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ナニカに気を取られて死んでしまったけど、凶悪スキルを手に入れたので、新しい人生は楽しく生きたい。  作者: yatacrow


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第19話 野良オークの見分け方



第一森人族( コンポレさん )の案内で、森人族の村…というか集落についた。


施設といっても、ログハウス風の家、畑、物置、共同トイレ(芝生)しかないし、コンポレさん一家とは他に三世帯が暮らしているだけだった。


ちなみに、人族との違いはほとんどなくて、主食が緑の野菜オンリーで生きていける、寿命が長い、温厚な性格が多い等、まとめると田舎のじいちゃん家のイメージだ。


家に案内されると、「腹へってねぇか?」「のどが乾いたろ?」とアラソニークで買ったと思われる栄養ドリンクとお菓子数点と野菜をすすめられた。

野菜はさっきのショックをまだ引きずっているので遠慮した。


そういえばグリンドールの婆さんも栄養ドリンクは常備していたな。

お年寄りの栄養ドリンク保持率をいつか調べてたい。


ちなみに、サンはコンポレさんの奥さんと一緒に畑の手伝いに出かけていてもうすぐ戻ってくるらしい。


待ってる間に、俺の森人族の勝手なイメージを伝えてみたところ、「あー、それは耳長族だな。 もっと南の方に行かねぇといねぇよ。 だいたい聖樹がそんなに生えてたらこの世界は森人族の天下だよ。」とがっはっはっと笑っていた。


聖樹とそこに住まう耳長族か、いつか俺のファンタジーを蘇生させるためにも行ってみたいもんだ。



--いっぱい採れましたねぇ。


--そうだな、手伝わせてすまねぇな。


--いえいえ、これぐらい大丈夫です。


「おっと嫁が帰ってきたな。」


「はぁ、ただいま!」


「よいしょっと戻りましたぁ。」


「お帰りお帰り、ちょうどおめぇさんの迎えが来てるぞ。」


「迎え…ですか?」

コンポレさん達と同じような服を着ているから森人族かと思ったけど、服を干してる間だけ借りているのだろう。

それにしても、サンはポールさんの面影があるな。

娘は父親に似る。残念!!


「どうも俺はレイオット。 サンさんですよね? ポールさんの代わりに迎えに来ました冒険者です。」


「冒険者っ!! おとっつぁん…お金がないのに私…無理させてしまったぁ。」

あらら、頭を抱えちゃったよ。


「あっ、大丈夫。 今日は依頼を受けたわけじゃないから報酬いらないよ。」


「えっ?」


「ポールさんとのかくかくしかじかなんだよ。」


「まぁ! そうなんですか、ありがとうございます。 昨日はおとっつぁんの薬草がなかなか見つからなくて…。 月明かりの綺麗な場所で野宿をしていたところをコンポレと偶然お会いしまして…。 野宿は危険だからとお家に泊めさせていただきました。」

息を吐くように自然に嘘ついたな、この子。

月明かりの共同トイレはさぞや綺麗だったろう。


まぁ、年頃の娘がピーーーまみれとか話せないよな。

そっとしてあげよう。


「なぁに言ってんだぁ。 おら達の便所でごろごろ寝てて邪魔だったからこっちさ連れてきてやったんだ。 ほれ、おめぇさんの服も乾いてるぞ。」

コンポレさんの容赦ない追撃…、サンの森ガール装備まで渡された日にはもう弁明の余地もない。


あー、顔が真っ赤になってるよ。


「えっと、さっき俺もそこの芝生で寝転がってるところでコンポレさんに会ったんだよ。 人族なら誰でもひっかかるトラップみたいなもんだからさ。」


「…そうですよね。 なんかありがとう…。」

ダメだ…空気が微妙だ。


「おめぇ達、どうしたんだ?」

コンポレさんのせいだとは言えない。


「…いえ。 そろそろサンさん、ポールさんが心配してるんで帰りましょうか。」


「あっ、でもアスゲ草がまだ見つからなくて。 あれがないとおとっつぁんの咳が止まらないんです。」


「咳止め薬の元になる草か…、ポールさんの病気なら俺が治したから安心していいよ。 と言ってもしばらく安静にしてほしいんだけど。」


「えぇっ!! お医者に行くことも薬を買うお金も本当になくて…。 それで私、ここに薬草を探しに来たんですよ。 そうですか、私がピーーーで汚れた意味って…。」

安心したのか、やり場のない感情が言葉に出ちゃってる。

年頃の女の子から聞きたくない言葉でした。



ピーーー だけにもれてる!



(もーーーーー、ねっ、黙って!)



「アスゲ草ってこれかぁ? 森の入口にいっぱい生えてたろ?」


コンポレさん、その手にこんもり持ってるアスゲ草をサンに見せるのはやめたげて。

サンが自己嫌悪の海で溺れているからぁっ!!


まさかの入口付近にお目当ての薬草があったのを見逃して、さんざん探したあげく休憩で寝転んだ場所が森人族のお花畑で森ガールがピーーガールになった。

むーざん、むーざんと呟きながら森ガール装備に着替えるサンは少しだけ怖かったのは内緒だ。



--ずうぅん ずうぅん



地響き!?


「コンポレさん、この音はっ!?」


--ずうぅん ずうぅん どごぉん どごぉん



「ぐすっぐすっ…ひゃー!!」

サンも泣いたり驚いたり忙しい。

音がだんだん近づいてくる。


「さぁてな? おらも初めてだ。」


「コンポル達の家の向こうから聞こえてくるなぁ あいつら無事だか?」


「とりあえず行ってみましょう!!」



--どごぉん  どごぉん



オーいちさんより一回りでかいオークの頭が向かいの家の屋根からちらっと見えた!


「オークか!」


「オークだと? この辺にはオークはいねぇよ。 はぐれただか?」



--ざしゃ! ばきばきばきぃっ!!



集落の囲いをへし折って一匹のオークが入ってきた、俺はとっさに短剣を構えたが様子がおかしい。

ふらついている。


「ふごっ…(お腹空いたわぁ…)」


--ずうぅん


「倒れちゃったっ」


「はぐれオークかぁ? 他にいねぇな。」


「腹が空きすぎて倒れたみたいですよ。」


「そったら、とりあえず母ちゃん飯を用意してくれや。」


「あいよぅ♪」


「えっ!? オークですよ!」

サンが本能的に身構えている。


「ほれ、こいつの格好見てみろ。 野良のオークは腰みのしか履かねぇ。 こいつは元魔王軍のヤツだな。」

へー、腰みので判別するのか、オーいちさんも確かにごっつい装備をつけてたな。


「元魔王軍って野良より危ないのではないですか?」

サンの意見はもっともだよな。


「いんや、元魔王軍なら人族に怨みはあってもおら達にはねぇからな。 安心しろ。」


いや、我々は人族なのですが…。


「「コンポレさん?」」


「んあっ? あー、そうだったおめぇら人族だった。 そしたら、今のうち帰っとけ。」


「…ふご(待って、そこの男の子…ベルトを見せてくれないかしら。 危害は加えないと約束するわ。)」

気がついたオークに話しかけられた。


「レイオットさん! 近づいてはいけません!!」


「大丈夫だよ、俺はオークの言葉わかるから。」


「えっ、じゃあレイオットさんがオーク…っ!?」


「サンさん、落ち着いて? 俺は人族だよ。」

混乱しすぎて俺までオークにするんじゃないよ。


「えっとこれですか?」

オークにベルトが見えるように腰を向ける。


「ふっごぅ!(あぁん、いい腰ねん! もっと!もっと近くにぃ!!) ふぎぃっ!!」

俺のパンチでオークが吹き飛んだ。


「あ、生理的に拳が出ちゃったごめんなさい。」


「おめぇ、弱ってんだから乱暴はダメだよ。」

ごめんなさい、つい反射的に手が。


「ふごっふごっ(この私を浮かせるなんて…、坊やいいモノ持ってるわねぇ)」


「えっと用がなければ帰りますけど?」


「ふごっ(あぁん、つれなーぃ♪ ごめんなさい、待ってそのベルトはどこで手に入れたの? それはトンテーキ様の…あぁん、あの勇姿を思い出すうぅん♪) ふんぎぃ(あづぅっ)」


サンがファイアーボールを撃ちこんだ。


「こら、森で火を使うなぁっ!!」


「あっ、つい…ごめんなさい。」


たぶん、サンも生理的に無理なのだろう。

人族とオークの間の溝は深いみたいだよオーいちさん。


「トンテーキは俺の剣の師匠で、このベルトはばあちゃん家を旅立つときに貰ったんだ。」


「ふごふご(なんと!トンテーキ様はご無事なのね? ねぇ、どこにいるのかしら?)」


「えっと、貴方とオーい…トンテーキとの関係はなんですか?」


「ふごっ(私はトンコッツよぉ、貴方じゃなくて貴女って呼んでちょうだい。 心は女なんだからぁ。)」


くっ、危うく反射的に蹴ってしまいそうだった。


「はあ、で、トンコッツさんとトンテーキの関係は?」

話が進まない、つい尋問口調になってしまう。


「ふごふご(元部下よ、魔王軍が勇者達のせいで散り散りにされて以来、あの方をずっと探していたの。 無事なのね!?)」


「グリンドールって俺のばあちゃんと一緒に不思議の森で元気に住んでるよ。」


「っふ! ふご!(グリンドールの魔女とっ!? …事情がわからないけどそうなのね。 不思議の森…道理で見つからないはずだわ。 坊や教えてくれてありがとう。)」

…ごめん、オーいちさんの居場所教えてしまった。

俺たちについてアラソニークに来ても困るし…。


「おめぇの知り合いか? とりあえず飯を食ったらそこの囲いを直すように伝えてくれや。」


「知り合いの知り合いなので赤の他人です。 囲いのことは伝えますね。」


「ふごぅ!(あん、いけずぅ! 囲いってさっき私がふらついたときに掴んだ板のことねぇ。 ごめんなさぁい、必ず直すわねん。)」


「きちんと直すそうですよ。 サンさん、反省してるみたいだからファイアーランスの詠唱はやめよ?」


「『万物の織り成す力、炎の槍よ対象を貫けファイアーラン…えっあ、はい。」


ぎりぎりだ、あと一文字で焼きオークが完成してたな。


「それじゃ、コンポレさん、俺たち行きますね。 ポールさんが心配してるでしょうから。」

トンコッツのせいで忘れてたけど、人探しのお願いはまだ終わってないんだった。

安静にしてくれてるとは思うけど早く帰ってやらないと。


「あっ、そうですね。 コンポレさん、皆さん、お世話になりました。 おとっつぁんが元気になったら二人で挨拶に来ますね。 お土産を買うお金はないですけど…。」

まあ、そういうのは気持ちが大事だし、コンポレさん達も求めてないはず。


「おう、この野菜を持っていっていいから気をつけて帰れよ。 また気軽に遊びにおいでぇ。」

大量の野菜を貰ったから食費を浮かすためにも後でサンにあげよう。


「レイオットさん、お世話かけますが私もEランクです。 この辺の魔物なら倒せますので足手まといにならないようついて行きますね。」


「うん、よろしくね。 コンポレさん達…またねっ! それとトンコッツさんもサヨナラっ!」


「おうさ!」


「ふごぅ。(『またねっ!』と『サヨナラっ!』に込められた意味がああぁんっ!!!!!)」


すっ、俺は短剣を抜いた。 サンは詠唱を開始した。


「こぉらっ!! おめぇ達やめれー!!」


「はっ! いかん。 ではもう行きます。」


「そうですね! ではコンポレさん、ありがとうございました。」

深々とお辞儀をしても、下がったシャツと胸元のすき間には深い闇だけで何も見えない。

アクアとの違いを発見した。


俺はチラリズム道を極めるため、如何なる状況でもチラリする可能性をあきらめない。



さいてい!



(否定できない…。)



ささっと無い胸元を手で押えられてサンにジト目で見られた。

女性って視線のセンサーでもついてんのかな?

異世界の不思議発見だ。



帰りのほうが早く感じるな、もう着いた。


「サンっ!!」

「おとっつぁん!!」


がっしりと町の入口で抱き合う二人。

ポールさんは安静にしてろって言ったけど、完全装備で森に出発する直前じゃねぇか。


まあ、気持ちは分からなくもない。

小学生の俺がナニカを下校中に催した時とかに草っぱらでこっそり野ナニカの処理をしていて帰りが遅くなったときとかは、母さんも心配して探しに来てくれたよな。

袋と替えのパンツを持ってきてくれるところに愛を感じた。


「レイオットさん、休みの日にも関わらず娘を探してきてくれてありがとう!! 君のおかげで体調も良くなったし、私もこれからしっかり働いて恩返しをさせてほしい。」


「おとっつぁんはしっかり治してください。 レイオットさん、ありがとうございました。 それと…その…芝生のことは…。」


「ポールさん、完全に治るまでは安静にしてくださいね。 サンさん、俺も芝生のことは忘れますからサンさんも忘れましょう。」


「そうですね。 二人の秘密ですね。ふふっ。」


「レイオット君、娘が言ってる秘密とはなんだい?」

秘密だから言えませんが…ポールさんの顔が怖い。

さすがスリーサイズを知ってるだけある。


「ふ~ん、それは私にも教えてほしいかな。 レイ?」

ぬおっ! なぜアクアがここにいる?


「私もリンファさんから聞いてあくまでもお手伝いってことでレイを追いかけようと準備をしていたのよ。 レイが思ったより早く帰ってきたから準備は無駄になったけど。 そもそも森人族の村に行くなら念話でも何でも私にも声をかけて欲しかったな…。」

慌てていたからアクアのことをすっかり忘れていた!!

もし連れていった場合、芝生事件はアクアにも被害が及んでいただろうから連れて行かなくて正解。


「あら、レイオットさん、こちらの方は…?」

いや貴女まで入るとややこしいから!

ポールさんの目が怖い、アクアとサンはばちばちとやっている。


逃げよう。


「ああっ! ちょっと用事思い出した! またあとで!!『屁ビテーション』」


ここは元日本人らしく問題は後回しだ。



リンファさんの意外な一面、森人族との交流、トンコッツとの遭遇。

リフレッシュ出来たと思おう。


また、明日からクエストがんばろう!!



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