ダンジョン脱出編3 紅茶
アイビィさんはモコナちゃんに気に入られたのか二人でトランプをして遊んでいた。
俺がルールを教えたら二人とも気に入ったのかずっと遊んでいる。
どうやら今はババ抜きで遊んでいる様だ。
「えー、それ取るの? お姉ちゃん、それはやめようよ」
「とりますよー。これは勝負ですからね!」
「えー! 大人が子供相手に本気出すの?」
「相手が子供だからって手を抜いたら失礼に当たりますから! えいっ! えっ?」
「ふふふふ」
「えー! なんでババなの!?」
「子供だからって見くびるからそうなるのです! 勝負をなめてはいけませんよ!」
「うぐぐぐ」
五歳児の策略にまんまとハマるアイビィさんであった。
*
俺とどわ美はダイニングテーブルで席を並べてアイビィさんとモコナを眺めながら紅茶を飲んでいた。
「なんだか成り行きでわたしがここに住むことになったんだがっ本当にいいのかっ?」
「もちろん大歓迎だ」
「でも、お前、私の事好きじゃないだろっ?」
「そんな訳ないだろ? どわ美の事は好きだぞ」
「そうかっ? なんかわたしに対する扱いが、他の女の扱いと違って物凄くぞんざいな気がするんだがっ? 本当に愛してくれてるのかっ?」
「もちろん愛してるさ。そんなのは気のせいだ」
「じゃあ、ここでわたしにキスしてみろっ!」
「ここでか?」
「そうだっ!」
「いや、目の前に娘も嫁も居るんだけど……」
「わたしだって嫁だっ! お前がわたしの事を本当に好きだったらっ、子供の前でもほかの嫁の前でもっキスぐらいできるだろっ!」
「出来るさ。もちろん!」
「じゃあ、してみろっ」
「わかった。するぞ! するからな!」
「いいぞっ!」
どわ美はぎゅっと目を閉じた。
子持ちのおばさんのはずなのに目を閉じたどわ美は可愛かった。
あれから六年どわ美の生きた時間は俺よりも遥かに長い時間が過ぎていた。
二〇代前半だった歳はもう三〇歳も目前だ。
なのに、どことなく初めて会った頃の幼女っぽい雰囲気も残っているのでとても可愛い。
俺はそっとどわ美のくちびるに俺のくちびるを寄せた。
するとどわ美の目が大きく見開かれる!
気がつくと俺の背中にどわ美の腕が回ってきた。
そして俺を抱きしめてきた。
それもガッシリと!
「むっ!」
その抱きしめ方はプロレス技のホールドみたいにガッシリとしたもの。
腕力の有るどわ美の抱きしめから俺が逃れる術はなかった。
もがいても微動だに出来ない抱きしめ。
おっさんは身動き一つ出来なくなった。
「そんなのキスじゃないだろっ! キスとはこうやるんだっよ!」
どわ美のキスは激しかった。
おっさん、こんな激しいキスは初めて。
恋愛初心者のおっさんには刺激が強すぎる!
おまけにすごく気持ちいい!
おもわず頭の中が真っ白になるおっさん。
妙な気配がしたので視線を逸らすとモコナちゃんとアイビィさんがじっと俺のまぬけ顔を見ていた。
もう社会的に抹殺されて生きていけない。
「こ、これは……」
二人の前で固まるおっさん。
「お父さんとお母さん、すごく仲がいいね」
「旦那様、わたしにもそんな激しいキスをして欲しいです」
いやこれ、俺がしてるんじゃないから!
されてるんだから!
されてるだけなんだからっ!
変な誤解しないで!
娘と嫁の前でまぬけ顔晒して公開処刑状態。
なんかとんでもなく大切な物を奪われた感じ。
俺は好きでもない男に無理やり犯されて処女膜を奪われる少女の気持ちがなんとなく解った……。
どわ美は嫌いじゃないけどな。
好きだけどな。
「次からキスする時はこんな感じだからなっ!」
「はひっ!」
再び紅茶を飲む二人。
「ふー。なんか今のキスをして気持ちがスッキリしたっ!」
「なにやる事やってすっきりした男みたいな顔してるんだよ! 俺をもてあそんで楽しかったか?」
「ちがうわいっ! これでもお前の事を六年も思い続けて来たんだからなっ! その気持ちが高ぶってちょっとやり過ぎた気がしたが、それぐらいわたしはお前のことが好きなんだよっ! お前と二度と会えないならこの世から消えてしまおうとさえ思ってたぐらいなんだからなっ!」
「そこまで俺の事を思っていてくれたのか」
「そうだよ! ずっとわたしはお前の事を思って生きて来たんだ。それも六年間だぞ! 六年間! なのにお前はわたしが好きと言ってもそれ程じゃなかったんだろっ?」
「正直言うとそうだ。あの夜はお前を嫁として迎え入れようと思っていたが、その後は綺麗サッパリお前の事を忘れていた」
「忘れてただと! お前正直過ぎるなっ。そんな事は普通本人の前では言わないだろっ!」
「夫婦の間で嘘は言いたくないからな。でも、これからはお前の事も考えながら生きていきたい」
「嘘で塗り固められた綺麗事を聞かされるよりも、いまみたいな正直な気持ちを言って貰った方が安心できるなっ。おまえと同じ屋根の下に住むのはかなわぬ夢と思っていたがっ、夢がかなったわたしは幸せ者だっ」
「お前もモコナも必ず幸せにしてやるから!」
「おう! 頼むぞっ!」
またまたお茶をする二人。
「ところでさっきから気になって仕方ないんだがっ」
「なんだ?」
「お前の肩の上に載っているものっ、それは何だっ?」
どわ美は俺の肩に乗ってる小さな爆弾を指さした。




