第10話 隠されたサネモルの実力
「きぃやっほぅっ♪ きぃやっほぅっ♪ キラキーラのたーましーぃちゃーん♪」
うっそうとした、森の中、歌とスキップで闊歩するこの男。
サネモルというらしい、一人で行動するときって声に出しがち。
ベンツマール王国にいるビブリルって奴からの命令で、俺の魂の波動を辿って結界の中まで入ってきたらしい。
メタンガのせいだ。
誰かにスマホ(っぽい魔道具)で報告メールを打っている。
この世界にも、スマホってあるんだな。
俺が婆さんから貰った念話の指輪の進化版か?
「んっふぅ、ビブリル様の手紙。 《サネモル君、おつかれさま。 不思議の森には入れましたか? あと我が主(笑)に返事を送ってあげてください。》 入れました。 送信。 我が主への返事はあと回し♪」
我が主なのに、尊敬されてないのかな。
スマホのメール機能使えば、あいつらの情報がわかるな。
なんとかスマホを奪えないか…、そうだっ!!
【ナニカ支配】発動!!
--ぷすぅ~
「!! この臭いは、我が主の臭いっ♪ ってサネモルおならするの巻♪」
それにしても、くるくると…よし、ならこのまま…。
--ぷっ --くるっ
--ぶっぶっぶっ --くるっくるっくるっ
「サネモルの目がぁ、まぁわぁるるる~♪」
俺の目もまぁわぁるるる~♪
俺、胸ポケットにいたんだった。
ちょっとポケットのふちに葉っぱをひっかけて、遠心力で飛び出たように…
--ぱさっ
「あ~、お花さぁん、待ってぇ~♪」
--ぶっぶっぶっぶぶぶぶぶぶぉーん
サネモルのおならを回転速度を高めるように発射する。
森狼がすごい顔して逃げていった。
ちなみに、俺は【浄化クリーナー】があるので臭いの防御は完璧だ。
「とぉまぁらな~ぃ♪ んふんふんふんっふぅ~♪」
--くるくるくるくる……あんっぱたんっ!
サネモルは そのばに たおれこんだ!
サネモルは めをまわしている!
よし、『屁んげ・解除』。
とりあえず、蔦で木の幹にぐるぐる巻きにくくりつけてっと。
--ぽとっ
よし、スマホげっと。
画面をさわると、指紋認証で開くやつ。
[指マーク]の部分に合わせて、サネモルの親指から順番につけてみる。
あ、解除できた。
スマホとか懐かしいな。ええっと、メールのマークあった。
メールのマークをタップ、うわっ、迷惑メールの数えげつなっ!!
全部、同じアドレスからだ。
タイトルは、『久しぶり』や『大丈夫か?』、『至急連絡せよ!』等、サネモルを心配してるものや、挨拶とか当たり障りない感じだけど、こういう奴って本文にリンクが貼ってあるんだよなぁ。
件名に携帯番号まで入れてるわ。たちわるっ!
『差出人:ビブリル』『件名:重要!』
おっ!、ビブリルからのメール見つけた。
《 サネモル君、気づいたら7年が経っていました笑。
我が主(笑)からの催促メールがすごいことになっています。
地図を添付してますので、キラキラ魂を確保してきてください。
PS:我が主にサネモルの新しい連絡先を教えておきました。 》
あっ、さっきの迷惑メールってこのメールのあとから来てるわっ!
ビブリルって酷い奴だな。
ピロン♪
これは、さっき送ったメールの返事か。
《 さすがサネモル君ですね。 そうだ、うちのバカ王子が魔女の宝物
が欲しいといってますから、お土産はベンツマール王国の奪われた
国宝でお願いしますね。
PS:あと一度でいいから我が主に返事して。(マジ重要) 》
お土産感覚で、国宝奪えって何気にハードル高くないか?
こいつそんなに強かったかな。
うーん、何かPSのほうが切実…。
とりあえず、婆さんに連絡だっ!!
『ばあちゃん! 俺を狙ってきた侵入者を捕まえたっ! 今は木に縛り付けてるっ!』
『そうかい、こっちももうすぐ修復が終わるよ。 カムイ達にロープと袋を持たせるから、侵入者を連れておいで。』
『うん!わかった!!』
しばらく待っていると、袋をくわえたカムイとロープを体に巻いたスザクがやってきた。
聖鳥、聖獣の扱いが雑だけど、いまさらか。
よし、やるかっ!!
サネモルを木から外して、袋に入れてぐるぐる巻きにロープで縛る。
うっとうめき声が聞こえたが、とりあえずカムイの背中に乗せて、俺はスザクに乗せてもらって家に戻る。
婆さん達が、トイレに誘導するので、トイレの前で全員集合した。
--どさっ!
うぅっ、いったあぁぃ! 声が聞こえた。
今の衝撃で起きたかもしれない。
袋から顔だけ出してみると、やっぱり目覚めてた。
「ここはぁ?」
「ここは不思議の森だ。 お前らはデスっ屁の手先だな! 証拠はこのスマホだっ!」
「スマホ? それはぁ!サネモルの多機能付携帯念話っ!! なんでぇ使い方がわかるの?」
「本来の名前、長いっ! とにかくお前のメールを確認させてもらった。 それと我が主への返事してやれよ。」
「メール? 手紙を我が主に返事するとぉ、終わるのが長くなるからパス! サネモルはこの仕事が終わったら連絡先変えるんだ。」
「いや、どんだけ嫌なんだよ。」
しばらくメールを送るか送らないかであーだ、こーだやっていたら、痺れを切らした婆さんに叱られた。
よく考えたら、デスペシェイムのために俺は何をしているんだろう。
「レイ、話が進まんのじゃが。」
「あっごめん。 デスペシェイムが哀れでつい。」
「あなたぁ、グリンドールねぇ。 まさかまだ生きているなんてぇ。」
「ふぇっふぇっ、悪かったのぅリビングデッドで。」
ひぃ、それ俺に言ってる!
「サネモルをどうするつもりかなぁ? サネモルとの連絡が途絶えればぁ、ビブリル様が来るよぅ。」
「ふむ、あの小僧か。 あやつもデスペシェイムの手先であったか。 昔からいけすかないメガネ貴族の若造じゃったがのぅ。」
「王子の教育係りで忙しい方だけどぉ、我が主の望みを叶えるためならば手段を選ばないはずぅ。」
「いや、デスペシェイムにこの世界に来て欲しくないだけだろ?」
俺も来て欲しくない。
「そうよぅっ!サネモルの名案っ!! キラキラ魂がぁ、次元の彼方に行けばいいのよぅ。」
サネモルが勝手なことを言い出した。
「デスペシェイムをこの世界に来させないためには、レイを犠牲にしなきゃならないってこと!? 嫌だっ!そんなことダメよ。」
「そうじゃ、レイはわしらの家族じゃっ!! デスペシェイムに渡すことなぞできん。」
ぴよぴよっ! がうがう!! ぶもも!! ごどぅうん!! ぬっちょん!!!
皆が俺を守ってくれる。
家族だと言ってくれる。
ぬっちょんだと言ってくれる。
まて、ぬっちょんってどこかで聞いたけど、誰だ!!
「涙ぐましい家族愛ぃ。 泣けるぅ。 だけど、ベンツマール王国を敵に回すことになるよぅ。」
「王国軍が来るにしても、ゴドゥウンの結界があれば大丈夫だ。」
「ふむ、それがのぅ。 結界を破られたせいで、ゴドゥウンが弱っておるのじゃ。 大人数で来られると不味いかもしれぬ。」
「まじかっ!」
いくら婆さん達が強いからって、数の暴力には勝てないよな。
俺がここからいなくなれば……いてっ!
「くだらぬことを考えるでない。」
なぜバレたし!
「学習せんのぅ、念話の指輪じゃ。 とにかくわしらを頼るんじゃ。 トレット様も見守ってくれとるわ。」
「そうよ! 私だって戦えるんだからっ!」
婆さん、アクア…、オーいちさんは力こぶでアピールしてくれる。
「実際、誰かに頼ろうにも、俺はデスペシェイムを呼び寄せる元みたいな扱いになるだろうし…」
「ところで、デスペシェイムって何?」
アクアェ…わかってなかった。
「だって皆が知ってる感じで、話してるし…。」
なんとなく乗っかっていたらしい。
かくかくしかじか しました。
アクアは はあくした。
「サネモルって、どうやってここに来たんだ?」
「我が主がキラキラ魂の波動を感じてぇと、キラキラ魂が持ってるそれに地図付きで手紙をくれたぁ。」
もしかして、俺の魂にGPSでもつけたのか?
【ナニカ支配】が関係している気がする。
7年前…、俺はアクアを助けるために、無意識にキモいおっさんの腹痛を起こした。
……【ナニカ支配】を少しサネモルに使ってみよ。
--ぐるるる~
「っ! 我が主の気配がするぅ!!」
サネモルが怯えだした。
そんなに嫌なんだな。
「ばあちゃん、俺の能力に寄ってくるみたいだ。 デスペシェイムの呪いにトレット様の加護が作用して出来たのかもしれない。」
「ふむ、レイが能力を完全に使えるようになればデスペシェイムの呪いを封印することが出来るのかもしれんのぅ。」
とりあえず呪いを封印することが出来れば俺の位置が特定されなくなるはず。
ただ、当面の問題は…
「デスペシェイムが来るかもしれないだけで、ベンツマール王国のビブリルが攻めてくることじゃ。」
はいはい、念話はいはい。
「ビブリルと交渉できないかな?」
スマホ使えば話せるはず。
--ピリリリリリ♪ ピリリリリリ♪
『着信:ビブリル』
噂をすれば…。
--ピッ! 「もしもし?」
『おや、これは面白いことになっていますね。 はじめまして、私はビブリルです。 サネモル君はどうしたんですか?』
サネモルはオーいちさんが口を塞いでいます。
手が大きいから鼻まで塞がれてサネモルは死にそう。
『俺はお前らが探しているキラキラ魂って奴だ。 サネモルは捕まえてある。』
『ほう、多機能付携帯念話の使い方がわかっているようですね。 さすがはキラキラ魂といったところでしょうか。』
『それより、俺を狙うのをやめろ! 俺は不思議の森で静かに暮らすんだ。』
『残念ですが、それは難しいですね。 我が主のこともありますが、大罪人グリンドールが奪った王国の宝も私が出世するために必要なんですよ。』
「へっ、若造が戯れ言を。 何千何万連れてきても、わしの相手にならんよ。」
『ん、どうやら近くにグリンドールがいるようですね。 確かに100年前ではそうでしょうが、今はマジックキャンセル装備や結界魔道具の開発が進み実用化出来ています。 いくら魔王を倒した魔法使いとはいえ、今の時代でも通用するとは思えませんがね。』
-おいっ、ビブリルっ! グリンドールと言わなかったか?
『デスペシェイムの手紙に、お前らがやってることを教えるぞ!?』
『っ! まさか私がじゃんけんに負けて我が主の手紙対応係りになって、他の幹部が連絡先を変えていることを話す気ですかっ!?』
-なぁ、なぁ! それ、俺にも使わせろよ
なんか向こうもうるさいけど、やはりデスペシェイムをハブにしている件は交渉材料だったか。
ていうかそんなことしてたのか。
「そんなことをしたらぁ、キラキラ魂は幹部達を個人的に敵に回すことになるよぅ! もがもがっ」
サネモルがオーいちさんの手の隙間から声を出した。
良かった、生きてた。
「すでに敵のはずなのに、個人的にってどれだけデスペシェイムは嫌われてたんだよ。」
『悪い方でないのですが、かまってちゃんで手紙のやり取りが大変なんですよ。 自分はボケてくるのに、こちらがきつめのツッコミ返すと拗ねるし、返事しないでも拗ねるし、毎日、毎日、手紙が何百と送られてくる気持ち、分かりますか? それが同じ世界に来ようとしているなんて耐えられない。』
-なぁ貸せよそれ、ビブリル!ビブリル!ビブリぁだだだだだっ! 僕は王子だぞっ!ぁだだだだだっ!
-いま大事な話をしてるので、王子は向こうに行ってください!
-授業中に念話すん…痛い。わかった…。
この人、授業中に教え子ほったらかして何をしてんだ。
『そんなに嫌なら配下やめられないのかよ。』
『愚問ですね、我が主から与えられる素晴らしい力。 これのためだけに、皆耐えているのですよ。 例え仕事終わりに「一杯行くのである。」と誘われることに怯える毎日だったとしても。 それが15年前を境に手紙の相手だけで良くなったのです。 今さら我が主と同じ世界は考えられない。 だから…』
- あなたが我が主の元へ行けばいい -
ぞくりとした。
最後の言葉。
「ふざけないでよっ! そういう個性派で実力がある社長だから、待遇面、福利厚生がしっかりしてるんでしょっ!! 社長の相手を取引先の若手に丸投げするなんてあり得ないっ!!」
ちょ、アクア?
『より良い環境に職場を改善していくためには、多少の犠牲は仕方ないのですよ、お嬢さん。』
「多少の犠牲を外部に求めるなって言ってるのよ。 手紙のやり取りも日直で交代していけばいいじゃない! じゃんけんに負けたあなたが悪いんでしょ!!」
『日直ですか、昔やっていました。 ですが、我が主は全員返事を利用するので無理でした。 関係のない内容の手紙まで私のところにも届くうざさ……』
ビブリルの愚痴が止まらなくなったので、サネモルの顔にスマホをくっつけて俺たちは昼飯を食べることにした。
あとで、アクアにさっきのことを聞いたら覚えていなかったそうだ。
メタンガがやったのかもしれない。




