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ダンジョン脱出編11 魔界へと通じる部屋

 今回の作戦の目的は『ボス部屋が魔界に有る』というどわ美の推論を実証する事らしい。

 なんでそんな面倒な事をするかと言うと、それを証明しないと頭の固い教授連中が『ボス部屋が魔界に有る』事や『ボス前部屋が虚無空間に有る』事を信じてくれず話が進まないからだそうだ。

 その為に向こうの世界の魔法の最高学府である魔導研究院からその実験の証人となる研究員を呼び寄せたらしい。

 

 ボス部屋攻略の作戦はこうだ。

 まずはボスを倒す。

 これはおっさんとロコナがする。

 そしてクリアのレジストブレイカーで壁の魔法耐性を下げる

 範囲が広いのでかなり広い範囲を念入りに行う。

 そして土と炎の特大の混合魔法を発射。

 巨大な溶岩の塊が放たれるとの事。

 その直撃を受けたボス部屋の壁は壊れるはずだ。

 その後は何度か溶岩弾を連発して魔界側のダンジョンの外にまで出ると言う事だった。

 

「よしっ! 作戦通りいくぞっ!」

「おう!」「はい!」

 

 ボス部屋に飛び込むと禍々しい一つ目の巨人が待ち構えていた。

 サイクロプスだ。

 高さ三メートル。

 この前のゴーレムより明らかにデカい!

 その巨人は粗末な青い布の腰巻だけを付け右手に巨大な棍棒を持っていた。

 あのこん棒の直撃を受けたらひとたまりもない。

 しかも棍棒がバカでかいだけ有って攻撃範囲が広い。

 俺一人ならヒット&アウェイでどうにかなりそうな敵だったが、俺が避けるとドワーフ三人の後衛陣に当たりかねない攻撃で、三人を守りながら戦うには厄介な敵だった。


「サイクロプスだなっ!」

「ちょっと厄介な敵だな」

「なあに、こ奴は雑魚だっ。私に任せろっ」


 どわ美は腰から取り出した短剣を片手に素早い動きでサイクロプスとの距離を詰める。

 サイクロプスがどわ美に向かって両手で持った棍棒を全力で振り下ろす。

 どわ美はひょいと棍棒を避けた後にぴょんと棍棒の上に載ると前かがみになったサイクロプスの肩にまで駆け登る。

 

「わるいなっ!」


 サイクロプスの視線が一瞬どわ美に向く。

 その刹那、どわ美は短剣をサイクロプスの首に突き立てる。

 何やら呪文の様な物を唱えながら、短剣を突き立てたまま首の廻りをぐるりと一周するどわ美。

 サイクロプスの首の廻りにぐるっと一周、血の輪が出来たかと思うと、ゴトリと音を立てて首が落ちた。


「つえええ! し、はえええ!」

「まあ、こんなもんさっ。私だってこの六年間遊んでたわけじゃないっ」

「それにしても凄いな! どわ美見直したよ!」

「そうかそうかっ!」

 

 どわ美は満足げに満面の笑みを浮かべていた。

 サイクロプスの死体は霧が消える様に消え、討伐報酬の宝箱と魔法陣を残して消えた。

 

「よし! 魔法陣があっちの方に出たって事は、あっち側の壁を破壊すれば魔界に出れるはずだなっ! 魔法陣を踏まない様に気を付けて作業しろよっ!」

「はい!」

 

 作戦通り作業が始まる。

 クリアが短剣を取り出すし、短剣に呪文を掛けると短剣が明るく輝きだす。

 そして壁に絵を書く如く、巨大な魔法陣を刻み込む。

 その魔法陣はオレンジ色の光で輝き始めた。

 俺もレジストブレイカーを使えるが明らかに別物の、遥かに高度なレジストブレイカーだった。

 壁には魔法陣が三つ書き込まれた。

 

「出来たよ!」

「よし、魔法耐性下げは完了だなっ。二人の人生最高の特大の呪文を真ん中の魔法陣にぶち込んでくれっ!」

「はい!」

 

 二人の魔法使いの詠唱が始まる。

 

「母なる大地の女神ガイラよ、我に大地の力を与えたまえ……」

「荒ぶる炎の蛮神フレムよ、その荒ぶる炎の力を我の元に召喚し……」


 二人の魔法使い、クリアとペリアの掌の中に目が眩むほどの光が集まって来た。


「いくわよ!」

「いいわ!」

 

「ゴッド・ガイラ!!!」「ゴッド・フレム!!!」

 

 二人の手のひらから地響きのような音を立て、土と炎の呪文が発せられる。

 そして二つは混ざりあう。

 ヘビがとぐろを巻くような流れを見せたあと、二つの呪文は巨大な溶岩の塊となり壁に突進した!

 その大きさは天井と床に収まりきらない程の大きさ!

 明らかに規格外のサイズであった!

 

「凄まじいなっ! さすが魔導研究院の研究員だけは有るっ!」

「なんなのこれ?」

「どうしたのこれ?」

 

 クリアとペリアの顔を見ると明らかに驚いた顔をしていた。

 俺は嫌な予感がした。

 俺は前もこれと同じような事を体験している。

 たしか、フィーナに魔法を教えて貰ったときの事。

 俺の万能の指輪のせいで魔力が想像以上に上がってしまい事故を起こし掛けた時の事を。

 俺は物理防御呪文と魔法防御呪文を数度掛けると「伏せろ!」と叫び、嬉々として見ているどわ美と呆然として立ち尽くす二人を抱き抱えると床に伏せさせた。

 

「なんなのこれ?」

「こんなのわたしのせいじゃないよ!」

 

 それと同時に凄まじい爆風が重低音を立てながら頭のすぐ上を通り過ぎた。

 その爆発はまるで爆心地に居るかのような凄まじさ。

 溶岩が何度も頭の上を渦を作り通りながら通り過ぎていった。

 伏せながらどわ美が俺に叫ぶ。


「なんなんだっ? これはっ!」

「たぶん、万能の指輪の影響で呪文が暴走した」

「いいなっ! いいぞっ!」

「いいのかよ!」

「私が求めていたのはこのぐらいの火力だっ! そうでも無ければダンジョンマスターが作ったこのボス部屋の封印は解けまいっ!」

 

 数度溶岩の川の様な物が頭の上を通り過ぎた後、部屋は静寂に包まれた。

 辺りは爆炎と爆煙による煙で前も見えない程。

 やがて静寂は喧噪と変わった。

 何やら聞いた事の無い言葉。

 でも言っている意味は解る。

 

『何が起こったんだ!』

『一体どうなってるんだ!』

『煙を窓から追い出せ! これじゃ前が見えん!』

『消火器もってこい! とにかく火を見つけたら片っ端から消せ!』

『けが人はいないか! いるならすぐに病院に運んでけ!』

 

 煙が窓から追い出されて辺りが見えるようになると俺は腰を抜かしそうになった。

 目の前には今までボス部屋で見た事の有る様々なモンスター達が居たのだ!

 

「これはいったい!?」

「私の仮説通りボス部屋は魔界に繋がっていたようだが、運悪く魔物の巣に繋がってしまったようだな」

 

 壁は特大の呪文を受けて土煙を巻き起こして壁は崩れ去った。

 いまでも、ポロポロと壁の破片が上から落ちてきている。

 多くの魔物たちが俺達をみて怯えていた。

 

『人間だ!』

『人間が攻めて来た!』

『殺されるぞ!』

『逃げろ!』

 

 魔物の巣では招かれざる客の侵入者の人間が現れたので大騒ぎだ。

 そんな中にボムっちの姿が見えた!

 ボムっちは俺の姿を見つけると笑顔で近寄って来た。

 サイズも元通りに戻っていた。

 

「ご主人様! ご主人様じゃないですか! どうしたんですか? 魔界に何の御用ですか?」

「ここが魔界だと!?」

「はい、ここは魔界でございます。正確に言うと魔界の『冒険者ギルド』でございます。おかげさまで魔界に戻れました」

「そうか良かったな。あらから姿が見えなくて少し心配したぞ」

「ご心配おかけしました。それにしてもボス部屋って冒険者ギルドの中に有ったのですね。長年冒険者をやってるけど知りませんでした」

「俺もびっくりだよ」

「積もる話もありますし、そんな所に立っていないでどうぞこちらに」

 

 ボムっちが部屋の中に有るテーブルに案内する。

 俺がボス部屋を出ようとするとどわ美が俺の腕を引っ張って止めた。

 

「待て! 行くな!」

「どうした?」

「壁が戻る!」

 

 壁は端から一瞬で何事も無かったかのように修復された。

 そして元通りのボス部屋へと姿を戻した。

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