黄金色の絨毯と男の子
世界の真ん中に位置するこの国、文字どおり『センター』では立派な魔法文明が築かれている。
広い平原の中に突如として現れる緑で囲まれたそれはそれは美しい街だ。
そこには人……と呼んでいいものかわからないが、住する人は皆女性である。
そう、魔女である。
力仕事は魔法で浮かせ、書き仕事も魔法のペンで走らせと、生きてくうえでは必要不可欠と言っても過言ではない。
もちろんこの世界には魔力を持たない生命体もいる。オーク、レプタイル、そして人間が当てはまる。
人間と魔女は顔や体こそ似ているが相容れない存在だと認識している。
それもそのはず、人間は魔法を否定し科学を肯定した。
一方、魔女は科学を否定し魔法を肯定した。
その差し違いが今からおよそ数百年前に戦争を起こした。これを第一次魔女戦争と呼ぶ。
春には薄ピンクの花を咲かせ、秋には綺麗な燃ゆるような赤で染め上げたここら一帯は黒く血の匂いのする腐敗した土地に変わり果てた。
双方の戦いは熾烈を極めた。未発達な科学と未熟な魔法がもたらしたのは死ぬほどドロドロの泥仕合だった。
火力の調整ができない魔女は敵味方構わず辺りに火をぶちまけたり、人間側だと銃が暴発したりと、
まさに、阿鼻叫喚、死屍累々、に相応しい世界だった。
その後、このままではまずいと悟った人間が休戦を提案し停戦となった。
その時の人間側の被害は国が備蓄できる資材の半分を下回っていた。
また、魔女側は人口の半分を失い、何倍もの国土が焼け野原にされた。
現在は黄金色に光る草原に移り変わり、さも昔の事なんて何もなかったかのように時は流れている。
動物の多くは戻り、空は灰色から綺麗な青空に戻った。
お天道様が上るころ、森の方から二人の子供がこの草原にやってきた。
二人ともここらに住み着く虫やら生き物やらを捕まえに来たようだ。
虫使って脅かすのは女の子、驚かされるのは男の子だ。
お昼には女の子が持ってきたお弁当を食べ、食後には二人を黄金色のベッドが二人を包み組む。
そして再び静かな草原に二つの笑い声が遥か彼方まで響く。
「ねえかくれんぼしよ」
そう言ったのは女の子。男の子は「うん」と頷く。
鬼は女の子。男の子はがさがさと草をかき分け次第に音が遠のく。
「1……2……」
膝を抱え、大きな声で60秒を刻む。
「59……60!もういいかい……!」
その声が届いたのかはわからない。
私が顔をあげたとき頭上に森から飛んできた火の玉らしきものが大きな音を立てて、人間の国『セントラル』に落下していくのが見えた。
今思えばそれは火の玉なんかではなかった。
紛れもない魔女だった。
箒に火が付き火の玉に見えた魔女だった。
それからは逃げるのに必死で記憶が曖昧だ。
箒の穂先から落ちる無数の火の玉から、命からがら逃げだしたのは覚えている。
途中で転んでひざを擦りむいて半べそ書きながら、足がもつれながら必死に走ったのも覚えている。
―ただ一つだけ思い出せないことがある。
―あの男の子を私はどうしたのだろうか。