ダンジョン脱出編14 すき焼とダンマス
俺はダンジョンマスターのメイズさんを客室に案内した。
相手はおっさん如き小者は小指一本でも即死させられるぐらいの実力者である。
なにか粗相が有って怒らせたら、おっさんだけでなくアイビィさんもモコナちゃんも巻き添えをくらって命の保証はない。
おっさんは手に冷や汗をかきながらメイズさんを部屋の中へお連れした。
「いい部屋ね~」
「ありがとうございます」
「特にこのベッドがいいわねー。ここであなたが色々な女の子たちと何度も絡んだベッドなのね~。結構よかったわよ~」
「えっ! もしかして女の娘達といちゃいちゃしてるとこを見てたりしました?」
「もちろん~」
「ど、どこまで見てました?」
「最初の子が来てから全部かな~?」
「マジですか!」
「だって~、暇だったし~、面白そうだったんだもん~。さっき部屋に居た人間の女の子としてるとこも見たわよ~。あの時はあの子のお兄ちゃんにこの部屋に監禁されてて、どうなるかと見ててハラハラして楽しかったわ~」
「ううう。見られてたんですね」
「ねえねぇ~? もちろんわたしともしてくれるのよね~?」
「な、何をです?」
「エッチよ、えっち!」
「いや、そ、それはちょっと! ダンマス様とエッチなんて滅相も無い!」
「あははは! なに顔を真っ赤にしてるのよ~! 冗談よ冗談~! ふふふ!」
「冗談はやめて下さいよ。寿命縮まりましたよ」
「ふふふ。あなた可愛らしいわ~。さ、今度はお風呂に案内してくれる?」
「は、はい。今すぐお風呂を沸かしてきますので、しばらくお待ちください」
俺は大慌てで風呂場に行って風呂を洗い始める。
湯船を洗い、風呂桶も洗い、鏡も洗い、床も洗い、壁も洗い、排水管まで洗った。
とにかく洗えるとこは全部だ!
髪の毛一本残さず清掃だ。
チン毛なんて落ちててダンマス様のご機嫌が斜めになったら大問題だ。
なにか粗相が有って怒らせたら大変!
俺は細心の注意を払って風呂場を洗い、湯を張った。
「まだかしら~」
声の方向に振り向くと、脱衣所に全裸のメイズさんが立っていた。
なんか凄いよ!
メイズさん。
むちむちボディーって言うの?
ぜんぜん太って無いんだけど全身が丸みを帯びたカーブで整えられている。
思わずしゃぶりつきたくなる身体。
おっぱいも程よく大きく、思わなくても吸い付きたくなる!
この人に欲情したらヤバいのは解ってたけど、おっさん如きの貧弱な意思では下半身を制御できない程の素晴らしい豊満なボディーだった。
「なに見とれてるのよ~」
「ご、ごめんなさい。あまりにもきれいな物だったので」
「素直でいいわね~。かわいいわよ~」
「まだ、湯を張っていますが、よろしかったらどうぞ」
「ありがとう」
「なにか有りましたら、お声を掛けて下さい」
「早速だけどいいかしら?」
「な、なんでしょう?」
「体洗ってくれるかしら?」
「こ、このおっさんがですか?」
「そうよ~。痛くしないでね~」
「は、はい」
俺は新品の綿のタオルをストッカーからだすとボディーソープで泡立て身体を洗い始める。
「気持ちいいわよ~」
「ありがとうございます」
「こうして他の人に身体を洗って貰うのは何年ぶりかしら~。すごく気持ちいいわ~」
すると、メイズさんは俺の頭を抱きしめ泡だらけの胸に埋める。
やべー!
豊満な胸に顔を押し付けるなんてやめてくれ!
おっさん理性のタガが外れて襲っちゃうぞ!
でも、そんなことしたら命が無いので我慢我慢!
俺は首を外そうと必死に抵抗した。
だが、この魔女は凄まじい力を持っていておっさん程度の力じゃビクともしなかった。
「な、なにを!」
「こうして男の人の人の頭を抱きしめるのも随分と久しぶり~」
「や、やめて下さい。こんな素晴らしい胸に顔を埋められてたら理性がふっ飛んじゃいます!」
「ごめんなさいね~。久しぶりの男だったのでついつい~。なんかあなた見てると欲望の抑えが効かなくなるのよ~」
メイズさんはすぐに俺の首を解放してくれた。
ホッとしたような惜しい様な複雑な感覚。
俺は大きなお胸で止められていた呼吸を再開してリビドーメーターを必死に下げる。
「はぁはぁ」
「悪かったわね。後は一人で入るからいいわよ~」
「はい。ではご飯を作ってきます」
「ごはんは、すき焼きでお願いね」
「わかりました」
夕飯はすき焼きの御指名だ。
異世界人にはやたらすき焼きの受けがいい。
リリナがすき焼き屋をやりたいと言ってたけど、異世界で営業したら結構繁盛するんじゃないだろうか?
俺は泡だらけの顔をタオルで拭うと脱衣所を出る。
ドアの前には心配そうなアイビィさんが待っていた。
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫。なんとか理性で抑えた」
「理性?」
「いや、何でもない。これからご飯の材料を仕入れてくるから、アイビィさん悪いんだけどご飯炊いておいてくれないかな?」
「はい!」
「あと、ダンマス様にはくれぐれも粗相のないように注意して。モコナちゃんは大丈夫だと思うけど一応注意しておいて」
「解りました」
俺はダッシュで自転車を転がす。
駅前のショッピングモールに併設のスーパーまで猛ダッシュだ。
牛肉はスーパーの精肉コーナーではなく肉専門店で最高級和牛を買った。
グラム一〇〇グラム一〇〇〇円の超高級和牛だ。
これは、うんまい!はず。
絶対マズイ訳がない!
それを一キログラム。
これなら足りないことは無いはず!
肉が足りなくてキレたダンマス様が大暴れしたりして東京の大ピンチになる事だけは避けたい。
ネギ、糸こんにゃく、春菊、焼き豆腐、人参、白菜、エノキ茸、シイタケ、〇味のすき焼きのタレ。
思いつくだけの材料を買い集めた。
今夜のすき焼きはいつもの手抜きのすき焼き風すき焼モドキとは違って超本格派だ。
絶対美味いはず!
俺はほくそ笑みながら猛ダッシュで家へと戻った。
「ただいまー!」
俺はダイニングテーブルで惨状に目を疑った。
椅子に座るダンマス様の首にモコナちゃんがぶら下がってた。
モコナちゃん、ダンマス様の首にぶら下がってぶらぶらしてる。
思いっきり勇者である。
そのまま首を絞めてダンマス様を退治するつもりなのか!?
「ノー!!! モコナ、ダンマス様に何してる!!!」
俺がダンマス様から必死でモコナちゃんを引き剥がそうとするとダンマス様が止めた。
「いいのいいの~。この子可愛いから許すわよ~。ねー、モコナちゃん、もっとおねえちゃんと遊びましょうね~」
「ありがとう! おねえちゃん」
おれはアイビィさんに事情を聴く。
「なんか、ご飯の準備をしていたら、お風呂から上がったダンマス様がこちらの部屋に来てモコナちゃんとお話しし始めて気が付いたらあんな感じになっていました」
「そうか。粗相は無かったか?」
「ええ。ダンマス様は結構子供好きみたいでずっとあんな感じなんです」
「そっか」
俺はモコナの動向を横目で監視しながらすき焼きを作り始める。
鍋は二つだ。
メイズさん専用の超高級牛肉を使った鍋とおっさん達が食べる普通の牛肉を使った鍋だ。
肉を牛脂で軽く焼いてから煮込み始めると脂がとろけていい匂いを出し始める。
さすが一〇〇グラム一〇〇〇円の牛肉だけ有っていい匂い出しやがるぜ!
煮えにくい糸こんにゃくとキノコやニンジンを先に煮込み、最後に入れた葉物野菜がしんなりした所ですき焼きは完成だ。
「さ、メイズさんはそちらの鍋をお食べ下さい」
「これ一つわたしだけで食べていいの~?」
「はい! 材料も最高級の物で、特別製になっています」
「ほんと~」
「それではお食べ下さい」
メイズさんは牛肉を食べると顔がほころぶ。
「んまぁ~! これ、んまぁ~! すごく美味しいわよ~!」
口に頬張りながら美味しい美味しい言っている。
どうやら気に入ってくれたようだ。
すき焼きを嫌う人はあんまりいないもんな。
たぶんすき焼きを嫌うのはベジタリアンの〇イケルジャクソンと生卵が主食の〇ッキーぐらいだ。
おっさん一安心。
ほっと胸を撫で下ろした。
おっさんが、メイズさんを見ているとモコナちゃんが声を心配そうに声を掛けて来た。
どうやら箸を付けてないので心配したらしい。
「おとうさん、食べないの?」
「食べる食べる!」
慌てて、すき焼きを食べる俺。
肉を口に運ぶと甘いタレと肉汁が口いっぱいに広がる。
うめーな。
すき焼き!
家族皆んなですき焼を頬張っていると、ガタリと音を立ててメイズさんが椅子から立った。
「不味い!」
「えっ!」
「美味しくない!」
「えっ!? な、何か気に入らなかったですか?」
「なんでわたしだけ一人で食べないといけないのよ! こっちの鍋だけ毒でも入ってるの?」
「いえいえそんな事は一切ないです!」
「じゃあなんでわたしだけ一人なの?」
「メイズさんの鍋だけ高級な材料を使っていまして……」
「こんなの高い材料使っても一人で食べたら美味しく無いわよ! みんなと一緒に食べたいの! わたしもこっちの食べるわ~!」
まずい方のみんながつついてる鍋を食べ始めるメイズさん。
あ、別にまずくは無いか。
食べると、一人うんうんうなずくメイズさん。
「これよ~! わたしはこう言うのが食べたかったのよ~!」
「おねえちゃん美味しい?」
「うん、おいしいわ~。モコナちゃんも美味しい~?」
「うん!」
その後みんなで高い方のすき焼きまで平らげました。
一〇〇グラム一〇〇〇円の牛肉のすき焼き美味しかったです。
破壊力半端ねー!
口の中でとろける牛肉。
美味し過ぎでございます!
しかも味が濃い!
すき焼きのタレに負けない味の濃さ。
凄いわこれ!
あんまりおいしくて涙出てきたもん。
これ食べたらもう他のすき焼き食べれないね。
いや、食べるけど。




