ある魔女子の日常
快晴の空に咲く真っ黒な煙の花。
真っ赤に染まった絨毯の遥か上空を飛ぶ若い子たち。
そう、今日も今日とて私は戦争に駆り出されて、ちょっかいを出してくる可愛げのない兵士を見えないとこからいたぶるの。
時折下に降りて死にかけの体が無いかなと辺りを見回す。
といっても四肢が無くてはならない。
私の秘密の実験には、瀕死の人間、火薬、鉄、パン、などなどの多くの材料が必要なのだ。
人間以外の材料はそろったが最後の一つが見つからない。
ため息交じりに上から双眼鏡で見まわして、かれこれ一年が過ぎようとしていた。
「アイリス見つかった?」
やってきたのは双子の姉のスティアだった。
双子は魔女の世界だと死を他人に分かつ者としてすぐに殺されてしまうらしいが、この双子は未だに生きている稀な双子だ。
妹のメスティアは魔力が人一倍少ないので姉から直接供給してもらっている。というか、姉からしか供給されない。
「いやー今日もダメだねー。そっちは?」
「メスがぽいもの見つけたって言ってたけど、あの子の魔力が薄くてどこなのかわからないのよ」
「わかった、地図出すよ」
「そゆこと、ありがと」
私は五つの光るワームホールを展開し、そのうちの一つから地図を出した。
開くとそこにはここら一帯の地形と魔女の名前が映し出された。
「相変わらず便利ねぇ」
「どっちが?」
「どっちもよ。何でも出し入れできるゲートなんてどうやって作ってるのよ」
「前にも言ったじゃん、ほら、こんな感じにこう……」
「わかるか! もういい、ほらメスの所行こ。あの子不安になってウロウロし始めたわ」
ここからそう遠くはなかった。が、地図は平面だったためメスティアのいる高度がわからなくて少し探した。
見つけたときは辺りをきょろきょろしながら八の字に回転していた。
「おーいメスー」
メスは母親を見つけた子犬のようにサッとスティアに飛びついた。
「心配した! 見つからなかった! いなくなった!」
「はいはい大丈夫だから、人間はどこ」
ん、と下を指さした。
そこには私たちと同じくらいの年の青年が息も絶え絶え横たわっていた。
「四肢あり、瀕死! 素晴らしいよ! これで宿題も一歩前進だよ!」
私は嬉しさのあまり空を駆け回った。
「瀕死っていうか死んでね?」
スティアが息を確認しに降りたところ、心肺停止になっていた。
「それはまずい、二人ともその子を担いで。今から家まで飛ぶよ」
「いいけど、遠いよ? 間に合う?」
「そのためにこれを造ってきたのよ」
私はなんでも出し入れゲート(仮)から一つのスイッチを取り出した。
「そ、それは……?」
スティアの顔が引きつる。
「説明しよう! 私が開発した『テレポマシンマークトゥー』のスイッチだ! これを使えば家までひとっとび」
「あんた前回ので懲りてないの?! テレポは技術的に無理だってババさまが言ってたでしょ」
「ちっちっち。私の工魔式魔術にかかれば可能になるんですよ。と言うことで死ぬときはみんないっしょですわ」
「可愛く言ったってそうはいくか! 死んでたまるか!」
スイッチはスティアの叫び声もむなしく押されてしまった。
パッと一瞬のうちに飛ばされた先はアイリスの家……の壁の中だった。
「惜しかった、座標調整は完璧だと思ったのになぁ。まあ誤差の範囲か」
壊れたスイッチ片手に私は機械を再び直そうと試みたが熱で触ることもできなくなっていた。
「わかったからはやく壁から引っこ抜いてよ。てか、なんであなただけ壁に埋まってないのよ!」
双子と死人は綺麗に壁に干されていた。