第11話 コマンドさんの失敗
昼飯を食べて、トイレに戻るとサネモルがぐったりしていた。
スマホの魔力が切れたようで、ビブリルの声は聞こえなかった。
交渉にならなかった、ビブリルとの会話で俺は思ったことがある。
この世界の情報が少なすぎる。
サネモルの顔についているスマホもそうだし、ベンツマール王国の軍事力、周辺の国や町のこと、俺の能力のこと知らないことばかりだ。
この世界に来てから、15年。
不思議の森を旅立つときが来たのかもしれない。
デスペシェイムの配下に、俺の能力がどれくらい通じるのか分からないけど、レベルを上げることをしなければならないし、能力をもっと使いこなす必要がある。
それに俺がここを出れば不思議の森の皆は安全なはず。
だよな、ばあちゃん?
『ふぇっふぇっ、まあ、そうなるじゃろうのぅ。 ここにはトレット様のトイレもある、わしらがおらんでもゴドゥウンをコボルト夫人に預けておけば大丈夫じゃ。』
わしらってばあちゃん過保護すぎだよ、俺は…
『アクアと一緒に行くんだよねっ、レイ? 私もおばあ様から念話の指輪貰ったの。ふふっ』
ちょ、ちょっと!! 念話オフ!!
「なら、普通に話そうよっ!」
「ふぇっふぇっ、レイがすぐ考え込むのがいかんのじゃ。」
「そうよ! それより、私は絶対ついていくからね。 ……お父さんやお母さんに会えるかもしれないし。」
「そりゃ俺一人じゃ何も出来ないし、アクアが来てくれるなら助かるよ。」
なにしろ胃袋を掴まれている。
「ふぇっふぇっ、まぁ、アクアがついていくなら安心じゃのぅ。 わしらはレイとアクアがいつでも帰って来れるようこの場所を守るとするか。」
「ぶもっ(これを持っていけ。)」
[トンテーキのベルト]…力が上がる子どもから大人まで使えるベルト
「オーいちさん、ありがとう。 大切に使うよ。」
「ぶもっぶもっ(元魔王軍の者であれば、そのベルトを見れば友好的になるだろう。)」
ぴよぴよ~
スザクがみかん箱をどこからか持ってきた。
中には綺麗な金色の液体が入った小瓶がびっしり詰められている。
「エリクサーじゃの、1つ売れば金貨8枚~10枚になるのぅ。 レイは金持ちじゃのぅ。ふぇっふぇっ。 使えば、過去に失った四肢さえも回復させる霊薬じゃ。」
ぴよぴよ~♪
「足りなければまだあるそうじゃ。」
がうがう~♪
カムイは毛皮とキバを持ってきてくれた。
「ぶもっ(カムイのキバに毛皮か、鍛冶屋や服飾屋に行けば良いものを作ってもらえるぞ。)」
俺は、旅の準備と貰った物を収納袋に入れてゆく。
アクアは婆さんが昔使っていた魔法使いの装備を貰ったようだ。
ちなみに、収納袋の中には、数えていないが金貨を結構入れてもらえた。
婆さんはどうせ使わないからと入れてくれたが、15才で持っていい額ではないな。
まあ、精神年齢が大人だから金銭感覚は大丈夫だけど。
「まずは、この森から西に進んだ先にある川を越えれば[アメスタンド王国]じゃ。 国境に[アラソニークの町]がある。 わしの知り合いがおるからそこを訪ねるがよい。 わしの名を出せば良くしてくれるじゃろう。」
名前は、[ウーノ]という爺さんだそうだ。
不思議の森を中心に考えると、すぐ南に[トトの町]、そこからかなり南東に[ベンツマール王国]、西へ行くってことは[ベンツマール王国]から離れるわけか。
アイテム、お金、そして行く先…婆さんの過保護っぷりが止まらないけど、ついてこないのが最大限の譲歩だったのだろう。
ちなみに、結界を出ればこの森はある意味魔境だ。
強い魔物や獣がうろうろしている。
ということで、アラソニークまでの道のりは、オーいちさんがついてくるらしい。
魔物の解体方法や、野営の仕方、薬草や食べられる植物の見分け方等を道中でレクチャーするんだとはりきっていた。
サネモルの持っていたスマホは、持っていくことにした。
所有者の魔力認証を行えば、所有者変更や所有者の魔力で充電も出来るみたいだ。
とりあえず、ビブリルにデスペシェイムとの手紙のやり取りをサネモルになりすまして行うことを条件に、不思議の森を狙うことを止めさせた。
もし守らなければデスペシェイムにサネモルの連絡帳のデータと今までのメールのやり取りを送りつけると言ってある。
『そっ、そんなことをしたら、我が主の手紙量が大変なことになる! 全員手紙のループがどれだけ辛いか知らないから、君はそんなことを思いつくんだっ!』
めっちゃキレてたから、ビブリルも約束を守るだろう。
デスペシェイムの配下はあちこちにいるらしく、俺を狙ってくることに関しては幹部でも止められないそうだ。
まとまりがないから、襲ってくるとしても1人か2人だそうだ。
幹部や配下の名前はサネモルの連絡帳にだいたい書いてあった。
几帳面な性格なのか、誕生日や好きなもの、登録時のステータスとか個人情報満載だった。
スマホを落とすと、大変なことになる。
気をつけよう。
あっ、サネモルはベンツマール王国へと帰っていった。(ぐるぐる巻きにしたサネモルをスザクがトトの町に届けた。)
『それはさておき~♪』
翌日、俺たちはアラソニークへと旅立った。
--ピロン♪ ピロン♪
『差出人:デスペシェイム』『件名:おはよう』
《 サネモル、おはようである。
魂の名前が、レイといったか。
報告ご苦労である。 》
『差出人:デスペシェイム』『件名:追伸』
《 レイの仲間になるとは見事であるが、無理をしてはならないのである。》
俺は早くもげんなりしている。
メールの件数が多いのは、デスペシェイムが無駄に心配性なのと、文が下手くそというか、まとめて送ればいいのに刻んでくるのだ。
元現代っ子の俺が教育していこう。
《 おはようございます。
恐れながら、我が主にお願いがございます。
サネモルは、レイから怪しまれないためにも頻繁に手紙のやり取りが
できません。
我が主からの手紙も、レイに怪しまれないよう少なめでお願いします。
具体的には、1日一回の報告が良いかと思います。 》
送信
ピロン♪
(早いんだよなぁ。)
《 我も目標を見謝ってはならぬのである。
サネモルの願いを聞き届けたいのであるが、1日一回だと我も心配で
ある。
なにしろ7年ほどビブリルめに放置されていたからである。
1日三回、朝昼晩に連絡するのである。
都合が悪く連絡が出来ないときは事前に連絡するのである。
我も忙しいゆえ、応対が遅れるときもあるが、1日三回の定期連絡の
他にも、何かあれば手紙を送るのを遠慮しなくてよいのである。
メーラーデーモンやポストマスターに負けない忠義を尽くすのである。》
はぁ、1日三回か。
それでも今までの履歴見てれば、かなり譲歩してくれてるのかな。
メーラーデーモンとかポストマスターってアドレス変えた配下だろうな。
確かにメールの返信は早いだろうけど哀れな。
会話が成立する配下は、ビブリルとサネモル(俺)ぐらいなんじゃないかな。
それと魂の確保したい理由が分かった。
デスペシェイムは、俺の前世の辛い経験で生まれる感情や物語(黒歴史)を取り込むことで、より強大な力を持てるのだそうだ。
ちなみに、ビブリルやサネモル達は配下になるときに、黒歴史を捧げているらしく、裏切った場合は各世界で笑い者にされるんだとか。
配下にウザがられて哀れな奴だと思ったけど、なかなか最低だった。
「ぶもっ(そろそろ野営の準備をしよう。)」
「わかった、オーいちさん色々教えてよ。」
「じゃ、私は水を汲んでくるわ。」
アクアは冒険者だったから慣れたもんだな。
俺は前世を含めて野営なんてしたことない。
オーいちさんに丁寧に教えてもらいながら、テントを組み立てていく。
夜は魔物に備えて交代で寝るそうだ。
ご飯はアクアが用意してくれた。
そろそろ夜の報告をしておくか。
《 我が主、初日は魔物等を倒しながら特に問題なく終われそうです。
おやすみなさい。 みんな寝てますので、返事は明日で結構です。 》
送信
ピロン♪
(だから早いんだよ!)
《 報告ご苦労である。
明日に備えてゆっくり休むのである。
おやすみ。 》
おお!、昨日はお休みの言葉が区切られて送ってきてたけど、ちゃんと注意したことを守ってるみたいだ。
これからもどんどん教えていこう。
そういや、このまま仲良くなった後に、俺がレイオットだとバラした時ってデスペシェイムってどうなるんだろ。
恥辱の邪神が恥かく感じか。
…いや、それはさすがに可哀想か。
人が嫌がることは、自分がされたとしても、積極的にやるべきではないか。
適度な距離感で、配下を演じよう。
デスペシェイムがメールのマナーを覚えていけば、配下も助かるしな。
このことは、俺が狙われてる件とは別で頑張ってみるか!
「よしっ!」
「…うん?、レイどうしたの?」
「あ、あぁ、メールのやり取りは面倒だけど、頑張ろうって気合い入れたとこ。」
「…前世でされたことは恨んでないの?」
「恨んでないとは言わないし、今も迷惑かけられてるけど、転生したこの世界で、トレット様やばあちゃん達、それにアクアにも出会えたわけだからそんなに悪いことばかりでもないのかなぁと。」
前世で起こった悲しい黒歴史を思い出せば、それはもう死にたくなるくらい辛くなるけど、さすがに15年も経つと、黒歴史を思い出すこともなくなったし、俺はもう大草原勉じゃなくてレイオットとして生きている。
そこまで感情を高ぶらせることもない。
「ふーん、レイは年下なのに強いんだなぁ。 私はまだ許せないよ。」
もう、死んだ人達だけどね。と呟くアクア。
「強いというか、間抜けなだけだよ。 へへっ」
「ふふっ、そうね、レイはどこか抜けてるよね。 お人好しすぎて危なっかしいわ。」
人に言われると腹が立つ。
「むっ、アクアだって抜けてるとこあるよ!」
「まぁ、私がしっかりしてるからレイはご飯を食べられるんでしょ?」
「生活環境を出すのはズルいっ!!」
「ふふん、事実よ。」
「ぐぬぬ。 いつか料理覚えてみかえしてやる!」
「あらぁ、それは楽しみね。 ヒールの練習しておくわ。」
たえられない いちゃラブが あらわれた! どうする?
ばくは ばくは ばくは ばくは
(久しぶりだな、コマンド妖精っ!! たまにはいいじゃん…)
--どごおおおぉぉぉおんっっっ!!!!!
(こいつ!やりやがったぁ!!)
「ぐあぁっちぃ!!」
「きゃあぁぁっ!!」
「ぶもおおぉぉっ??」
これは!
囲まれてるっ!!
ばくだんこうもりたちが あらわれた! どうする?
こうげき にげる ぼうぎょ どうぐ
(こんなもん、攻撃しかないだろっ!)
「アクアっ!、森が燃える前に火消しだ!」
「わかった! 『万物の織り成す力、大地を癒せ。 クールレイン』」
「オーいちさんは、アクアを守ってくれ。」
「ぶもっ(わかった! ばくだんこうもりは、一撃で核を破壊しないと爆発するぞ。)」
レイオットは 『体内ブゥスト』をとなえた!
ステータスが 3倍になった。
ばくだんこうもりAは そらたかく まいあがった!
ばくだんこうもりBは そらたかく まいあがった!
ばくだんこうもりCは そらたかく まいあがった!
ばくだんこうもりDは そらたかく まいあがった!
ばくだんこうもりたちが あかく てんめつしている。
(ヤバい、またさっきの攻撃がくる!)
レイオットは 『瞬屁』をつかった!
レイオットは ばくだんこうもりたちの
めのまえに とびだした!
(うおぉおりゃあぁぁ!!!)
レイオットのれんぞくこうげき。
ばくだんこうもりAに 541の ダメージ。
ばくだんこうもりBは 494の ダメージ。
ばくだんこうもりCは 489の ダメージ。
ばくだんこうもりDは 521の ダメージ。
ばくだんこうもりたちを たおした。
レイオットは レベルが あがった!
さいだいHPが 23ポイント あがった!
さいだいMPが 42ポイント あがった!
他にも いろいろ あがった!
(おいっ! 割愛すんなっ!!)
アクアの好感度が 20ポイント あがった!
(んんっ?)
トンテーキの加齢臭が 931ポイント あがった!
(おい、やめてさしあげろっ!!)
「ふうっ! みんなっ、大丈夫か!?」
「ぶも…(逆にお前たちが大丈夫か? 正直に言ってくれてかまわない…)」
オーいちさんが、へこんでるじゃねぇかっ!!
「【浄化クリーナー】使っておくね…」
「ぶも(すまない…)」
「ふう、こっちも火消し終わったわよ。 えっ、どうしたのオーいちさん?」
「えっと、ちょっと色々あってね…。 ははは。」
(この一連の流れって、ラブコメ嫌いのお前の仕業じゃないよな?)
ちがいます うたがうなんて ひどい!
(いや、選択肢がおかしかったじゃねぇか。)
タイミングの もんだい!
(そ、そうか…、疑って悪かった。)
・・・・・・
「どうしたの? レイ?」
「いや、ちょっとコマンドと気まずくなって…。」
「悪いことしたと思うのなら、ちゃんと謝らなきゃ。」
お母さんみたいなことを言う。
(コマンド、ごめんなさい。)
・・・・・・ ゆるす
(上から来た! 普段、誤解されるようなことしてるくせに!)
は?
(あ、何でもないです。 これからも適切な選択肢のご提供お願いいたします!!)
ラブコメは きらいですが 場はわきまえます!
たぶん
こんごとも よろしく・・・
(一言、自信のなさがうかがえる! まあ、よろしくな。)
「謝った?」
「うん、謝ったよ。」
「ぶももっ(コマンド妖精は、妖精族の中でも気まぐれが多い種だ。 うまく付き合うことだ。)」
悪い奴じゃないだ。うん。いたずらっ子なだけで。
オーいちさんと見張りを交代して、俺は寝落ちした。
きょうは やりすぎました・・・・・・
しかし だれも きづかなかった!
サネモルは、相手を食中毒にする能力があるかもしれません。




