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今日はいつもより早く起きた。朝ご飯と昼ご飯を作るためだ。
これまでは朝と昼は果物を齧るかパンを買う程度だったが、これからは料理をしようと思う。
自分のためだけに手間をかけるというのはなんだか虚しいが、人のためならやる気もでるというものだ。
まず『非生物収納能力』から材料を取り出して昼食ようにサンドウィッチを手早く作って『非生物収納能力』に入れておく。こうすれば料理が傷むことはない。
そういえば『道具製作能力』で料理ができないか試したこともあった。見た目も味も再現できたのだが、物足りないというか薄いというか何か違った。その理由として考えられるのが僕のイメージ力。
『道具製作能力』はイメージによって大きく作用されるのだ。よって、僕の『料理は手間をかけた方が美味しい』というイメージが作用してしまったのだと考えられた。
「おはよう。フフッ、いいものだね。こうやって挨拶できるというのも」
外から帰ってきたのはルシアだ。首にかけた手拭いと手に持った木刀を見るに素振りでもしていたのだろう。
「おはようございます。もう少しで朝食ができるからシャワーでも浴びてきたらどうですか?」
「うん。そうさせてもらうね」
ルシアはそういって浴室に向かっていった。
日本生まれの僕としてはありがたいことにこの屋敷には大きな風呂が設備されているのだ。今度風呂用のアロマオイルでも作ってみるか。
その後、朝食を作っていると今度はクーが起きてきた。
「おは。……お腹すいた。スンスン……いい匂い」
匂いに釣られて起きてきたようだ。
「おはよう、クー。料理を運ぶのを手伝ってくれる?」
「……ん。了解」
二人で盛り付けをして料理を運ぶと、ドダダダと階段を駆け下りる音の後に扉がバンと開いた。
「おはようッス!!!!!」
見れば両手を交差させて奇妙なポーズをとりながら朝の挨拶を叫ぶセラがいた。
「……ん。おは」
「おはよう。もう朝ごはんができたのでルシアが来るまで待っていてください」
もはや昨日一日でこの程度の奇行では驚かなくなってしまっている。朝から相手にするには消費カロリーが高すぎる。
しばらくするとシャワーを浴びてさっぱりしたルシアが戻ってきた。
「じゃあ全員揃ったところで、いただきます」
「「「いただきます」」」
こうやって家の中で一緒に食べる仲間がいるというのは悪くない。
……まったくもって悪くない。
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『戦熊……身長は人間の大人程。非常に好戦的な性格で凶暴である。両手の長い爪を巧みに使い戦闘を行う』
推奨討伐ランクCだが、それもBに近いCであるらしい。
いつの間にかパーティーリーダーに任命されていた僕がシーラさんから説明を受けている間に他の三人に依頼を受けてもらっていたのだが……。
まずパーティーメンバーは全員、最近ギルドに加入していてDランクだったが、各自のこれまでの成果とギルド陣での話し合いの結果、『銀狼団』のパーティーとしてのランクはCになった。これによりCランクの依頼を受けられ、彼女たちが受けたのが『戦熊5体の討伐』だった。
僕は先日、Dランクに上がったばかりで倒したモンスターも『一角兎』だけ。まともに戦ったこともない。だから僕よりも経験のある彼女たちに任せたのだ。
なのに、いきなりBランクに近いCランク。
「僕言いましたよね!? パーティーの動きの確認もしたいから軽めのをお願いしますって!」
「いやー、自分も止めたんスけどね。ルシアっちが楽勝だっていって聞かなかったんス」
「フンッ。セラもさっきは乗り気だったじゃあないか。ボクのせいみたいに言わないでよ」
責任から逃れようとするセラと拗ねるルシア。
「……はぁ、どっちの責任でもいいですけど次からは僕が受ける依頼を決めますからね。それに楽勝ってことは戦ったことがあるんですか、ルシア?」
「うん、少し前に。依頼じゃなかったけど、斬りごたえがありそうだと思って戦ったよ」
「それで?」
「良い斬りごたえだったよ。背骨が硬かった」
誰が斬りごたえのことを聞いたんだよ……。これ以上きいても生産的な答えは返ってこなさそうだし。
あーあ、朝は結構いい仲間だと思ったんだけどなぁー。気のせいだったのかな……。
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『戦熊』の生息地は『ガーセム大森林』の一角だ。森の中でもそこまで深くない場所なので、他のモンスターで気を付けないといけないのは『スライム』程度だが、万が一奇襲に遭っても仲間といるので大した危険にはならない。
しかし、シーラさんには口を酸っぱくして言われている『森では何が起きるか分からない』と。気を引き締めていこう。
「もう一度確認しておきます。敵を発見し次第、クーが敵に接近して前線を構築。セラがデバフを掛けて、隙をみてルシアが攻撃。軽症でも怪我をしたらすぐに報告してください、セラもできるだけヒールしてってください」
「……ん。了解」
「了解ッス」
「了解」
本当に大丈夫かな。自分で建てた計画だけど役割に僕が入ってないし。
すごいドキドキする。……怖い。
そのとき、ぎゅっと僕の手をクーが握った。
「……大丈夫。キーはクーが守るから」
クーは自分の体より大きな剣を担ぎながら僕を勇気づけるようにそう言った。
――――恥ずかしい。
こんな子供にそんな言葉をかけられてしまう自分が。そんな言葉を頼もしく感じてしまう自分が。
強くなろう。今は無理でも少しづつでも。
そして、言うのだ『僕が守る』と。
「……そこ」
森の中をルシアを先頭に進んでいた僕達だったが、クーの声で足を止める。
クーが指を指した方を見ると、樹の幹が大きく削られていた。なにか鋭いもの――――例えば熊の長い爪によって。近くには獣の体毛が一房ほど落ちている。
「近いッスよ。もうナワバリの中だと考えた方がいいッスね」
セラの言葉を聞いて一応僕も抜剣しておく。
「スンスン。……きっと匂い辿れる。こっち」
流石は狼人、その嗅覚も尋常ではないようだ。
クーはスンスンと鼻を鳴らしながら迷いなく進んでいく。
それからしばらく進んだところでクーが立ち止まった。
「……匂いが増えた。きっと群れてる」
「『戦熊』が群れるという話はあまり聞かないけど。異常種だとしたら厄介だね」
「どうするッスか?」
「撤退一択。一度安全なところまで下がってから他の獲物を探しましょう」
そう提案したのは僕だ。
依頼が失敗する確率は増えるかもしれないけど死ぬ危険は減らせる。
「……ん。賛成。でもここら辺は匂いが混ざってて嗅ぎ分けにくい。接近、気付けないかも」
ここまでくると僕でも何となく獣臭が感じられる。ただ匂いとしてじゃなく、もっと気配みたいな感覚だ。
とりあえず森の入り口まで下がることにして、僕たちは移動を始める。
「側面にも注意してください。奇襲を掛けられるときつい」
クーとルシアはともかく、僕とセラは接近されるとヤバイ。
僕たち一同は警戒をマックスにしながらゆっくりと進んでいく。
そのまま何事もなくさっき見つけた傷のある木が見え、気が緩みそうになった時だった。
ガサリ。
正面の茂みが揺れ『戦熊』がのそりと顔を出す。その『戦熊』は僕たちに気付いていたようで、驚く様子も見せずに立ちあがった。
奇襲できなかったのは痛いが、それは相手も同じ。相手は一頭、こちらは四人、この距離なら悪くない条件だ。
しかし、立ちあがった『戦熊』は僕の心を見透かしたようにニタリと笑ったように見えた。
そのまま、
『ガァアアァッ!!』
と大声で鳴いた。すると、僕らを半円状に囲むように追加で四匹の『戦熊』が現れた。