ダンジョン脱出編10 どわ美とメイド服
夕方、リビングでみんなで夕飯を作っていると、どわ美が戻って来た。
「ふー、やっともどれたぞっ!」
「お母さんお帰りなさい!」
「ロコナさんお帰りなさい。お疲れさまでした」
「お! モコナっ! その服どうしたんだっ?」
「お父様が買ってくれました。お姉ちゃんとおそろいの服です。似合うでしょ?」
「いいなー! 欲しいなー!」
どわ美は俺の前にやって来ると、俺を睨む!
「私には無いのかっ! わたしもあの服来たいぞっ! 私以外の嫁にだけ買ってずるいと思ってたがっ、正妻だから言うのを我慢してたんだけどっ、モコナにも買ったんだろっ! わたしにもくれよっ!」
「ごめん、忘れてた」
「無いのかよっ! 酷いなっ! 今度買うんだぞっ! 絶対だからなっ! いいなっ!」
「うんうん。もちろんいいぞ。買ってやる! 買ってやる!」
「なら許す!」
話が一段落したのを見計らって、玄関ロビーから遠慮がちな声が聞こえる。
「あのー、よろしいでしょうか?」
なにやら玄関ロビーから女の子達の声が聞こえる。
慌てて小走りで駆けつけると、ドワーフの二人組の女の人が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「ロコナさんいらっしゃいます?」
「あー、忘れてたわっ! わたしの連れだっ! ボス部屋の攻略をする魔法使いを向こうの世界から連れて来たっ!」
「なるほど、お客さんでは無くて、ロコナさんのお連れさんですか」
「火の魔導士のクリアと申します。こちらは妹のペリアで土の魔導士をしています。よろしくお願いします」
「よろしくです」
「この魔導師達にボス部屋の壁に大穴を開けてもらおうと思ってなっ。魔導士の適性があまり無いと言われているドワーフだがっ、この姉妹は規格外でなっ! 半端ない破壊力を持った魔法使いなんだっ!」
「そうなんですか。よろしくお願います。自分はこちらの宿の主人をしています。何かあったら気軽に声を掛けて下さい」
「ついでに言うとっ私の旦那だからなっ!」
「すごいイケメンですね」
「ほんと、噂以上のイケメンですね」
「そうだろっ! そうだろっ! わたしもこの顔に惚れたがっ、性格もいいんだぞっ!」
「いいなー、私もこんな旦那さん欲しいです」
どわ美は旦那と言う言葉に反応する。
どわ美の目がギラリと光った。
とっても厳しく鋭い目だ。
「お前たち、わたしの旦那に手を出したら殺すからなっ!」
「し、しませんそんな事!」
「しませんしません」
おい、どわ美、殺すとか軽々しく言うなよ!
和やかなムードが吹き飛んでみんな黙っちゃったじゃないか!
これは後で教育的指導が要るな!
後で説教してやる!
裸にひんむいて息も絶え絶えになるぐらいベットの上でお説教だ!
俺は場を取り繕うように、宿の案内を始める。
「それでは部屋にお上がり下さい。先に部屋に案内しますね。お疲れでしょうからお食事の前にお風呂にお入りください」
*
お風呂の中での姉クリアと妹ペリア。
ドワーフなので二人とも小柄で筋肉質で胸もボリューム感が無く残念な体型である。
二人は湯船につかりながら疲れを癒していた。
「ロコナさんの旦那、噂以上のイケメンだね」
「わたしあのおっさんに抱かれたい」
「あのおっさんの傍に居るだけで体の奥底がジンジンと熱くなってくるよ」
「それわかる。わたしも濡れちゃったよ。人間嫌いのロコナさんが人間と結婚したのもなんとなく解るね」
「夜這いして襲っちゃおうか?」
「したいけど、そんなことしたらロコナさんにバレたら殺されるよ。さっきの目を見た?」
「あれ絶対冗談じゃなくて本当に殺すって目だよね。あの人恐いからなー」
「商人なのに闇世界のボスみたいに権力有るしね。裏切ったら何されるか解らないし!」
「でも、あのおっさんと一つになりたいなー」
「わたしが癒してあげるから、我慢しなさい」
「お、おねえさま、こんなとこでそんな事しないで!」
「じゃあ、こっちはどう?」
「あん! そこもダメ! そこは将来の旦那様にあげるとこなの」
「じゃあ、わたしが旦那様になってあげるから最後までしようか?」
「お、お姉さま……」
*
夜、明日の打ち合わせをした後、軽く飲み会をした。
その後、宿主のおっさんと客人扱いのクリアさんとペリアさんを残し、宿主の妻とロコナとその娘は隣の部屋に寝る為に戻っていった。
一方この宿屋では一つの客室におっさんが寝て、もう一つの客室に姉妹が寝る感じとなる。
「みんな別の部屋に帰りましたね」
「どうする? あのおっさんに夜這いかける?」
「いいけど、ロコナさん大丈夫かな?」
「見つかったらちょっと怖いね」
「間違いなく殺されるね」
「でも、あのおっさんとアバンチュールな一夜を過ごしたい」
「わたしも……あのおっさんの事を考えると体がうずくの」
「きっと夜這いに行かなかったら一生後悔するね」
「うん、後悔する」
「いこか!」
「いこ!」
そっとドアを開けると姉妹は寝室を後にした。
*
俺が寝入りそうになると、部屋の入口の方からわずかな衣擦れの音がする。
多分これは服を脱いだ音。
なんとなくわかる。
気づかれないように視線をそっと向けると背の低い女の人が立っていた。
常夜灯を着け忘れたので月夜の光だけなので暗くてよく解らないけど、たぶんドワーフだ。
そのドワーフは俺の布団の中に潜り込んで来た。
間違いなく全裸だ。
俺が目をつむり寝たふりをしていると、しばらくすると添い寝に飽きたのか俺の服を脱がし始めた。
「起きたかっ!」
「どわ美! どわ美か!」
「誰だと思ったんだ?」
「いや、あの、その」
「眠ってるとこ起こして悪いなっ」
「こんな事されたら普通起きるわ!」
「そうか、すまなかったっ」
「なんだよ。こんな時間にベッドに潜り込んできて?」
「そりゃ、目的は一つしかないだろっ」
「だよな」
「なんかさっ、久しぶりに出会えたのにお前から全然誘ってこないから私から来たぞっ。もしかしておまえはわたしが思ってるほど、わたしの事をあんまり好きじゃないのかっ?」
「そんな事ないよ。いやさ、どわ美って、モコナちゃんのすごくいいお母さんしてるじゃないか? だから手を出し辛くて……」
「わたしは母親でも女なんだぞっ!」
「うん、ごめん」
「お前にとっては数か月前の出来事かもしれないけど、わたしにとっては六年間もお前に会えなくて寂しかったんだぞっ!」
「すまない」
俺がどわ美の頭を抱えると小動物の様にビクンと震えた。
いつもは口うるさいどわ美だけど俺の胸の中におさまるどわ美はすごくかわいい。
「なんかお前とこうしてるとすごく気持ちが安らぐんだっ!」
「そうか。俺もそんな感じだな」
「なあ、毎日とは言わないから、時々わたしをこうやって抱いてくれないかっ?」
「抱くだけでいいのかっ? 俺、最近そう言うの全然して無いから凄くたまってるんだけど!」
「も、もちろんっ! そ、その先もだっ!」
その夜、おっさんとどわ美は熱い夜を過ごした。
*
クリアとペリアの二人は明け方近くまでおっさんとロコナの熱い夜を覗き見していたせいで、かなりの寝不足だった。
でも、興奮冷めやらぬ二人は短い仮眠を済ませた後、ベッド上であの時の事を語りあっていた。
「お姉さんがおっさんの部屋に行くのが少し遅れたおかげで命拾いしたね」
「私が先におトイレ行かないで行ってたらロコナさんと鉢合わせになって大変な事になってたね」
「それにしても羨ましかったなー!」
「ねー!」
「あんな熱い夜を明け方まで続けられるなんて羨ましいです」
「思わず、あれ見ながら体の芯が火照ったもん!」
「今夜こそ夜這いしましよう!」
「ええ、絶対夜這いしましょう!」
「何をするんだっ!」
「えっ!」
見ると、鬼のような形相をしたどわ美が二人の後ろに立っていた。
「なんか、夜這いとかなんとか聞こえたんだけどっ!」
「き、気のせいです!」
「き、聞き間違えです!」
「ならいいがっ。もしわたしの旦那にそんな事したら、いくら魔導研究院の研究員と言えど生かしておかないからなっ!」
「ひっ!」
「さ、これからボス部屋に行くからっ、いつまでも寝てないで食事取って準備しなっ!」
どわ美の声が部屋に響いた。




