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冒険者ギルドは夜に最も賑わう。
依頼に出る時間はまちまちでも夜になれば仕事はできない。そして、冒険者たちは休みの日でも情報交換のためにギルドに集まり酒を飲むのだ。
まあ僕がここに来たのは今日が初めてで、全て伝聞なのだけど。
僕とシーラさんはそんな賑わいの中ギルドに併設された酒場兼レストランの片隅で食事を摂っていた。
彼女は就業時間を超えているのに、僕にこの世界について教えてくれるために時間を割いてくれたのだ。
「それにしても、本当によかったんですか?」
「ええ。どちらにせよこの時間はいつも書類仕事をしていますので」
「何から何まで本当にありがとうございます」
「これも仕事ですから。実際貴方は今日だけで五つも依頼を達成していますし、これからも多くの依頼を達成するでしょう。そうして貴方が依頼を達成するたびにギルドに手数料が入り、そこから私たち職員の給料が支払われます。つまり、私が貴方を教育するのは自分のためなんです」
シーラさんはそういうが、実際のところ彼女が僕の担当になってくれて本当によかった。
下手したらいきなり森に突っ込んでいって、一日でモンスターに殺されていただろう。
その後も僕は彼女の助言を心に刻みつけるように聞き入ったのだった。
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例えば椅子を作るとしよう。木材を切断し、釘などを打ち付けて椅子の形に組み立てて作るのが一般的だろうか。
しかし、僕の道具製作能力を使えばそういった手順を無視して材料から直接作ることができる。おそらく、原木と鉄鉱石からでも製作できるだろう。日常で使う物ならこれでたいてい作れる。
この世界の錬金術に近いとシーラさんが言っていた。
能力の発動条件は製作に必要な素材を見たことがあるということだ。
例えば、製品Aを作るのに素材Bと素材Cが必要な場合、僕が素材Bと素材Cを見たことがないといけないのだ。
魔導付与能力はもっと簡単だ。道具製作能力で製作した特殊なインクで文字を書くだけだ。インクの素材には薬草やモンスターの体液が使われる。
ただし、付与する対象は僕が作ったものか自然に存在するものだけ。つまり、僕以外の人が加工した製品には使えない。
付与する効果は触媒であるインクと記入する文字、対象の素材等によって決定される。さらに対象の素材により付与能力の使用回数が決定される。
今僕が使える魔導付与能力は魔力を込めると火を纏う等の単純な付与だけだ。
また、どちらの能力も使用するたびに魔力を消費する。
魔力というのはあれだ。いわゆるMPのことで、魔法の発動に必要なようだ。
シーラさんに調べてもらったところ、僕は魔力量は多いが魔法の才能は皆無に等しいらしい。
これは稀有な例で、確信は無いのだけど本来魔力がない僕が【魔導製作師】の能力を使えるように魔力を与えられたのではないかと思っている。
今のところ分かっているのはこんなものか。
色々調べてみたものの、正直全てを理解したとは言い難い。
能力の完全理解と有効活用の方法を考えるのが当面の僕の課題になるだろう。
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朝早くに起きて依頼を受け朝ごはんを食べながら『ガーセム大森林』に向かい昼までひたすら採集。昼飯を食べた後は、腹ごなしに剣での素振りや弓矢の練習をする。それから、日が落ちるぎりぎりまで収集しギルドに戻り、依頼の達成手続きを行い他の冒険者と軽く情報交換をしながらシーラさんの仕事を待つ。夜ごはんはシーラさんと一緒に食べながらこの世界について教えてもらう。
ここ二週間は毎日そんな感じで過ごしている。
おかげで最近では剣を振るのも様になってきている……気がする。また森の付近に生息する植物やモンスターの特徴も一通り覚えた。
そしてついに昨日、僕の冒険者ランクがEからDに上がり、冒険者カードの表記も変わった。
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名前:霧崎 勇人
ランク:D
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冒険者のランクはE~Sに区分されていて、自分のランク以下の依頼しか受けることはできない。また、ランクアップは自分と同ランクの依頼を百件達成およびギルドの認可によって成る。ただし討伐依頼は原則Dランク以上に設定されることから例外的にEランクはギルドの認可のみで免除される。
今日から僕は討伐依頼の受けられる一人前の冒険者だ。
「ふむ」
僕は依頼書の張られた掲示板を眺めていた。
これまでは僕が受ける依頼は全てシーラさんが選んでくれていたが、僕のランクアップに伴い少しづつ自立することになった。
依頼書は依頼主、指定ランク、達成条件、達成報酬、違約金等々の項目からなる。
これらを見極めて依頼をこなすのが真の冒険者だ。
「よしこれで行こう」
僕は一枚の依頼書を受付に行き、シーラさんに渡す。
「『一角兎十匹の討伐および角の納品』ですか。85点ですね」
「その心は?」
「まず依頼主は商業ギルドが代理になっているので問題はないでしょう。次に報酬額はこの依頼内容にしては十分です。ここまでは満点ですね」
「では『一角兎』に関する問題が?」
この時期の『一角兎』の生息場所もすでに調べてある。
昨日少し喋った冒険者が狩ったばかりだと言っていた。
「はい。……『一角兎』の特徴を覚えていますか?」
「えっと、『一角兎・・・・・・兎型の魔獣で、大きさも普通の兎程度。白い体毛に赤い瞳。額には身長の半分ほどの角をもつ。非好戦的なモンスターできわめて臆病。また高い跳躍能力をもつ。』でしたっけ?」
これもシーラさんに教えてもらった知識だ。毎日復習は欠かしていない。
図鑑の絵も覚えている。
「流石ですねキリサキさん。『一角兎』のもつ高い跳躍能力と警戒心の強い性格。それこそが問題です。駆け出しの冒険者には討伐が難しいと言えます」
「依頼の失敗の可能性が高いということですか。それが減点の理由ですね?」
勝てないのではなく、そもそも戦闘できないということか。
「ええ。実際、失敗率も高くなっています」
「じゃあ僕が依頼を達成できたら100点になるということでいいですか?」
「そういうことになりますね。幸い違約金も良心的な額ですので、いい経験になるかもしれません」
そういう彼女の表情は挑発的だ。
僕に発破をかけて、僕の本気を見たいということですか?
……フフフ。フフフフフ。
いいでしょう、見せて差し上げようではないかキリサキさんの実力を!
冒険者――――否、狩猟者としての僕の実力を!!
――――さあ、兎狩りの始まりだ。