うおっ! ウルス君、びっくりさせないでよ。」
思わずハエ子の頭を離してしまった。
「あ、ごめんごめん。 君を呼びにきたら小さい子をいじめているからつい。」
「いじめじゃないよ、これは教育だよ。」
「大人はそうやって折檻するっす!!」
くっ、人聞きの悪い…。
「わかった、これからは扱いには気をつける。 えっとウルス君、こいつの名はハエ子だ。 さっき、戦闘が終わったあとに俺に懐いてきたんだ。」
俺の使い魔ってなるとニックさん達に誤解が生じそうだったけど、さっきのニックさんの様子だと大丈夫だろ。
それにウルス君は余計なことは言わないタイプだし。
「ふ~ん、君ってモンスター使いの才能まであるんだね。 すごいや。」
「えっとウルスさんですよね、アクアです。 よろしくお願いいたします。」
「っ!! う、うん…よろしく…」
アクアの存在を忘れて食いつくってどんだけだよ。
まあ、ちゃんと挨拶できて良かった。
「自分はヤプンスキーっす!! ハエ子とか変な名前じゃないっすよ!!」
「で、ウルス君は俺をどうして呼びに来たんだっけ?」
「スルーっか! 定番っすよね。 わかるっす!」
わかってくれたかハエ子よ。愛やつじゃ。
「あっ! なんだったっけ?」
ちょっとウルス君っ!!
「忘れたの…? まあ、いいや、そろそろ時間だしウルス君も思い出したら教えてよ。」
「うーん、うーん…、わかった!」
立ち直り早いっ!
それじゃあ…。
「レイオット!、こっちに来てくれ。」
ニックさんのところに行くとビオフェさんもいた。
「あ、ニックさん達が呼んでるよ。」
ウルス君、遅い伝言をどうもありがとう!!
「おいっ! レイオット…お前……。」
えっ、ニックさんの表情が険しいぞっ!
しまったハエ子のことかっ!!
「は、はい。 なんでせう?」
ヤバい緊張してきた、疑われてしまえば元の木阿弥…。
「頭にハエが止まってるぞ! …その、冒険者だからある程度不潔になるのは仕方ないが…。」
ハエ子が小さいハエになってるだとっ!?
『自分、空気読めるっす! 小さくなれるっすよ。』
空気読めるなら頭に止まらず離れた木の枝にでも止まっててほしかった。
「うわ、しっしっ!!」
『ひどいっす! 手で振り払われると本能的に回りを飛びたくなるっすよ~!』
ハエ子が俺の回りをぐるぐると飛ぶせいで完全に不潔な男扱いされてるんだが…。
「…………」
ビオフェさんが、ニックさんに物言わぬ視線を送る。
「おっと…すまないビオフェ。 それじゃ打ち合わせの続きからだが、レイオット、お前に頼みがある。」
「? なんですか?」
ふむ、ニックさんはよく見ると貧相な顔をしている。
お金に困ってるのかもしれない。
だけどお金は貸しませんよ!
俺は財布を握りしめた。
「…なんか失礼なことを思ってそうだが違うぞ! この先に森があるんだが…」
ニックさんの話によると、アラソニークから王都へ行く道は二つあって、一つは森を迂回する遠回りの道、安全ではあるがとにかく時間がかかるらしい。
もう一つの道は、このまま森をつっきる近道。
遠回りだと王都まで10日かかるところを3日くらい短縮できるらしい。
ただ、森に住む魔物達の糞溜まりの近くを通るためかなり臭い。
通るだけで衣服に臭いがついてしまう。
『あっ、そこは自分の実家があるところっす!』
なるほどハエ子はそこから来たのか。
ビッグフライ達は臭いにおいに惹かれて近づいてくるため、俺の『もぎたてオーレンジ』で周辺を消臭しているうちに一気に森を駆け抜ける作戦を立てたそうだ。
「それじゃ、俺が先頭で消臭していけばいいんですね。」
「あぁ、頼めるか?」
「…………」
ビオフェさん、手を合わせてお願いって…。
「はい、もちろん大丈夫です!」
「そうか、助かる。 それじゃレイオットの持ち場はシーツ、サンガ、セリの3人に任せよう。 先頭は俺とレイオット、アクアちゃん。 後ろはビオフェ任せたぞ!」
「…………」
サムズアップで応えるビオフェさん。
この人、パーティーをどうやってまとめてるんだろ。
「はいっ! レイ、頑張ってね!」
「おう!」
前に行く途中で商人達からも感謝された。
なんでも日持ちしない商品があるらしくて早く到着できるとより高く売れるから助かるんだそうだ。
うっそうと茂った森の中に入ると、冒険者達が使っている道があった。
馬車も通れるくらいの幅はあるから商人達も通ることができそうだ。
入ってしばらくすると臭いが漂ってきた…。
「くせっ! レイオット、そろそろ頼むっ!!」
「わかりました。 では行きますよ! 『もぎたてオーレンジ』」
『ああっ! せっかくの癒しの空間になんてことするんすかっ!!』
ハエ子が文句言ってるけど無視しよう。
ビッグフライたちが あらわれた!
ビッグフライたちは いきなり おそいかかってきたようにみえた!
(おいでなすった! ん?、み、え、た?)
『あっ! 自分の見送りに家族がきてくれ… 「私に任せてっ! 『万物の織り成す力、対象を貫け。 ファイヤーランス』×6』」 たっす…』
『今の6匹は自分の家族っす…、でも大丈夫っす! 魔物の宿命っす。 自分、みんなの分まで強く生きるっすよ!』
いや、気まずいわ!
アクアはハエ子の言葉が聞こえてないから、すっかりやりきった顔してるし!
「あーっ! ニックさん、アクアっ! 向こうからも何か来てます!」
「どこだっ!!」 「くっ、次から次に!」
よし、今のうちに燃え盛るビッグフライ達にスザクからもらったポーションをぶっかけておこう。
ふう、ぎり間に合った。
「(おい、ハエ子! 今のうちにみんなを向こうに連れてってくれ!)」
『ボッス、ありがとっす。 みんなに挨拶してくるっすよ!』
ハエ子とその家族から手をこすこすと合わせられた。
ハエ流のお礼のポーズらしい。
「うん、いいからお前の仲間にしばらくこの辺に近づかないように言っておいて…」
婆さんが貴重って言ってたポーション…まあ、いっか。
「向こうには何もなかったぞ!」
「すみません、気配察知には何か反応したんだけど…。 『もぎたてオーレンジ』、さあ先を急ぎましょう!!」
ごまかせたか?
「レイ! さっきのビッグフライ達が向こうに逃げていくわ! このまま追いかけて棲み家を殲滅するわよっ!!」
いや、アクアの情熱がすごいぃっ!!
「…アクア、あれハエ子の家族。」
「…………。」
あっ!いっけなーい!!
てへっ。
ジェスチャーは、大きく開いた口を手で隠して、こめかみをこっつん、舌をぺろりん♪
「シリカルさんの真似してもダメ、ハエ子は気にしてなさそうだけど、あとで謝っておけよ。」
「だって魔物はサーチアンドデストロイって…、おばあ様から教わったから。 そういえばプンちゃんも魔物だったわね。」
ハエ子が女の子の格好でテントに飛び込んだから良かったけど、もしビッグフライの見た目だったらアクアにデストロイされてたのかも…。
「ほらっ! 消臭の効果があるうちに先に進もう!」
なんとか俺たちは森を抜けることができた。
「全員、無事かっ!? 点呼を終えたら休憩するぞ!!」
森の出口付近に小川があってそこで休憩をすることになった。
護衛クエストか、みんなのペースに合わせつつ、行程の管理と周辺の警戒…普通に魔物討伐クエストのほうが楽かもしれないな。
そういえば余談だけど、シリカルさんはビオフェさんに狙いを絞ったそうだ。
今もビオフェの近くにシリカルさんがいる。
ビオフェさんは両手を交差してバツ印で抵抗しているけど、シリカルさんはめげていない。
うん、護衛クエストは面倒だな。
今後はなるべく受けないようにしよう。
『ボッス、父ちゃんから餞別もらったっす~♪』
ハエ子がタッパーのようなモノを抱えて嬉しそうに飛んできた。
色合い的にもビッグフライの餞別のイメージからも………
「……ハエ子、ソレはその辺に捨てなさい。 『もぎたてオーレンジ』と【浄化クリーナー】」
『え~! 自分、肉が好きっすけどたまにこういう郷土料理も欲しくなるんすよね。』
「えっと俺の仲間でいる間…、ハエ子の郷土料理は作る、食べる禁止ね!」
『ひどいっす! 横暴っす!!』
いやなら帰れっ!!
せっかく締めたのにハエ子のせいで締まらなかった!!
ナニカにつくづく縁があるなぁ…。
小さくため息を吐いて軽く寝ることにした。




