第18話 黙れ小僧っ!!とここで言う。
おはようございます。
休みだし、森人族の村に行こうと思っていても、ついついギルドに顔を出してしまう社畜精神が抜けない俺。
そして、せっかく行ったけどベアースさんの命令でクエストは受けさせてもらえなかった。
むしゃくしゃしたからギルドの共同トイレをぴかぴかにしてやった。後悔はしていない。
「お願いしますっ!! ごほっ、昨日…南の森に薬草を取りに行った娘が……まだ戻らないんです…ごほっ!」
「南の森での人探しになりますと…銅貨8枚~になります。」
「銅貨8枚…ごほっ、かき集めても銅貨2枚しかなくて…ごほごほっ」
「それでは依頼をすることができません。」
トイレ掃除から出てきたら、痩せて明らかに顔色が悪いおじさんが相場以下の報酬で頼み込んでいて、受付のリンファさんを困らせていた。
冒険者にも生活があるし、森の中に入るとなると危険を伴うからな。
でもまあ……
「リンファさん、俺は空いてますよ。」
「レイオットさん! まだいらしたんですか。 ダメですよ、規則で相場以下の受託は禁止されています。」
「いや、ちょっとトイレ掃除をしていまして…。 それより、その人も困っていますし、南の森ならそんなに怖い魔物いないでしょ?」
「まあ、ゴブリンとか角ウサギくらいですけど規則が…。」
「ごほっ、待ってくれ…。 娘と同じくらいの君にお願いするのは…ごほっ 無理を言ってすみませんでした、自分で行きますから大丈夫です。 君もありがとう。」
俺に行かせるくらいならって諦めちゃった。
うーん、リンファさんの立場的にどうしようもないし、冒険者が相場以下で依頼を受けることはギルド的にも社会的にもよろしくないのは知ってるしな。
おじさんは肩を落としてとぼとぼ&具合悪くてふらふら出ていった。
「受けてあげたいのはやまやまですが規則に例外を作ると収集がつかなくなるので…。 こういうときはギルマスが対応するんですけどね。 どうせ昨日の夜、飲みすぎたとかでしょう。」
「いえ…、それよりあの人の依頼ってやっぱりギルドでは受けられませんか?」
「そうですね。規則がありますので…。 ただ…、レイオットさんがあの人から直接何かを頼まれることまでギルドは関与しません。」
おっと!
「っ! なるほどっ!! リンファさん、ありがとう!!」
おじさんを追いかけて、個人的に頼んでもらおう。
「いえ、私は何も知りません。」
相変わらずのクールだったけど、プライベートは人情味のある優しい人なのかもしれないな。
「おじさーん! 待って、待ってー!!」
おじさんがふらふらしながら南門まで歩いているのを見つけた。
「ごほっ 君は…さっきの…」
「おじさん、俺は今日休みなんだよ。」
「ごほっ…、そうかね。 ゆっくり休んでくれ…ごほっごほっ。」
思ってたのと違う答えが返ってきた。
「えと、俺がおじさんの娘さんを探してきてあげるよ。」
「ごっ、そんな…君はまだ若いし、森の中は危険なんだよ。ごほっ。」
「おじさんが行くより安全だし、俺はこれでもDランクなんだ。」
冒険者証をおじさんに見せると、びっくりした顔になった。
「ごほっ! その若さで娘より1ランクも上だったとは… ごほっごほっ…ごほっ」
「ちょっ、おじさん大丈夫? 善玉菌操作」
「おお…? 身体が楽になった!! 詠唱がなかったけど君が治してくれたのかい? ありがとう。」
そりゃ、お尻から出る魔力だから詠唱なぞない。
「いえ、苦しそうだったし。 あ、俺の名前はレイオット、おじさんの名前は?」
「えっ? あぁ、ポールだ。 君のおかげで一人でも娘を探しに行けそうだ。 ありがとう!!」
「いや、まだ安静にしとかないと体力は戻ってないんだからさ。 いいから俺に任せてよ。」
「なんで見ず知らずの他人にそこまで…。 身体を治してもらったうえに、娘のことまでは頼めないよ。」
「うーん、俺は困ってる人をほっとけないんだよ。 出来ることがあるならやりたいんだ。」
Eランクの冒険者であれば南の森に行って戻るくらい数時間もあれば問題はないはず。
昨日から戻ってきていないってことは、森でケガをして動けないとか森の奥で迷ってるとかだろう。
早く救出に行ったほうがいい。
「ぐす…、私は不甲斐ない…。 病を患って娘に迷惑をかけて…、助けにも行けないなんて…。 私がこんな身体でなければ…。」
それは、しばらく安静にしておけば体内善玉菌が元気にしてくれるからゆっくりしておくれ。
「ポールさん、それは言わない約束…ってああーっ!! 昨日のやつや!」
ってことは、昨日聴こえた会話って幻聴じゃなかったのか!
幻聴だと信じたかったのに!!
「……。 すまないレイオットさん、甘えさせてくれ。」
「では、早速行きたいので、娘さんの格好とか容姿、名前や特徴を教えてください。」
「わかった。 娘の名前は……」
【サン】
ねんれい: 15才
しょくぎょう:森ガール
せいべつ: おんな
レベル: 11
B: 70
W: 53
H: 62
もふもふのさらっとふんわりボアのダッフルコート、ちょっぴりショートのミニボトムで優しくミルキーなカラーの森ガールファッションらしい。
うん、全然わからない。
容姿については、ポールさんの親バカが炸裂したのでほとんど参考にならない。
とりあえず、ポールさんの死んだ奥さんに似ているということなので写真を見せてもらった。
ポールさんと同じで髪も瞳も茶色らしい。
聞いてもいない娘さんのスタイルをポールさんが知っていることに若干の恐怖を感じたけど一応メモっておく。
「それじゃ、ポールさんは家で安静にしてくださいね。 行ってきます!!」
『それはさておき~♪』
アラソニークの町を30分程南に歩いた先にある森、この森のどこかに森人族の村があるらしい。
昨日から戻らないサン(ポールさんの娘)は森人族の村まで行ってるのかもしれないな。
ヘェアリーサークルの気配察知だと、ゴブリンとか動物の気配がひっかかるからいまいち絞れない。
とりあえず、森人族の村までの林道を進んでみるか。
ゴブリンが あらわれた! たおした!
角ウサギが あらわれた! たおした!
さつじんバチが あらわれた! たおした!
オオワシが あらわれた! たおした!
・・・
スライムをたおした! オオワシをたおした!
たおした たおした つよい つよい!
とにかく たおしまくった!
もう さーちあんどですとろいでいい うぇーい!!
(いや、雑魚モンスターがわらわらエンカウントして選択肢を出すのが面倒くさいのはわかるけど、そこは頑張れやっ!!)
ちっ!
(こらぁっ!!)
やれやれだぜ
(やめんかぁっ!!)
さてさて!
さくさく魔物を倒しながら森の中を進んでいく。
一応、ヘェアリーサークルで人っぽい反応があれば覗いている。
だからこそのエンカウントなんだけど、コマンド妖精は働きたくないらしい。
森の奥に進んでいくと婆さんがつくった霧で覆われてる不思議の森と違って、木々の隙間から日差しが入って気持ちよい空気が流れている道を見つけた。
いかにも森ガールが好きそうな道だ。
この先に生命反応が固まってるところがある。
多分、森人族の村だと思う。
ここまで来て見つからないのなら、森人族の村で聞き込みしたほうが早いかもしれない。
うねうねと続く林道をさらに進むと急に視界がひらけた場所に出た。
芝生が敷き詰めてあってぽつぽつとカラフルな草花が咲き誇っていてとても綺麗だ。
気がつけば昼の時間も過ぎておやつタイムの時間じゃないか。
「んあー! 芝生に寝転がるとか久しぶりだなぁー!!」
我慢ができず、休憩がてら芝生にごろんしてみた。
前世の学生時代に講義をサボって芝生でごろごろしてたよなぁ。
リラックスするとお腹が緩くなってきて、すぐにトイレに行ってたなぁ…。
テンション下がるから思い出すのはやめよう。
今はリラックスしてもお腹に隙はないがね!
…なんだこれ?
顔を横に向けると綺麗な緑色のスライムっぽいのが落ちてる。
身体を起こして回りを見ると、手のひらサイズのグリーンスライム(仮名)に囲まれてた。
--ねちょっ
あ、お尻で潰してた…。
スライムなら核があるはずだけど、ほじくっても出てこない。
匂いは、少し鼻につ~んとするな。
ていうか動いてないから植物?、異世界の不思議植物か!
少し拾って持って帰るか。
--がさっがさがさ
人の気配に振り向くと、麦わら帽子に革製のチュニックとズボンの出で立ちのおっさんが籠を持って出てきた。
第一森人発見かもしれない。
「こ、こんにちはー」
やべ、よく考えたら言葉って通じるのか?
「はい、こんにちは。 あんれ、昨日から人族の子どもがよくここにいるな。」
なぜかなまって聞こえるけど言葉は通じるようだ。
昨日の人族の子ってサンのことかな。
サンの身に何かが起きて森人族の村に保護されていたのか。
それにしても、このおっさん、俺の格好や手に持ってるグリーンスライムもどきをめっちゃじろじろ見てるけど、もしかして取っちゃいけなかったか!!
「あっ、えっとこれはその…。 なんかコレって取っちゃ不味かったですか?」
「いんやー、持ってくのは別に構わんけど…。 昨日の子だが、おめぇもなんでそこで寝転がってたんだ?」
あ、俺がグリスラまみれになってるから、芝生に寝転がったのが分かったのか。
「なんでって、そこに気持ち良さそうな芝生があったんで寝そべってみたくて。 えへへ。」
「ふうん、人族の子どもは変わってんだなぁ。 それにしてもおめぇはソレ全部拾ったのか? それだったらわりぃんだけんど、おらにも分けてくんな。」
「あ、珍しかったんでつい取りすぎちゃいましたか。 はい、どうぞ。」
とりあえず手に持っていたグリスラを渡そうとしたら、「そこの籠に入れてくれ。」と言われたので集めたグリスラを籠に入れていく。
集まると酸味が強くなるなぁ。
『もぎたてオーレンジ』で柑橘系の匂いが広がってゆく。
「おじさん、コレって何に使うんですか?」
「おら達の畑に撒く肥料だな。」
待て、不穏な単語が出てきた…。
これ以上は聞いてはいけない、いけないけど…。
「はい?」
聞いちゃう。
「んだから、ここはおら達の村の便所! 緑色の糞を畑に撒くと作物がよく育つんだ。」
「オー!」「ノーッ」
グリーンスライムもどきが森人のピーーーだとぉ?
手にとって匂いをかいで、指でほじくったり、寝転んで頭についてるコレがピーーーだとおおおぉぉぉっ!!!!!
オー!ジーザス!! まさにシットじゃねぇかああぁぁぁ!!!!
「あぁ、やっぱり知らねぇでやってただか。 昨日の子もびっくりしてた。」
俺は速やかに【浄化クリーナー】を使用した。
持ってて良かったクリーナー。
忘れよう、さっきのことは…
『・・・・・・なにも!!! な"かった・・・!!!!』
ドンッ!!! じゃねえよ、俺バーカバーカ。
好きな剣豪キャラのセリフ使っても戻らねぇよぅおぅおぅ……
「だ、大丈夫か? おめぇ、そんなに泣き崩れんでも…。」
第一森人との初交流は最悪だったけど、あまり心配させてもいかん。
……よし。
「そ、そうだったんですね…。 あ、大丈夫です…。」
心は大丈夫じゃない。
--ピロン♪ ピロン♪
このタイミングでデスペかよ。
またなんか波動がどうとか喜んでる。テンション高いなぁ。
とりあえず大丈夫、落ち着けと送っておこう。
「あの…、ところで先ほどから俺の他にも人族の子がいるっておっしゃってませんでした?」
「あー、昨日の夜かな。 おら達の便所で寝てたもんだから用を足すのに邪魔だったんで村に連れてったんだ。」
「その子って女の子ですか?」
「そうそう、女の子だな。 便所のことを話したら気絶してな。 今は服を洗って乾くのを待ってるところだ。 おめぇは…あんれ?いつの間にか綺麗になってんだな。」
ビンゴ!
「良かった! その子のお父さんが心配してまして…。 俺が迎えに来たんですよ。」
「そうかぁ、森の中は弱いけど魔物がいるでな。 後でおらがアラソニークまで送ってやろうと思ってたんだ。 村に案内するからこっちさついて来い。」
いやぁ、ハプニングはあったけど、これで森人族の村を見学できるし、無事にサンも保護できそうだ。
レイオットの うんがあがった!
うん だけにね!
(だ、ま、れ!!)




