第21話 さあ、出発っ、いま、日が昇る。
母さんのいるあの空の下…。
「おっし!! 全員揃ったな!」
ベアースさんを中心にずらりと並ぶ冒険者達。
強面の人もいればヘェアリーサークルの範囲を狭めないとわからないほど気配が薄い人がいる。あっ目が合っちゃった。
「これからお前らは商人達と一緒に王都まで行ってもらう。 この中にはCランク試験を受ける奴もいるとは思うが、試験のことばかり考えて本業を疎かにする奴に冒険者はつとまらねぇっ!!」
つとまらねぇっ!!もっともだ。
シーツ達がにやにやとこっちを見てくる。イラっとする。
「いいか、クライアントの安全が第一だ。 クライアントの命そして財産、その次がお前らの安全だ。 冒険者として恥じる事のないようくれぐれも頼んだぞっ!!」
「「「「「「「「 おう!! 」」」」」」」」
「「「「「「 はいっ!! 」」」」」」
一気に緊張感が増した。
さすがギルドマスターって感じだよなぁ。
「護衛のリーダーは、ニックだ。 ニックのパーティが先頭、馬車の両サイドがDランクの奴ら、後方はビオフェ達が守れ。」
ビオフェさんは、Cランクパーティーのリーダーだったはず。
やっぱりニックさんがリーダーか、シーツ、サンガ、セラ達は同じパーティだから先頭組か。
なるべく先頭には近づかないようにしよ。
ニックの挨拶だ。
「今回、俺が護衛のリーダーをつとめることになった。 俺は時間を守らない奴や浮ついた野郎が大嫌いだ。 ちんたらやってたら置いていくからな!!」
時間は守ってるし、浮ついてないしっ!!なんでこっち見るんだよ。
だいたい、アクアを変な目で見てるのはお前だろっ!!
いくらBランクだからってこんなのがリーダーだと先が思いやられるな。
はぁ…。
「…ねっ、君さ。 なんで僕のことわかったの?」
ちょんちょんっとされて横を向くとさっき目が合った男の子がいた。
暗めの紺色の髪の毛、瞳の色は黒…濃紺か。
俺と同じくらいの年齢かな、少し痩せすぎな感じで近くにいても影が薄い。
「えっと…、わかったっていうか何か気配がしたから目を凝らして見たら君と目が合っただけだけど…。」
「へぇっ!! この町で僕の気配を察知することが出来るなんてギルドマスターくらいだと思ってたよ!! あっ、僕の名前はウルス。 レンジャーをやってるんだ、よろしくね。」
すごく目を開いたかと思ったらすごくテンションが上がってる。
ウルス君もCランク試験を受けるらしい。
冒険者としては1年ほど先輩になるけど、気軽に話してと言われた。
普段から目立たないようにしていて存在感を消しているらしく俺に気づかれたのがびっくりしたし、嬉しかったんだと。
ゲームとかでソロをやってると、無性に人恋しくなるときあるよな。
ウルス君とは仲良くなれそうで良かった。
ウルス君は見た感じだけど、身のこなしや立ち居振舞い、気配の消し方はベアースさん以上だから実力はかなりありそうだ。
「おい、そこのガキっ!! 準備出来たかっ? ちっ、ぶつぶつ独り言話してんじゃねえよ。 気持ち悪いな!!」
「おいおい、アクアちゃんに嫌われるぞぉ。」
「ぎゃははは!」
ニックに俺だけ怒鳴られた。
シーツ、サンガがそれに乗っかってきてウザい。
-お漏らしさせてやろうか?
いかん、悪用はダメ、絶対!!
ていうかウルス君は気配を消しているし…。
「(ズルいよウルス君…)」
「ごめんごめん、君はニックに目をつけられたみたいだね。 あいつは君の連れてるアクアって子が好きなんだ。 だから、君が目障りなんだよ。 あれでBランクの実力は本物だから気をつけてね。」
俺は小声だけど、ウルス君はどういう技術なのか俺だけにはっきり聞こえる声量でニックのことを教えてくれた。
「レイ、さっきから誰と話して…ひっ!!」
アクアが心配して話に来てくれたら、ウルス君に気づいて小さい悲鳴を上げた。
「ウルス君と話してたんだけど、リーダーには気配がわからないみたいで怒鳴られちゃった。ははは。」
「しっかりしてよね! レイがバカにされるのは私も嫌なんだからね! えっとウルスさん?」
あれ?ウルス君がどこかに行ってしまった。
「ウルス君も準備に行ったのかも。」
「そうかもね。 さっきはレイと話していたからわかったけど、今は全然わからないわね。」
そう言いながら、アクアは荷物を抱えた。
そろそろ出発か、まずは護衛クエストをしっかりとやろう。
「レーイ君っ♪ 一緒にいこっ?」
どわっ、背中に柔らかい温もりっ!
チラり派だけど、触る派に鞍替えしようかたたたたっ!!
「いひゃいょ、ひゃくひゃ、はなしへ!!」
「鼻の下伸びてたわよ! それから貴女も離れてっ!!」
「えー、いいじゃん♪ 別にレイ君と付き合ってるわけじゃないんでしょ?」
「ぐっ! だけど、レイとはずっと一緒だし…。 ていうかさっき会ったばかりなのにレイ君って馴れ馴れしくない?」
「シリカルわぁ、ぐいぐい積極的に行く女なのだ。ぷぅ。」
あざとい! これはちょっと引いたわ。
引いて顔をのけぞらしたらいい位置に谷間!!
「くっ!これが視線固定魔法かっ!!」
「そんなのないから!」
「おい!! くそガキがっ!! いつまでやってんだよ!! 置いてくぞ!!!」
なぜ俺だけに言うんだ…。
「ちょっと! シリカルっ!! ごめんなさい、レイオットとアクアさん、シリカルが迷惑をおかけしました。」
ライミアさんが迎えに来てくれた…、良かった。
「すまないレイオット、シリカルは気に入った男にはとことん行く奴なんだ。 アクアさんも気を悪くしないでくれ。」
「いえ、気を悪くなんて…そんな。」
ことはあるでしょ、ないならこっそり俺の足をぐりぐりするのやめて。
「いや、あんまり女の子に慣れてなくてどうしていいか分からなくてさ。 助かったよセイガ。」
「ふぐっ!!(女の子に慣れない…つまり?)」
ライミアさんが鼻血出してるけど、この人も苦手かも。
やっぱりアクアがいいな。足を踏むのをやめてくれれば。
「さぁ、僕たちも行くぞっ!! レイオット、向こう側は任せたぞ。」
「まっかせったよーんって、話題に乗り損なっちゃった!! あっ、アクアちゃん!! ボクはチャラン、覚えておいてほしいな。」
「ほらっ、あんたもこっちに来なさい。 待って…、チャランが入ってきたら…ぐぷぷっ。『万物の織り成す力、天使の癒し。 ライトヒーリング』 ふぅ。」
鼻血を治すのに、光属性の回復魔法使ってるし、どんだけ出血したんだよ!!
ダメだ、このパーティー、セイガ以外まともな人がいない!!
先頭、馬車の右側…、後ろのビオフェさんはまだ挨拶で少し絡んだだけだし、こんなパーティーで大丈夫か?
だいじょうぶだ、もんだいない!
(それ、問題あるやつ!!)
『それはさておき~♪』
コマンドの言うフラグは幸いにも成立しなかった。
この状況で使役獣に襲われたら正直危なかったと思う。
さて、やっと昼休憩か。
デスペに報告…アメスタンド王都に向かいますっと送信。
--ピロン♪ ピロン♪
こいつマジで暇だよなぁ。
「ねぇ、それって何の魔道具?」
うわっ!ウルス君、いつの間に後ろにいるんだよ。
「これ? …えーと、遠いところにいる人と手紙のやり取りが出来る魔道具なんだ。」
「へー、すごいね! 初めて見たよ。 教えてくれてありがとう。」
「便利だよね…、ははっ」
「少し疲れてる?」
「相手が寂しがりやでね。 毎日、三回は手紙を送らないといけないんだ。 俺はこの人に昔…すごく嫌な思いをさせられたから本当はすごく…すっごく嫌なんだけど仕方なくね…。」
ついつい愚痴がこぼれてしまった。
サネモルになりすますのもぶっちゃけ辛くなってきた…。
デスペの心配メールって、配下を思ってじゃなくて自己満足っぽいんだよな。
添付画像は誉めないといけないし、昔の武勇伝を何回も話してくるし、せめて話を盛って面白くするとか、アレンジしてくれないと飽きてくるんだよな。
……やべ、どろどろしてきた。
「あー、なんていうか…。 ごめん。」
どろどろモードにしたことに対してかな?
「あ、いや大丈夫。 こっちこそごめん、気を使わせたよ。」
「レイー? デスペの手紙終わった? ってあれ、誰かいなかった?」
アクアに視線を向けて、ウルス君に戻すとウルス君いないし!
「へ? さっきまでウルス君が隣にいたんだけど…。」
「私…、ウルスさんって人に嫌われてる?」
(そんなことはないんだけど…、僕は本当は人と話すのが苦手なんだ。 レイオット君、うまいこと言っておいて…)
ばっと振り向くと、うっすらと向こうへ走り去るウルス君が見えた。
どんだけ気配消すんだよ、ウルス君。
「あっ、ウルス君って人見知りらしいんだ。」
「…そうなんだ。 王都に着くまでまだまだ先は長いし、ウルスさんとも友達になれたらいいわね。」
「僕っ子は、レイオットさんだけに心を開いているのね! なるほどなるほど!(はぁはぁ)」
「ちょっと! ライミアさん!、また鼻血出てるから!! ウルス君がよく見えたね!!」
「あ、ボクっ子の幻聴が聞こえていたけど実在したんですね。 はっぷぅ!!」
おい、誰かヒールしてやれ。
「ちょいちょーい、ライミアちゃーん?、ボクたちを題材にしないでよぉ?」
チャランまで来た…ってことは!!
「ねぇ! そこをどいてよ。 レイ君とこに行けないじゃない!!」
「行かなくていいです。 貴女たち、何のご用ですかっ?」
アクアがブロックしてたけど気配消すのがうまい人が多すぎだろ!
ヘェアリーサークルの範囲は安全上はこれ以上狭められないし我慢するしかないんだけど…。
むっ! この気配はっ!!
--ひゅんっ
--ちっ! いくぞ…。
あの声はシーツか、石投げてきたよ。
頭に当たったら危ない大きさ!!
チャランにも当たりそうだった。
本人はうぇぃうぇぃ言ってて気づいてないのが救いだけど。
ニックの指示なのか、自分たちのやっかみで来たのか…。
休憩とはいえ護衛中なんだけどなぁ。
そんなに半年で追いついたのが気に入らないもんかね。
前世だと年下の上司とか普通にいたから俺は全然気にならないけどねぇ。
うーむ、どうしたもんかな…。
旅も始まったばかり雰囲気悪くするのも嫌だしな。
「って人が悩んでいるのにシリカルさん、なんで俺の腕に抱きついてるんですかっ!!」
当たってるから!
「(当ててるのよ?)」
ベタだけど実際にやられるとくるなぁ。
「いかんいかん! シリカルさん、ちょっと離れてもらっていいですか? 俺には心に決めた人がいるんで…「二人目でもいいっ!!」ってええっ!!」
「ちょっと、シリカルやめなさいって!! レイオットさんも二人とか三人とかそんな乱れ薔薇…ぶぶぶっ!!」
「きゃーっ!! 『万物の織り成す力、水の癒し。 ヒール』 ライミアさん、大丈夫ですか?」
ライミアさんが興奮しすぎて噴水のように鼻血を吹き出したから辺りが赤く染まってる…。
【浄化クリーナー】で綺麗にしとこう。
「おい、休憩中だからって気を抜いてんじゃねぇぞ!! ルーキーがランク上がってるからって実力勘違いするなよなっ!!」
ニックがわざわざ注意に来た。
確かに商人達も顔をしかめてこっちを見ているし、騒いでいたのは認めよう。
主にライミアさんとシリカルさんがだが!!
「なんだぁ? ルーキーは謝り方も習わねぇでCランク試験を受けようってのか。 はっ、Cランクも簡単になったもんだ!!」
「あの…ニックさん、騒いでごめんなさい。」
「アクアちゃんはいいんだよぉ? そうだ、お昼まだなら一緒に食べないかい?」
変貌しすぎだニック。
「…い、いえご飯食べましたので結構です。」
「そう…、おい、ルーキー、次騒いだらお前だけクエスト失敗扱いにしてやるからなっ!!」
「はぁ。」
なんとなくだけど騒がなくても俺を失敗扱いにするような気がする。
それだったらさっさと馬でアクアと王都に行ったほうが早いかも?
「ちっ! 気のない返事しやがって!! もうすぐ出発だ、お前らも持ち場に戻れよ。」
「なにあれー、シリカル怖かったぁ。」
「レイオットさん、その…ごめんなさい。」
「……申し訳ないんですけど、俺も大人しくするんで王都までシリカルさん達も持ち場から離れず休憩してもらっていいですか? まぁ、あの人のことだから、俺だけクエストを失敗って形で報告しそうですけどね。」
「…レイっちごめんな?」「はい、そうします。」
「えっ? シリカル的には納得できないよ?」
えぇ…、なにこの人…。
「だって騒いだのってアクアさんとライミアちゃんでしょ?」
それはそうだけど、そもそもシリカルさんがこっちに来るからライミアさんが呼びに来てると思うんだけど…。
「はぁ? なにそれっ!?」
「アクア、声をおさえて…」
「シリカルさん、ごめんなさい。 二人目とかも無理です、俺もアクアも護衛クエストは初めてなんで集中させてください。 お願いします。」
「………、えっ?シリカル別に君のことなんとも思ってないよ。 ちょっとからかっただけで本気にしちゃった? お姉さんのおっぱいが柔らかくてごめんね?」
急に雰囲気変わった…?
確かに柔らかくていい匂だだだだだだっ、アクアさん、そこは掴んだららめぇ!!
「…そうですか、ではお互いクエストを頑張りましょう。」
「レイオットさん、本当にごめんなさい。 この子、熱しやすく冷めやすくて…。」
急速冷凍しすぎだろ!
まあ、いいけど…告白してないというかむしろ振ってるところを強引に俺が振られた感じになってるんですけど。
シリカルって【美人局】とかスキルで持ってそうだな…。
「レイオット、どうした? …ってすまない、また僕の仲間が何かしたみたいだね。」
主役が遅れてきたのでお仲間連れてお帰りいただいた。
説明はそっちで好きにやってくれ!!
さて、休憩のたびに疲れそうだよ、そんな初日の昼下がり…。




