第16話 どこの世界にだって忖度はある。
8月7日。
次の話が一段落するまで投稿に時間かかるかもしれません。
うーん、ヤバいな。
意識が切れたのか、生命反応が減ってゆく。
って、これはひどい!
俺がたどり着いたとき、辺りは真っ赤に染まっていた。
ムチを持ったムチボインとサーベルを持った若い男、その目の前には、昨日俺が捕まえた盗賊頭…カンタンダが一人がっくりと頭を垂れていた。
「じゃー、死ねよ?」
男のサーベルが振り上げられるっ!!
【ナニカ支配】
--きゅ~ぎゅ~
「あれー? さっき食べたのに運動したからもうお腹空いたかな? いや、でもこれは…?」
「あらあらこの波動は…。おやぁ? 」
なんとか気を逸らせたけど、腹が鳴るレベルでしか効果がなかった?
ムチボインとサーベル男が俺の存在に気づいたようだ。
「とりあえず!! 『範囲善玉菌操作』」
「「「「 …うぅ? 」」」」
「…ひゃは?」
「おっ、お前らっ!! 無事だったか!!」
まだ動けないとは思うけど、間に合って良かった。
あとは、このムチボインとサーベル男を倒せば……あれ、そういやこういうときは、○○があらわれた! 的なの…コマンド?、コマンドさん?
ただいま るすに しております!
ぴー と なりましたら メッセージを どうぞ!
ぴーーーー♪
(コマンドオオオォォォ!!!!!)
「ちょっとぉ、せっかくじんわり死んでいくとこだったのに…ねぇ、あなた誰なの。」
あ!やべ、不機嫌なボインだ。
「おい、お前さー? 誰だよ? 姉ちゃんに色目使ってんじゃねぇよ。謝れ!」
詫びぬ!
「あっ!! お前は昨日のガキじゃねぇか。 おい、助けてくれ。 俺はあの女にはめら…っ!!」
--スパンッ!シュルルルルルッ!!
「もぅダメよぉ? 勝手に口を開くの禁止よぉ?」
カンタンダがムチで首巻き巻きだ。
「おい、大丈夫か? お前ら何者だっ!?」
「さぁ、何者か…ねぇ。」
「ぐぐ……コイツら…ボーイン…ボショク姉弟っ……殺し……屋だ……。」
「あらぁ、すぐにバラされちゃった♪ 私たちは、ボーインと」
「ボーショクだ!!」
「殺し屋って、カンタンダを狙ってるってことは、ビアンカに雇われたのか!!」
「んー、依頼人の名前を言うわけないわねぇ。 それより、可愛い坊やはどこのどなたかしら?」
「おい、可愛いって言われて鼻の下伸ばしてんなよ?」
伸ばしてませんし!!
「……そい…ビア……カ……だ」
やっぱり! ナイスだカンタンダ!!
「…で、……お…ま………レイオット!!…ぐぐ」
おいぃ! なんで名前だけはっきり言ったあぁっ!!
「ちょっ! ボーイン姐さん、ムチもっと絞めないと!!」
カンタンダの奴め、俺まで売るんじゃねぇ!!
「おい、なんでお前が姐さん呼びしてんだっ!! やめろ、そしてへつらえ!」
媚びぬ!
「ん~? レイオット…ねぇ、ボーショク、どこかで聞いてない?」
「あー、んー、わかんねー。」
「いまだっ! 【ナニカ支配】」
--ごきゅるるるる~ --ぐうぅ~
「この波動っ!!」
「こいつ、我が主のっ!?」
我が主って、まさかコイツら…
「あぁ、思い出したわ。 レイオット…、ビブリルの手紙で読んだわ。」
「ビブリル? もしかして我が主のお気に入りの魂かー? んじゃ、死ねっ!!」
--ぶぉんっ!!
危ねぇっ!!
コイツら、ナニカ支配が効きにくい?
「避けんなー!」
ボーショクのサーベルが速すぎて、対応がっ!
っいて!
「『タイダルヘイブー』ならっ!」
「お腹ゆるむわねぇ♪」
「効かねえな! おらっ!」
「…ぐ……腹…が……!」
ぐっ!、くそ、少しずつ斬られてる。
HPはまだあんのか?、なんで効かない?、コマンドがいればっ!!
「あー! もおおぉぉう、俺はアクティブタイムバトルって苦手なんだよおおおぉぉぉ!!!!!」
ヤバいぞ、これ。
勝てる気がしないんだけど!!
ご都合主義、カモーンヌゥ!!!!
--ピロン♪ ピロン♪
てめぇは、お呼びじゃねええぇぇぇっ!!
と、思ったらボーショクの動きが止まった?
ボーインは震えている。
「こ、この音…、おい! その手紙、誰からだっ!! なんて書いてあんだよっ!?」
「いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません、いません…」
ボーインの顔が真っ青だ、デスペの奴は何をしたんだぁ!?
「くそ、姉ちゃんのトラウマがこんなときにっ!!」
「手紙の差出人は、デスペシェイム。 内容は…」
《 サネモル、お昼の連絡がないのである。
何かあったのではないか心配である。
報告をするのである! 》
「なんでお前が、サネモルの携帯持ってて我が主と手紙のやり取りやってんだよー? てか、なりすましとか意味わかんねー。」
「その件は、かくかくしかじかだっ! そうだ、お前らの連絡先をデスペに報告してやるぜ!」
「やめろ! そんなことしたら姉ちゃんが…っ!!」
「ま…待って、待って、待って、ねぇ、待ってよ、ねぇ、ねぇ、待って!」
うわ、ボーインが怖い、迫ってくる。
「じ、冗談だ、教えないから! ね、ボーインさん来ないで。止まってよ。」
止まってくれた、怖かった。
まだ震えながらぶつぶつ言ってるよ。
「姉ちゃんはな、我が主の手紙が来すぎて心を壊したことがあるんだよ!」
「知らないこととはいえ、それはごめんなさい。 とりあえず定期報告入れさせて?」
「…ちっ、早くしろ。」
大丈夫、遅れてすみません。
立て込んでます、また夜にっと、送信!
--ピロン♪ ピロン♪
「ひぃひゃはぁ~!!」
「おい! マナーモードしとけやぁっ!! ダメだ、おい、今日のところは引いてやる!! 名前覚えたからなっ! それと、次に会うときはマナーモードにしとけっ!! 【異界食道】 姉ちゃん、行こう。」
空間が歪んで、デカい口が二人を食べた?
転移能力か?
なんにせよ、助かった…か。
デスペのメールは、なんか心配がどうとか面倒くさいから割愛。
さて、とりあえず証人は確保できそうだ。
「すまねぇ、助かったわ!」
「いや、俺はあんたらに死なれると困るからな。 悪いけどまた縛らせてもらう。」
「ちっ、信用ねぇな。」
盗賊の何を信用できるのか!
俺は収納袋からロープを出して、盗賊達を縛っていく。
最後に、「『範囲善玉菌操作』」
「おおおっ!! レイオットの兄貴、俺様はあんたに惚れたぜっ!! なぁ、お前達!!」
「「「「 親分っ! 兄貴ぃっ! 」」」」
「ひゃははぁ」
「えっと、年下なので兄貴呼びはやめて?」
「んじゃ、レイオットさんっ! 俺様達の命を二度も救ってくれてありがとう!! この恩は一生忘れねぇっ!!」
「「「「 忘れねぇっ! 」」」」
「ひゃははぁ」
「そんな大げさな…。 いや、早速だけど、恩を返してほしいことがあったんだ。」
「あの金持ち女のこと、ウーノさんの馬車を狙った理由、なんでも話すぜっ!」
「「「「 話すぜっ! 」」」」
「ひゃははぁ」
待って、一人だけ人語しゃべってないんだけど?
とりあえず、話を進めるためにも、カンタンダ達と冒険者ギルドに行くことにした。
『時は少し遡る…』『一方、妖精界では…』
「トキサカ殿、お疲れ様でござる。」
「お待たせしたござる、久々に同期5人が揃い踏みでござる。 それを祝して…」
「「「「「 かんぱーい!! 」」」」」
「なんか久しぶりだよねぇ~♪♪ おいらお腹空いたぁ~。」
「メセン殿やカンワ殿は多忙にござる。」
「俺やイッポウっちは出番少なめだもんなっ!」
「それを いうなら 私なんて!」
「コマちゃんは私たちの中では特殊だよね~♪」
「うんうん、おいら知ってるよ~。 コマンドさんは戦闘特化だって~♪♪」
「しかし、あやつにコマ殿の真の能力を知らせないで良いのでござるか?」
モニターにレイオットが映っている。
妖精居酒屋では、いろんな世界の映像が楽しめるのだ。
「さいきんは せんとうが ないので だいじょうぶかと! おとめの ひみつは おしえない!」
「おっ! コマっちのマスターがヤバそうな奴らと戦いそうだぜ! コマっち行かなくていいのかよ?」
「あらら~♪ あの二人は嫌な空気があるわね~♪」
「すこし しんぱいですが のんでるので!」
「コマ殿はプライベートはきっちりしてるでござる。」
「あれ、レイオットさん、困ってるよ~♪ コマンドさんの大切さを実感したのかも~♪♪」
「あやつの能力が効きにくい相手でござるか、今のあやつでは勝てるかどうか…。」
「コマンドさんがついていれば、【時間停止】能力のおかげで戦闘中でもゆっくり考えることができるんだけどね~♪♪」
「どうしても マスターが あぶなくなったら いきます! ぐびっ!」
「「「「 って言いながら飲んでるや~ん♪♪ 」」」」
やっぱりノリノリの妖精達であった。
あれ?閑話休題
えと、冒険者ギルドについた。
「レイッ! 無事だったのね!」
「うん、結構ヤバかった。 死ぬかと思ったけど、なんとかね。」
今回は、デスペのおかげだよな、あとで夜の報告のときにご機嫌になってもらおう。
「それで、盗賊達が目がおかしいけど、何があったの?」
「あー、それには触れないで…。」
この人達、町に着くまで俺に感謝したかと思えば、事情を話すうちにビアンカに腹を立てたり、ウーノ家の悲劇で泣いたり、またビアンカに腹を立てたりと、感情出しすぎて燃え尽きてしまった。
「レイオットかっ!! そいつらが例の…。 人が多いから練習場に行こう。 こっちについてきてくれ!」
熊さんの登場で、盗賊達が正気に戻ってくれた。
ぞろぞろと練習場についていくと、小学校の教室2つ分をつなげたくらいの広さ…分かりやすく説明するなら、東京のドーム371分の1の広さだ。
あ、オーブンとコーブンが、人相の悪い盗賊達がぞろぞろと入ってきてびびってる。
ていうか、何時間絞めらたんだろ?
「いけねぇ、忘れてた。 おい、お前ら出ていっていいぞ。 二度と悪さするなよ! 次はランク下げてやるからなっ!!」
「ひぃ! 大兄貴が黙ってねぇからなっ!! 覚えてろよ!」
「そうだ! 覚えてろよ!」
今日は覚えることが多い。
コイツらのことは覚えておける自信ないかも。
「いいから、早く行けっ!!」
ベアースさんの容赦のないこと。
俺がいない間にどんな指導したのかねぇ?
ぶーぶー言いながら退場していった。
「さて…まさかカンタンダ達まで連れて来れるとは…、レイオット、アクア、とにかく依頼は達成だ! Eランクおめでとう!! 報酬の金貨2枚だ、受け取れ。」
は?
アクアはなんか微妙な顔をしているから、先に何か聞いてるのかもしれない。
リンファさんから、更新された冒険者証(E)と金貨2枚をてきぱき渡される。
「あのね、レイ…。 落ち着いて聞いてほしいの。 私も牢番からギルドに戻ってベアースさんに聞いたのだけど…。」
ぶっちゃけウーノさん(ある程度の権力者、貴族や王族とか)が黒いといえば、白も黒になるらしい。
駄メイドの所持品から毒入り小瓶を見つけ、メイドの口からビアンカの名前が出て時点で有罪に出来るそうだ。
科学的根拠を出せない世界のため、ある程度見識を持った人物の発言力は絶大だとか。
俺がカンタンダを助けている間に、ビアンカとダートは牢に入れられ、メイドは一新されたそうだ。
ちなみに、過去の事件については、ビアンカが勝手に自白したんだと。
「依頼内容は、牢番から盗賊達を保釈した奴の情報を聞いた時点で、実は達成してたんだが、まさか盗賊達を助けるために命がけの仕事になってるとはな。 まぁ、ボーイン達を相手によく生きていられたもんだ。」
いや、さっき殺されかけたんだけど…?
「じゃあ、さっき俺がやったことって…」
「レイオットさん、俺らのために走ってきてくれて…!」
またカンタンダ達が感動しはじめた。
まー、カンタンダ達は実際に危ないところだったし、俺も結果的に無事だったから良かった、のかな。
あれ? それならそもそも…
「状況証拠でビアンカがやったことを糾弾できるのなら、俺達に指名依頼なんてしなくて良かったんじゃないか?」
「ウーノさん、なんとかして私たちにお礼がしたかったんだと思うの。」
えっ! そこ?
「もしかして俺達をランクアップさせたり、昨日のお礼を渡したいから?」
ベアースさんと、アクアが遠い目をしながらゆっくり頷く。
「マジかよっ!」
この世界にも、忖度はあるらしい。
忖度はあってもストックはない。




