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正統派主人公の攻略ルート希望します

 私がクリアを目指すべき男の子が一人いる。

『アカツキ・キラ・マクファーレン』という名前の子だ。

彼は「まじ☆ふぁん☆えたーなる」の表紙を大きく飾っているキャラクターだ。

 イメージカラーは確か青。グッズ展開でも、彼が必ずラインナップにいたのを覚えている。

 彼のエンドは、とても平和なのだ。

 そして王道だ。正統派主人公のルートだ。

 どこかでみたことあるようなルートでありながら、素晴らしく幸せに満ち溢れたスチルで終わるエンド。

 近年のドSブームの中では、人気があまりなく、割とファンの間では不憫な扱いになっている。

しかし、高圧的な態度ではなく、物腰柔らかな態度をとる彼のことを、私は結構好きだ。

 魔法学校入学前、一か月現在が、私の平和な乙女ゲーライフの基礎を築く大事な期間なのだ。いつもはテオのスパルタ魔法塾に邪魔されて、準備ができないが、今日は違う。

 一日休みになったのだ。

 具体的に言うならば、あまりのテオのスパルタに、レモネおばさまが怒り、休日になったのだ。

 レモネおば様は、クルト君の実のお母さまだ。私の居候先の館のお母さまと言い換えることもできる。お上品で、物腰柔らかだが、怒るときはクルト君よりも怖いらしい。

 いわく、年頃の女の子を、魔法漬けにして、妖精の国にでも連れて行ってしまうつもりか!

 という感じで。

 妖精のテオを叱れるのなんて、レモネおばさまくらいだ。

 本当は私がしっかりテオの手綱を握らなければいけないのだけども。

 そんなこんなで、今日は一日、スパルタ魔法塾はお休みである。

 テオは私の横で、人間の形ではなく、光の玉の形になってふわふわ浮いている。どうやらレモネおばさまに怒られたのが結構応えているらしい。

 まぁ放っておこう。

 今日は楽しいお出かけなのだ。

 誕生日に買ってもらった可愛い帽子と、外出用のちょっぴり良いお洋服を着て、ヒールなんて履いてみたりしている。

 ショーウィンドウがあれば、自分の姿をみて自己満足に浸るくらい、私は私の好きな恰好をしている。

 久しぶりだ、気分が高揚する。

 レンガでできた建物、道、すべてが新鮮に見える。一人で街に遊びに行くなんて本当に久しぶりだからだ。

 ―――しかし、私には、可愛い格好してお店を見て回るほかに、もう一つ、大事な用事があるのだ。

 それは、『アカツキ・キラ・マクファーレン』を探すこと。

 アカツキ・キラ・マクファーレンを探し、仲良くなり、彼とのエンドに入るための最善を尽くす。

 これがもっぱらの私の課題だ。

 アカツキ君のエンドは私が狙うべき最大のエンドなのだから。

 テオがしょぼくれているのも、都合がいいと思えばそうかもしれない。

 今のうちにいろいろ動ける。

「ふふふっ」

 いけない、笑いがあふれてしまった。

 楽しみすぎている。ああ、心が楽しみすぎている。

「何もないところで笑うなよ」

 じゃっかんテンションが落ちて低いテオの声が聞こえるが、気にしない。

 今日はレモネおばさまから、少々お小遣いをいただいているのだ。

 両親がレモネおばさまに渡している私の生活費とは別だ。これはボーナスだ。お年玉みたいなものだ。

 女の子も欲しかったのよねーと口癖のように言うレモネおばさまは私に甘いのだ。

 新しいお出かけ用の服も買える。

 つま先がつるつるの靴も買える。

「どうしよう、テオ、今からのことを考えるだけで、とても楽しい」

「へいへい」

「元気出してよ、テオ」

「……いや反省してるんだよ、少し、オレの考えを押し付けすぎたなって。レモネさんに怒られるのも、無理ないよな。普通の貴族の女の子は、毎日魔法のレッスンなんてしない。それなのに、テオ、お前はオレに付き合ってくれ」

「テオ! 新しい仕立て屋さんができてる!」

「頼むから、素直に話を聞いてくれ!」

 シャイニー・フェアリーという看板が掛かっている。赤いレンガと、緑色のタイルでできた外壁がとても可愛い。外装がとてもピカピカしている。

 ガラスの展示台に飾られているのは、真っ赤なドレス。社交界用の特別なドレスみたいだ。一色でできたドレスだけど、細かいところに同色で刺繍が入っており、確かな仕事を感じる。

 袖の繊細なレースや、裾にある金色の糸でできた刺繍もまたドレスを素敵に見せる。

 完全に手持ちのお金では手が届かないほどの代物だろう。

「あーこれ、可愛いなぁ」

「……こういうのが好きなのか」

「こういうの? うーん、なんか仕事が細かいのが好きなのかも」

「ふーん」

 アカツキ君を探さなければいけないのに、ドレスにばかり目が行ってしまう。

 赤いドレスの奥にある白いドレスも……ああ、その奥の黄色いのも色が落ち着いてて可愛い。

 ……しょうがない。魔法漬けの毎日を送っていたのだから、たまの娯楽に心がいってしまうのだ。

 店に入らず、外からすでにメロメロになってしまっていた。

 はたから見たら不審者だろう。

 仕立て屋さんの洋服が可愛すぎるからいけないのだと自己を正当化する。

 ふいにお店のドアが開いた。

「ごめんなさい、まだ開店してないんです。明後日からなんです」

 ドアベルが鳴り、中から黒髪の男の子が出てきた。

 青い瞳は申し訳なさそうにこっちを見ている。

 節だった手のひら、手首には針山がついており、この男の子が仕立て屋の店員なのだとわかる。

 不審者の行動を即座に辞め、気まずいながらも男の子に向き直る。

 ん? 黒い髪の毛、青い瞳。

 そして仕立て屋の店員。

「アカツキ・キラ・マクファーレン……!」

「そう……です。僕の名前はアカツキ・キラ・マクファーレン……だけど、なんでその名前を?」

 失言だった。

 気が緩んでいたとしか言いようがない。

 アカツキ君は田舎から最近出てきた仕立て屋の息子だ。先生な魔法を使ったドレスつくりを生業にしている両親の背中を見て、自分もその道を目指している。

 今日の目標、可愛い服を買う、その目的の中に含まれていた、『アカツキ・キラ・マクファーレンがいる仕立て屋を探す』それがもうすでに達成してしまった。

「か、看板に書いてあったの!」

「お店の看板……? 父親の名前は書いてあるけど……」

 アカツキ君の目が険しくなる。疑われている。本当に馬鹿なことをしたと思う。頭の回転が遅い私は、ここからどうやったって挽回できない。

「え、えっと」

「バーカ。オレが予知で教えたんだよ、ちゃんと説明しろ、馬鹿に思われんだろ、馬鹿」

 くるっと回転しながら、テオは人間型に姿を変え、アカツキ君に説明する。

「アカツキ・キラ・マクファーレンという男と、今日は出会うことになるって、教えただろブス」

 この設定で話を合わせろよボケ、というテオの心の声が聞こえてくるようだ。

 テオは私がうろたえてるのを見て、助け船を出してくれたらしい。ただ、後で説明を死ぬほど求められるだろうけども。

「ああ、そうなんだ。君の妖精は予知ができるんだね、凄いな」

 純粋な笑顔でアカツキ君は笑った。

 柴犬みたいな、悪意ゼロの微笑み。見る者すべての心を軟化させるだろう。

 どうやら信じてくれたらしい。

「僕の妖精は、僕の仕事を手伝えるくらいだからなぁ。人型にもなれないし」

 そういうと、アカツキ君の周りを赤い光の塊が飛び回った。

「トーン、ごめん、悪口じゃないんだ、ごめんって」

 アカツキ君の精霊の名前はトーン。これは私も知っている。

 テオとはまた違い、細かな魔法に特化している精霊で、彼の家業をよく手伝っているのだ。

 彼は十六歳。私と同じ年齢、この春から、魔法学校に通う、いわば同級生ポジション。

 彼について、私はほとんどすべてを知っている状態ではあるが、何も知らないふりをしなければならないだろう。

「と、トーンっていうのね、その妖精」

「うん。仕立て屋の仕事を手伝ってくれるんだ」

 知ってる。

 言わないけど

「それで、君は、一人でお出かけなの?」

「え、あ、うん。そうなの」

「誰か―――人間と一緒じゃないの?」

 首を縦に振る。

「身なり的に、結構いい身分の子だと思うんだけど、一人で大丈夫なの?」

 眉を八の字にして、本当に心配そうにアカツキ君は聞く。

「な。なんでいい身分ってわかるの?」

「わかるよ、服の生地が違う。それに、刺繍に使われてる糸も、良いところで作られてるものだ」

「さすが、仕立て屋さんだね」

 へへっとアカツキ君は笑う。素直に喜んでくれているみたいだ。こういう裏表なく、人当たりの良いところが、私の心にとても優しい。

 テオのような高圧的な男の子と違う。

「本当はお手伝いさんが付き添ってくれるはずだったんだけど、私が断ったの。テオがいるから大丈夫よって」

 テオの能力を知っているレモネおばさまはそれだけで外出を認めてくれた。過保護のクルト君は今、魔法学校に行っている最中なので問題なし。

「その妖精……テオはすごいんだな」

 何故か私が誇らしい気分になった。

 でしょう、でしょう。と、自分の妖精を自慢したい気分。私のテオすごいでしょ? ちょっと口が悪く高圧的なところがあるけどいい妖精なんですよって。

 不審者が出た最中のお出かけであるが、一人での外出が認められたのは本当、テオ様様なのだ。

「なぁ、テオ君、僕の仕立て屋で働く気はない?」

「断る」

 即断即決に、アカツキ君は笑った。

「だよね。こんな可愛い女の子の傍は離れないよね」

 か、かわいい……?

 心臓がキュンという音を立てた気がする。

 顔が赤くなり始めているのが自分でもわかる。

「かわいいだなんて、男の子に初めていわれたよ、テオ! テオ!」

「言われなくても聞こえてるって。うるせえ、バカ」

 安定のテオの暴言も今日は受け流せる。

「私、かわいいって初めて言われたよ! アカツキ君!」

「そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいよ、レイラさん」

 爽やかににアカツキ君は私の名前を呼び、微笑んだ。

 アカツキ・キラ・マクファーレンは少々女たらしなところがある。それも乙女ゲーキャラの宿命なのかもしれない。気軽に女の子に可愛いというし、レディーファーストが徹底しているし、たまに意地悪なところもあって、乙女心をこれでもかと揺さぶるのだ。

 オラオラ系キャラに人気は及ばないが、それでも十分ファンがいる。

 彼とのエンドは、本当に幸せなのだ。

 魔法学校入学時に出会い、学園祭で共同作業を経て仲良くなり、最終スチルは、彼が作ったこの世のものとは思えないほど美しい真っ白なドレスを着たレイラと、アカツキ・キラ・マクファーレンの結婚式の場面だ。

 すべての攻略キャラクターが、背景におり、レイラとアカツキ・キラ・マクファーレンの結婚を盛大に祝福している。私は彼の仕事を手伝い、毎日を楽しく暮らしていく、というエンドだ。

 なんて素敵なエンド。

 なんて理想的な三次元でのエンド。

 三次元での彼を愛せなかったとしても、このエンドが未来にあれば、様々なことに目をつぶれる。

 平和に、このファンタジー世界で生きるのであれば、彼とのルートが最善だ。

「こ、これからも仲良くしてね、アカツキ君!」

「うん、よろしくね」

 ああ、なんてさわやかな笑顔。

 三次元での彼の笑顔は、かわらずまぶしい。

 ただ、なんでだろう、ゲームでしてたときより、あまりときめかない?

「じゃあ、また、よかったら明後日来てね?」

「うん! ありがとう」

 いやいや、イベントが積み重なってないだけだ。レイラとしての気持ちが、転生前の気持ちに追いついていないだけ。それだけだ。

 言い聞かせるように、繰り返す。

 やはり、三次元と、二次元は大きな隔たりがあるのだろう―――。

 朝露に映るお日様の光のように眩しい笑顔のアカツキ君に手を振って、私は彼の仕立て屋さんを後にした。

「そういや、あの男……こっちが名乗ってもないのになんでレイラの名前知ってんだ……? オレ、あいつのこと『ブス』としか呼んでねぇよな……?」

 呟くテオの言葉は聞こえなかった。


毎日23時~1時の間に投稿を目標にします。

2/27 誤字・表現・アカツキの目の色のブレを修正しました。

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