オラオラ系は勘弁してください。
ぱちり、と目覚めた。
記憶がある。
愛を伝える者との会話の記憶がある。あと、おぼろげながら前世での生活の記憶も。
「私は転生したのか……」
ぽつり呟いて、周りを見渡してみる。
だだっぴろい草原の中、一人で座っていたみたいだ。
自分の掌を見る。
どうだろう、手の大きさだけではわからないが、どうやら子供の状態ではないらしい。
そこで、はたと思い出す。
私の名前は、レイラだと。
レイラ・チェチェスター、十六歳。
魔法のあるファンタジー世界で健やかに育ち、あと三か月後に、魔法学校に入学する。
一人っ子で、両親は遠い国にいわゆる出張という形で魔法の仕事に言っているため、私は親戚の家に預けられている状態。
今は、魔法の勉強の息抜きに、ここまで遊びに来たのだ。
ということを思い出した。
「おや?」
頭が見る見るうちにさえていく。
レイラであるということを思い出したわけではなく、私が―――レイラが、転生したことを思い出したのほうが近い。
転生前の記憶が戻る前の―――ただのレイラだったころの気持ちも、記憶もちゃんとある。
何がきっかけで転生前の記憶が戻ったのだろうか。
はて。
しかして、ここは、転生前にあの愛を伝える者と話した「まじ☆ふぁん」の世界なのだろうということが簡単に想像がつく。
レイラ・チェチェスターという名前も、「まじ☆ふぁん」でのデフォルトの名前だったはずだ。つまりは主人公の名前。
私は本当に平和な乙女ゲームのせかいに転生したのか。
ほほをつねる。
夢……ではない。
「え、ウソ? そんなばかな」
瞬間、頭の後ろから衝撃が来た。
「レイラ、お前魔法の練習さぼるなよ!」
このだだっぴろい草原で、私以外に誰かいたのか。
あたりを見渡す。
「何もいない……?」
もしかして、愛を伝える者の亜種かもしれない。あの人? も声だけの存在だったから。
「バーカ、いまさらそういうネタはいいんだよ! こっち向けブス!」
ひどい言葉が聞こえる方向を見ると、男の子がいた。
しかし、思ったよりサイズが小さい。
そう、手のひらサイズ。
「やっとこっち見たな!」
銀髪の小さい男の子が、私のほうを見ていた。
カッターシャツと灰色のベストをつけ、サイズさえおかしくなければ、いわゆるイケメン執事みたいだった。金色の瞳が、やけに綺麗だ。
そう、サイズさえ人間と合ってさえいれば、誰もが目も眩むほどの美男子だった。
彼を見た瞬間、思い出す。
この男の子は、レイラ私とともに暮らしている妖精だ。
「まじ☆ふぁん」の世界では、小さいころから一体の妖精と暮らすのが通常だ。
親がどこかで貰ってきたり、森でスカウトしたり、妖精と一緒にいる経緯は様々だけど。ほとんどの場合、成人までずっと一緒にいることになる。
彼は小さいころ私が森で見つけて仲良くなった妖精なのだ。
ちなみに、羽はない。ポケットに手を入れて飛ぶのが癖だ。
名前は、そう。
テオ。
「ごめんね、テオ」
テオドール・ヴィンケルホルクという固い名前がついている。
似合わないかも、と呟いたら、頭を叩かれた記憶がある。
「お前がぼーっとしてるのはいつものことだけど、もうすぐ魔法学校に入学なんだぞ? それまでに準備することはたくさんあるだろ!」
「うん、ごめんね」
「やけに素直だな」
「テオの大切さを身に染みて感じてたの」
それから、この世界が「まじ☆ふぁん」ではないことを。
「……お前、ほんと気持ち悪いな、どうした。熱でもあるか? 治癒するか?」
「ううん、大丈夫。いつもありがとう」
この世界は、私が想像していたものと違う。
愛を教える者から聞いた世界とは違う。
この世界は、「まじ☆ふぁん」の続編にあたる、作品「まじ☆ふぁん☆えたーなる」だ。
妖精役がテオということから分かる。テオは続編から出てくるキャラクターだからだ。ちなみに前作との繋がりは世界観以外になく、設定だけのつながりであり、キャラクターも一新されている。そして、この続編にあたる作品は、ノーマルエンドというものがない。
誰かとくっつくまで終われない。
いや、違うな。必ず誰かとエンドを迎えて終わるのだ。
共通ルートなどない。
つまり
「必ず愛を知ることになる……?」
魔法学校でのイベントにおいて、強制的に結婚相手が決まるイベントがある。
それが、もし、私の苦手なオラオラ系の男の子とフラグがたってしまっていたら、その男の子と一生をともにしなければならないのではないか―――?
冷汗が出る。
三次元の男性に対するコミュニケーション能力が低めだった転生前の私。
特に、オラオラ系の男の人が、男の子が苦手だった。
私に万が一にでも好意を持って話しかけてくれてるのだとしても、怖い。苦手。
たとえどんなイケメンでも、だ。
「まじ☆ふぁん」でモブでいたオラオラ系の男子が何故かに人気だったことに目をつけた制作会社は、続編でオラオラ系男子を出すようになった。
テオも、その一人だ。
銀髪の髪をかきあげ、こちらを不機嫌そうに睨みつけている。
「具合悪くないなら、早く帰るぞ、おら、さっさと歩け」
「ひぃ」
結論から言うが、テオは攻略ができる。
彼のサイズが小さいのは私の魔力が少ないからで。
私が魔法士として大成するまでになれば、契約をしていたテオのサイズの自由がきく。
つまり、人間サイズにまでできる。
妖精と結婚することが珍しくない世界なのだ。
人間サイズになったテオと、結婚の約束をし、迎えるエンドがある。
「なんで顔を赤くしてんだ、レイラ?」
「え、エンドのスチルを思い出して」
「なんだそれ。すちる?」
「忘れてください……」
もう一度ほほをつねる。
夢ではない。
レイラの記憶も、転生前の記憶もある。
なら、これは現実だ。
私は―――どうやって平和に暮らしたらいいのだろうか。
せめて、オラオラ系は勘弁してください。
そう願った。
できる限り毎日投稿します。
2/26誤字・表現修正。