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エピローグ

 俺はあのリリナとの再会の日以来、気合を入れて働く事にした。

 宿屋稼業の傍ら毎日大量の金貨を貴金属店に運び換金。

 その換金したお金でLED懐中電灯や充電池、ソーラーパワー充電器、フリースのジャージ等異世界で売れる物を大量に買い込みどわ美に売って来てもらう事にした。

 そしてそれを売って手に入れた金貨を換金し……。

 所持金は倍々ゲームの様に増えていった。

 この調子なら一ヶ月で虹水晶を買える!

 またリリナに会える!

 それを楽しみに仕事をしていた。

 

 だが、どわ美は機嫌がすこぶる悪い!

 今までもあまり機嫌がいい事は少なかったが、あの日以来どわ美の機嫌は最悪で荒ぶっていた。

 俺はどわ美を呼ぶとダイニングテーブルに着かせる。

 

「どわ美、ちょっとお前と話がしたい」

「どうしたっ?」

「最近機嫌が悪くないか?」

「そうかっ?」

「もしかして俺がリリナと会う事を望んでないんじゃないのか?」

「そんなことは無い、がっ」

「どうした? 何か言いたいことが有るなら言えよ!」

「いや、何もない」

「有るんだろ? 有るなら言えよ」

「いいのかっ? 言ってしまって」

「ああ、最近のどわ美はなにか俺に不平不満が有るみたいだからな。夫婦で隠し事をするのも嫌だから、この際すべてを吐き出してくれ」

「解った! 言うぞっ! 言うからなっ!」

「ああ、言ってくれ」

「まず、一つ目。この輸出商売はもうすぐ出来なくなる」

「何でだよ? 商売は順調だろ?」

「商売は順調だっ。でも私がもうすぐ動けなくなるっ」

「なんでなんだよ! リリナの為に働くのが嫌になったのか?」

「違う。そんな事じゃないっ!」

「じゃあ何だよ?」

「私のお腹の中にお前の新しい子供を身籠っている。だからツワリでもうすぐ動けなくなる」

「なんと! おめでとう!」

「い、祝ってくれるのかっ!? 商売出来なくなるというのに!」

「当たり前だろ! 俺とどわ美の子じゃないか! 祝わない訳がないだろ!」

「おっさん! いいのか? 商売が出来なくなっておっさんに怒られると思っていたんだけど祝われるとは思ってなかったっ! ありがとうっ!」

「元気な子供を産めよ!」

「うんっ!」

「まだ言いたい事は有るのか?」

「あるっ!」

「なんだ?」


 どわ美は椅子の上に立ちあがり激高した!

 

「お前、リリナとの関係はこのままでいいのかよっ!」

「このままってなんだよ?」

「クマのぬいぐるみに憑依して会いに行くだけで満足してるのかっ? そんな事、何の解決にもなってないじゃないかっ! こんな終わり方で本当にいいのかよっ! こんな結末で納得してるのかよっ!」

「それは……」

「お前はリリナをここに呼び寄せたくないのか?」

「呼びたい」

「お前が向こうの世界に行ってリリナと一緒に住みたくないのか?」

「一緒に住みたい」

「じゃあ、なんでクマのぬいぐるみで我慢してるんだよ! リリナがここに来れないのは何らかの力が働いているからだと思わないのか? おかしいじゃないか! なんでリリナの娘はここに来れるのに、なんでリリナだけここに来れないんだ? 何万回もダンジョンに潜ってもここに来れ無いのはどう考えてもおかしいだろ! 明らかに何らかの力が働いてるんだよっ!」

「確かに……そう言われるとおかしいな」

「その根本的な問題の解決をしないと意味ないだろっ!」

「でも、その原因はダンジョンマスターではなく、ダンジョンアーキテクターが関わっているらしいんだろ? そのダンジョンアーキテクターは何処にいるのか解らない。完全にお手上げ状態じゃないか?」

「その手掛かりを知る人物が一人だけ居るっ!」

「だれだよ、それは?」

「お前がザマスのおばさんと呼んでいる隣のおばさんだっ!」

「なんだと!」

「アイツの事を鑑定したこと有るか?」

「ない」

「アイツは勇者なんだよ!」

「マジかっ! あの強さは一般人だとは思ってなかったがまさか勇者だったとは!」

「マジだっ! 以前ホームセンターに行って工具買った時にアイツと鉢合わせしたことが有るだろ?」

「そんな事有ったかな?」

「有ったんだよ。その時、お前がアイツは強いというから私はアイツを鑑定したんだ。そうしたらアイツは勇者だったっ!」

「なんだとっ!」

「アイツは以前からこのマンションに住んでいたはず。それならこの部屋に住んでいたダンジョンアーキテクターの事も知っているはずっ!」

「なんでそんな重要な事、今まで黙っていたんだよ!」

「他にも色々あって、忙しくてキレイサッパリ忘れていたんだっ! それにお前も鑑定しているもんだと勘違いしていたっ。この前ダンジョンマスターが三年前までこの部屋にダンジョンアーキテクターが住んでたと話してたろっ? それで思い出したのさっ!」

「なるほど。じゃあ、グズグズしていられないな。アイツの部屋に乗り込むぞ!」

「おうっ!」


 俺とどわ美は隣の部屋のインターフォンを押す。

 だが出てこない。

 どわ美はドアが凹むんじゃないかと思えるほど激しく叩きまくった。

 

「出て来いっ! 出て来いよっ! ザマス!」

 

 中から慌ただしい足音が聞こえ、バスタオルを巻いたザマスのおばさんが飛び出して来た。

 

「な、何事ザマス! ザマスって誰ザマス?」

「ちょっと聞きたい事が有るんだっ。ダークエルフの勇者クリルルっ!」

「な、なぜその名前を!? まさか隣の住民が敵だったとは!」

「敵じゃないです。ちょっと聞きたい事が有るだけなんです」

「そうザマスか。着替えてくるので中で待ってるザマス」


 そう言って通されたのはダイニング。

 部屋の作りはリフォーム前の様で昭和の作り。

 俺の部屋とかなり違い古臭い作りだったが、部屋自体はかなり綺麗に掃除されていた。

 すぐに服を着たザマスのおばさんが現れた。

 

「なにを聞きたいんザマス?」

「隣の部屋っ、つまり私が今住んでいる部屋に昔住んでいた住民の事だっ」

「知ってるザマスよ」

「知ってるのかっ! 何でもいいから情報を教えてくれっ! 今住んでるとことかっ、名前とかっ!」

「そこまで深い付き合いはしてなかったザマスから引っ越し先とか詳しい事は解らないザマス。でも写真なら残ってるザマス」

「マジかっ! ぜひ見せてくれっ!」

 

 ザマスのおばさんは押入れの中からアルバムを取りだした。

 

「この写真ザマス。この写真の人が前の住人ザマス」

 

 ザマスのおばさんの指差した顔は俺の知っている顔だった。

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