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おっさんが売ろうとした水晶はとんでもない価値のある物だった!

「ごめん。話し疲れて眠くなった。ちょっとだけ横になっていい?」

「いいよ。ベッドに案内してやろうか?」

「いや、そこの長椅子でいいよ」

 

 クローゼットから現れた異世界の住人の娘リリナは、ソファーに横になるとすぐに寝てしまった。

 話してて解ったんだが、この娘は頭のおかしな子じゃなくて、とても素直な考えを持つ可愛らしい子だった。

 それに病気の母親に代わって家族を一人で養っている、とてもけなげな娘でもあった。

 おっさんとしてはもう少しこの可愛い娘と話ていたかったが、眠いというのだから仕方ない。

 ここに来るまで、ダンジョン内を敵から逃げ回っていて、殆ど寝れてなかったらしいからな。

 疲れていて当然だろ。

 体に巻いてるバスタオルがはだけて、胸の大きなメロンがポロリとするラッキースケベイベントを期待しつつ、少女を眺めていることにした。

 少女は寝始めると、バスタオル一枚では寒いのか、猫のように背を丸くして震えている。

 さすがに見ていて痛々しいので、ポロリイベントは諦め、毛布を掛けてやる事にした。

 すると少女は心地よいのか、スヤスヤと寝息を立ててて寝はじめる。

 寝息を立てているだけで、ポロリイベントの発生しない少女を見ていてもなにも面白くないので、この間にやる事をやってしまおう。

 

 まずは洗濯の終わった少女の服を干す。

 木綿の様な、かなりしっかりした生地の服なので、午後四時を過ぎた今から干しても、とても乾くとは思えなかったが、干さない訳にもいかないので、ベランダに干した。

 服にしわが付かないように、パンパンと叩いてから干す俺。

 伊達に長年独身をしてる訳じゃない。

 大学卒業までは、親になにもかも頼りっきりだったけど、一人暮らしをしてからは家事関係は大体マスターした。

 自分でいうのもなんだが、今結婚したらいい主夫になれる事間違いない。


 洗濯物を干し終えたら、次はご飯の準備だ。

 昼が簡単なベーコンエッグだったので、リリナにはもう少しまともな物を食べさせてやりたい。

 俺は研いだお米を炊飯器にセットすると、寝ているリリナをそのままにして、近くのスーパーまで猛ダッシュで買い物に向かう。

 リリナが寝ている間に買い物を済ます。

 そのつもりだ。

 今晩の食事はすき焼きだ。

 すき焼きを嫌う奴なんて、この世にはいない。

 リリナもきっと気に入ってくれるはず。

 それに、さっき寝てるときに寒そうにしてたからな。

 体があったまる物がいい。

 そうなるとやっぱりすき焼きだ!

 材料は牛肉、ネギ、糸コンニャク、焼き豆腐、卵、すき焼きのたれ。

 野菜がネギだけとシンプルを通り越して、かなりいいかげんな材料だが、肉が美味ければ大抵うまく仕上がるのがすき焼き。

 無職の俺だが、ちょっと奮発して、一パック六八〇円のすき焼き肉を二パック買った。

 大急ぎで部屋に戻ると、リリナは日の落ちた真っ暗い部屋の中で、まだ幸せそうな寝顔で寝息を立てていた。

 俺が出かけている間に、幻の様に消えてしまうんじゃないかと心配していたんだが、要らぬ心配だった。

 だって、女の子がおっさんの部屋で寝てるなんて、ありえない非現実的なイベントだもんな。

 これが夢であっても、全然おかしく無い。

 リリナの起きる時間が解らないので、すき焼きは食べる直前に作るとして、次は水晶玉だ。

 PCの電源を点け、ネットオークションで相場を調べる。

 水晶玉の値段は千差万別、値段が有って無いような物だった。

 二〇センチメートルクラスの水晶玉だと、一万円位から三〇万円ぐらいまで。

 高く出品しても売れる訳が無いので、最低価格帯の一万円で売る事に。

 でも、入札履歴を見てみると、殆どの出品は入札されてなくて、売れてる気配が全くなし。

 水晶玉を買うなら、怪しいガラス玉の偽物が混じっているオークションじゃなく、普通に品質保証をしてくれる店で買うもんな。

 とは言っても、こんなものを持っていても何の役にも立たないので、出品することにする。

 では、オークション出品用の写真を撮る事にしますかな。

 オークション出品用の写真を撮るにはコツがある。

 絶対にフラッシュは使ってはいけない。

 フラッシュを炊くと、デジカメが勝手に明るさ調整をしてしまい、背景が暗くなってしまうからだ。

 おまけに影も出来る。

 フラッシュを炊くだけで貧相な写真の出来上がり。

 なので、デジカメはフラッシュを使わずに、照明を複数の角度から当てて撮るのが鉄則。

 写真を撮るコツその二。

 背景は無地で取る事。

 オークション用の写真を撮るときは無地が鉄則。

 なぜかというと、ピントをマニュアルで設定出来る一眼レフでもない限り、カメラのオートフォーカス機能が働いてしまい、ピントが背景に合ってピンボケ写真になってしまうからだ。

 水色の布の上に商品を置いて撮る。

 水色の布が無ければ、商品の下に白や黒の紙を敷いてもいい。

 手を抜いて直に机の上に置いて撮ると、机の傷や汚れのせいで商品まで汚く見えてしまうし、もっと手を抜いて床の上なんかで撮ると、抜け毛やフケなんかの嫌な物まで写真に写ってしまう。

 せっかく出品した商品の、商品価値が格段に落ちてしまうのだ。

 俺があらゆる撮影テクニックを使い、オークション出品用の写真を撮っていると、ピッピっと鳴るデジカメの撮影音に驚いて目が覚めたのか、目をこすりながらリリナが俺の横に来た。


「おはよう」

「目が覚めたか」

「おっさん、なにしてるの?」

「この水晶玉を売るから、写真撮ってるんだ」

「うわ! なにこれ! 何処で手に入れたの?」

 

 水晶玉を見つけたリリナが興味津々で水晶玉に顔を近づける。

 

「洞窟、いやダンジョンの宝箱だけど?」

「いいなー。これ、このダンジョンの激レアのお宝の、精霊水晶じゃん!」

「これガラス玉じゃなくて、激レアのお宝なのか?」

「そうだよ。このダンジョンの当たりアイテム。この水晶玉に、ものすごいエネルギーが秘められてるんだ。これ売ったら大きなお屋敷一軒は確実に買えるね」

「なんだって! いまこっちの世界での相場調べたけど、どう見ても食事一〇回分ぐらいの価値しかないんだけど?」

「こっちの食事、たっかー!」

「いや、多分こっちの世界では、この玉の価値が解ってないんだと思う」

「なんなら、僕が売ってきてあげようか?」

「いいのか? 頼んでいいのか?」

「まかせて!」

「じゃあ、この水晶を売って来てくれたら、儲けの半分やるから!」

「そんなに貰っちゃっていいの? ほんとにいいの!? マジで?」

「遠慮するな。こっちの世界じゃ、殆ど価値のないものだから、リリナが売ってくれ無かったら、はした金にしかならないしな。売って来てくれるリリナにも、半分貰う権利が有るから!」

「おっさん……。なんか言ってる事が男前過ぎて、惚れちゃいそう……」

「じゃあ、交渉成立って事でいいよな」

「うん、もちろん交渉成立! おっさんありがとう! これでおかあさんと妹に、美味しいもの食べさせてあげられるよ。一生かけて恩返しするからな!」

「一生ってそんな大げさな。こんな事ぐらい気にすんなよ。あ、儲けはこっちの世界で換金できる、金貨か(きん)で持ってきてくれよな」

「まかせて!」


 二人はガッシリと握手を交わした。


「さ、前祝いに飯でも食おう。今日は奮発してすき焼きだ! リリナ、肉は嫌いじゃないよな?」

「好きだよ」

「じゃあ、今晩の料理は気に入ると思うぞ」

「どんな食事が出てくるんだろう? 楽しみだなー」

 

 目をキラキラと輝かし、俺の包丁捌きを見守るリリナ。

 ちなみにおっさんは、見つめられるほどの包丁テクは持っていない。

 やがて、タレと共にすき焼き肉を煮込み始めると、いい匂いが部屋の中に立ち込める。

 クンカクンカと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎまくるリリナ。

 リリナは匂いにノックアウトされたのか、よだれを垂らしそうな表情をしている。

 

「早く食べたいよー!」

「あと少しだから待ってくれ……よし出来上がりだ!」

 

 ダイニングテーブルにフライパンを持っていく。

 一人暮らしなので、すき焼き鍋と言う風情のある物が無いのが少し残念。

 でも、味は変わらないはず!

 俺はリリナの取り皿に生卵を入れると、かき混ぜてやった。

 

「直接食べると熱くて火傷するから、この溶き卵に漬けてから食べてくれ」

「うん解った! 食べていいかな?」

「いいよ!」

 

 フォークで肉をつつくリリナ。

 そして、溶き卵に漬けたすき焼き肉を口に運ぶと、リリナの顔がだらしなく崩れた。

 

「おいしー!」


 あまりの美味しさに、危険な薬物でも摂取したかの如く、とろんとした表情をするリリナ。

 さすが、一パック六百八〇円のすき焼き肉だけ有って、破壊力が半端ない!

 

「こんなおいしいお肉初めて食べたよ。お肉なのにものすごく甘いし、お肉なのに凄く柔らかくて、とろけるし、お肉なのにものすごく味が濃い! なんだよ! これ! 本当にお肉なのか?」

「うまいだろ?」

「うまい! うまい! こんなおいしいもの食べたことない!」

「うまいよなー」

「おっさんはこんなもの毎日食べてるの?」

「こんな高いものものを、毎日食べれるわけないだろ。特別な事が有った日だけだよ」

「マジか? 僕がこんなもの食って本当にいいの?」

「いいよ、食え食え!」


 あまりにリリナが美味しそうに肉を食うので、おっさんは遠慮して白滝と豆腐だけ食った。

 すき焼きは一瞬でなくなった。

 

「ほんと美味かったよ、ありがとう!」

「水晶玉が売れたらその金で何回も食えるぞ!」

「マジ? じゃあ速攻で売って来るよ!」

 

 じゃあ、行ってくる!と水晶玉を抱えてクローゼットに飛び込もうとするリリナ。

 俺はリリナの手を持ってそれを止めた。

 

「ちょいまて!」

「なんだよおっさん!」

「お前何か忘れてないか?」

「なんだよ? あ、宿代か。ちょっと待って今払うから!」

「ちげーよ!」

「じゃ、なんだよ?」

「服だよ服! タオル捲いただけで外に行くのか?」

「あっ!」

 

 リリナは体にタオルを巻いただけだった。

 これで外に出たらヤバい。

 今度こそ完全にヤバい人になってしまう。

 さすがにそれはリリナも恥ずかしいのか、顔を真っ赤にした。


「ううう」

「今、ベランダで干してた服を取り込むから、ちょっと待ってくれな」

「僕の服を洗っておいてくれたんだ。ありがとう、おっさん」

「気にすんなって……ありゃ、やっぱりまだ乾いて無いや。まだびしょびしょだな。明日の昼ぐらいだったら乾いてると思うから、そこまで待つか?」

「後はボス部屋行ってサクッと死ぬだけだから濡れててもいいよ」

「死ぬのかよ!」

「さすがに四人PTじゃないと、ここのボスは倒せないしね。それに向こうに着いたら、すぐに着替えるからそのままでいいよ」

「そっか。じゃ、ほら、着替えだ。着替えは脱衣所でやってくれよ。ここで着替えてリリナの綺麗な裸を見せつけられると、おっさん興奮して鼻血出しちゃうからな!」

「えっ! 今なんて言った?」

「ごめ、軽い冗談だよ。スケベなこと言ったのが気に障ったらごめん」

「ちがうよ! そんなこと言ってるんじゃない! 綺麗とか鼻血を出すとかなんとか……」

「あ、ごめん。ちょっとおっさん調子乗っちゃったよ。リリナの裸があんまりにも綺麗なもんで……あ、また……すまん」

「うわあああ!」


 叫び始めるリリナ。

 セクハラ発言してしまったから、叫ばれても仕方ない。


「ごめん! マジごめん!」

「ちがうよ! 僕、綺麗なんて言われたの初めてだから! 僕うれし過ぎで! ほんと、おっさん、僕の事綺麗だと思う?」

「うん! すげー綺麗だと思う」

「嘘だと思うけど、そんな事生まれて初めて言われたので、凄く嬉しい!」

「嘘じゃないぞ! 凄くスタイルしいし! 顔も綺麗だし! こんな女の子を嫁さん出来る奴は幸せ者だな!」

「マジ? だって僕、胸が牛みたいに大きいんだよ? 気持ち悪くない?」

「気持ち悪い訳があるか!」

「それに僕のお腹、肉が全然ついて無くてぺったんこなんだよ? 全然むちむちしてないんだよ?」

「いいじゃないか! 健康的で!」

「うわあああ! そんなこと初めて言われた!」

「いいか? こっちの世界じゃな、胸は大きければ大きいほどスタイルがいいとされるし、お腹も引っ込んでれば引っ込んでるほど、スタイルがいいんだよ!」

「ほ、ほんとう? こんな僕でもスタイルがいいの?」

「ああ、一万人に一人ぐらいの理想の体型だ!」

「あわわわ。そこまで言われると、おっさんに恋しちゃいそう!」

「しろよ! 今ならおっさんには嫁も彼女もいないぞ!」

「本当なのか? じゃあ、お願いがあるんだけどいいかな?」

「なんだよ?」

「この精霊水晶を売って戻って来たら、僕とつきあってくれないかな? 実は僕、おっさんの事一目惚れしちゃったんだ」

「いいぞ! 恋人でも結婚でもしてやるから、大急ぎで売ってこい!」

「やったー! 約束だからな!」


 リリナは脱衣所で服を着替えると、クローゼットに直行した。


「じゃ、行ってくる!」

「おう! いってこいー!」

「あ、あと言い忘れてた。僕が寝てるとき、毛布掛けてくれてありがとう。あと、僕もおっさんの事ものすごくタイプなんだ。厳しい事言ってるようでものすごく優しいし、それに顔も好み!」

「この俺の顔がか?」

「うん! 凄いイケメン! 心も顔も!」

「マジか!」

「マジだよ!」


 リリナは、恥ずかしい言葉を言って赤らんだ顔を隠すように、クローゼットの中に勢いよく飛び込んでいった。

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