ダンジョン脱出編6 真っ白な空間
「あれはいったい何なんだよ」
「あの真っ白な空間かっ? わたしの予想が合ってるならあれは虚無空間だっ」
「虚無空間?」
「あっちの世界でも、こっちの世界でもない作られた空間だ。ましてや魔界でも無い」
「どういう事だ?」
「このボス前部屋は向こうの世界に有る物だとわたしは今まで思っていたっ。ダンジョンの続きとしてっ。お前もそう思ってただろっ?」
「そうだな。ダンジョンの行き止まりがこの部屋だと思っていた」
「確かに行き止まりでは有るんだけど、でも違うようだ。実はな、このボス前部屋に入る扉にはボス部屋に入る扉と同じような扉に触れると部屋の中に飛ばされる魔法陣みたいなものが施されてるんだっ。当然、扉を隔てたすぐ隣の部屋に入ると思っていた。だが違った」
「違うのか?」
「違うようだ。全く別の場所。向こうの世界とは何のかかわりも無い別の世界。この真っ白な虚無空間に作られた部屋に繋がっている様だ」
「どういう事なんだよ?」
「ダンジョンマスターはボス前部屋という、ちいさなちいさな世界を創造したってことなんだっ」
「世界を創造するって、まるで神じゃないか!」
「ダンジョンマスターならそんな事はたやすい事っ」
「世界を創る事がか? そんな事簡単にできる訳ないだろ!」
「虹水晶が有ればこんな部屋の一つぐらい簡単に作れるっ」
「マジか!」
「マジだっ! 今までわたしたちはこのダンジョンは確固たる現実として存在する物として見てきたが、すべてはダンジョンマスターが構成した幻影の様なものかもしれない」
「マボロシなのか?」
「そうだ。ダンジョンを使ってお前の部屋と何度も行き来している私だがダンジョンと言うものはいつ来れなくなるかもしれん、あやふやな物なだという事に気が付いた」
「ボス前部屋がこちらの世界と向こうの世界をつなぐゲートみたいなものなのか」
「そうだ。さらに言うならばダンジョンはボス部屋から魔界をも繋いでいるっ。繊細なダンジョンマスターの魔術によってだっ。だからこのようなコンクリートブレーカーなどと言う力業で干渉すべきでは無いっ。あくまでもダンジョンマスターの作り出したルール以上の干渉はすべきではなかったんだ」
「解った。じゃあ、今まで通りにした方がいいんだな」
「そうだ。おっ! これを見てみろっ! 壊した壁が自然に治っているぞっ!」
壊れた壁が何事も無かったかのように端から修復され元通りに戻った。
もうどこにも壊した形跡は見つからない。
「凄いな、これは」
「この部屋が魔術で構築されたと言う証拠さっ。ちょっとわたしは向こうの世界に戻って魔術に詳しい学者先生と相談してくる。あと、わたしの会社の社長の仕事の引継ぎもしてくる。こっちに腰を据えて本格的に対策しないとマズそうだからなっ。長い間戻れない事は無いと思うが、万一戻れなかったらモコナのことを頼むぞ!」
「おう!」
どわ美はモコナを俺に託すと帰巣石を使って光の中に消えていった。
俺達は片付けをする事になった。
玄関ロビーに道具の山が積まれる。
さすがにこんな大荷物を置いておく場所は無い。
その大荷物をみてアイビィさんも呆れ返ってる。
「凄い荷物ですね。玄関ロビーに置いておくと部屋がかなり狭いですね」
「邪魔だな。でも、他に置ける場所も無いしな」
「寝室に運びます?」
「あそこはお客さんに貸し出すこともあるしなー。よし! どわ美とモコナちゃんが増えた事だし、新しくアイビィさんの子供も産まれる事だし、新しく部屋を借りるぞ!」
不動産屋に連絡すると幸いな事に隣の部屋が空いているとの事で借りることが出来た。
本来、俺は定職を持っていないのでマンションなんてものは借りられる身分ではないんだが、敷金を一年分積んだら喜んで貸してくれた。
「よし! 俺達の寝室は今日から隣だ。こちらは宿専用にする」
それを聞いてアイビィさんもモコナちゃんも大喜びだ。
僕とアイビィさんで一部屋、モコナちゃんとどわ美で一部屋に割り振ろうとしたら一人で寝るのは寂しいとの事で、どわ美が帰ってくるまでは三人で寝ることにした。
家具屋と家電屋を呼んでベッドやら家具屋ら家電やら一式購入。
結局一日で四〇〇万円程が吹き飛んだ。
家族が増えたんだから仕方ない。
*
その夜、アイビィさんはモコナちゃんを寝かしつけると俺の布団の中に潜り込んできた。
「どうしたんだよ?」
「モコナちゃん可愛いですよね。あの子を見ているとわたしも早く子供産みたいと思ってしまいました」
「凄く素直な子だし、あのどわ美の子供とは思えないぐらいかわいいよな」
「まだ子供なんだから恋しちゃダメですよ」
「しないしない。娘だし! アイビィさんも元気な子を産んでくれよ」
「はい! もちろんです。でも……」
「どうした?」
「今日どわ美さんが旦那様にキスしてるとこを見て思ったんですが、最近旦那様はわたしの事も女として見てくれてなくて悲しいです」
「そんなこと無いけど?」
「そんなことあります! 前は寝る前に毎日抱いてくれたのに最近は添い寝もしてくれないじゃないですか! 妊娠してからずっとですよ! 子供を身籠ったら旦那様はわたしを子供を産む機械としか見てなくて、女として見てくれなくなって悲しいです!」
「そんな事ないよ。エッチもしたいけど我慢してるんだけなんだよ」
「じゃあ、エッチしてください」
「そんなにお腹が大きいのにエッチ出来る訳ないだろ?」
「そうですよね。こんな醜い体型じゃエッチなんてしたくないですよね」
「なに言ってるんだよ! 今のアイビィさんは最高に綺麗だぞ! その膨れ始めたお腹に頬ずりして舐めまわしたいぐらいだ!」
「してもいいですよ」
「いや、そんな事して赤ちゃんがビックリして早産でもしたら大変だろ?」
「わたし産婦人科で貰ったパンフレットを読んだんですけど妊娠中のセックスはしてもいいそうですよ。ほら、ここを見てください」
「マジか? うわ、ほんとだ。本に妊娠中でもセックスしていいと書いてある!」
「だからしてください。ただ、生でするというか中で射精だけはしたらダメなんだそうです。精液には妊娠をさせやすくする成分が入っていて、それが早産をさせる原因になるそうなんです。なので出さないですればいいのです!」
「それじゃエッチなんて出来ないだろ?」
「コンドームと言うものを付ければいいそうなんです」
「その手が有ったか」
「じゃあ、してくれます?」
「うーん、やめとく」
「なんでなんですか!」
「だってお腹に赤ちゃん居るんだろ? エッチをして揺らしたらお腹の中の赤ちゃんが酔っちゃうじゃないか」
「確かにそうですけど」
「それに、いまのアイビィさんのほんのりお腹が出てる姿が物凄く魅力的だから、一度でもエッチしたら絶対おっさん歯止め効かなくなって朝昼晩とエッチし続ける自信があるぞ! そうなるとお腹の大きいアイビィさんは辛いだろ?」
「確かにそうですが。旦那様はそこまでわたしの事を思ってくれるんですか?」
「当たり前だろ? 俺を好いてくれてる嫁だぞ。大事にしないはずがないだろ」
「旦那様! ありがとうございます! 旦那様はお優しいんですね。じゃあ一つだけお願いしていいですか?」
「なんだ?」
「添い寝してください」
「うん。それならいいよ」
「あと、キスも」
「一つじゃないじゃないか!」
「てへっ」
二人の暖かい夜は更けていった。




