対ダンジョンボス攻略戦4 破綻
レアアイテムを参加費にしてボス攻略パーティーに寄生して参加していたおっさん。
あれから一ヶ月。
確実に討伐をこなす事でレベルが上がり続け、2だったレベルは10に到達した。
ボスをソロで倒すにはレベル40は必要。
厳選した弱いボスならばレベル30でも可能性が無い訳では無いという。
だが今はレベル10。
先はまだまだ長かった。
*
ここで一つ問題が起きた。
参加費に使っていたレアアイテムの在庫が尽きてしまったのだ。
ボスを倒せそうなパーティーがが宿に来るのは平均三日に一度。
そして、そのパーティーに参加した場合、配るアイテムはパーティーメンバーの人数分の数。
だいたい一回のパーティー参加で四~六個のアイテムを使っていた。
対して手に入るレアアイテムは一日二個。
三日に一回のパーティー参加なら入手数と消費数がほぼ同数になり、アイテム取得とアイテム支払いの収支がトントンとなる計算だった。
だが現実はストックしたアイテムが減る一方だった。
──一代継承
入手者にしか使えないアイテム。
それの存在が計算を狂わしていた。
アイテムの入手数は確かに取引で使っている消費数とほぼ同数であった。
計算通りならアイテムが減る事はない。
計算を狂わせていたのは一代継承のアイテムの存在だ。
取引に使えない一代継承のアイテムが入手したアイテムのほぼ半数に混じっていたせいで取引に使えるアイテムは予想の半分となっていた。
計算ミスによる破たんはすぐにやって来る。
十二戦目にそれはやって来た。
いつものように交渉を持ちかけるがあまりいい顔をされない。
そこでいつもの様に取引アイテムを取りにロッカーへと行く。
だがアイテムが無かった。
ロッカーの中は空だったのだ。
その日の朝、一代継承のアイテムが二個出たせいだ。
仕方なしにアイテムの無い状態でボス戦参加をお願いをする。
だがアイテムが無いとなるとおっさんを連れていくことでパーティー側には何のメリットも無い。
寄生をしようとすると、あからさまに嫌な顔をされる。
「おっさんは使い物にならないから要らないよ」
「寄生って最低!」
「噂じゃパーティに寄生させてやるといいアイテムを貰えるそうじゃないか。寄生させてやるのになんで俺達だけアイテムを貰えないんだよ?」
「物がないならお金でも出してくれればいいのに!」
仕方ないので金貨を一人一〇枚渡して寄生させて貰う。
それで渋々ながらパーティーへの規制参加を許してもらえた。
宿に泊めた上に一人当たり金貨五枚の大赤字だ。
一戦で二〇~三〇枚の金貨が消し飛ぶ。
生活費や宿の維持費の為に週に一度、金貨を日本円に換金。
そして余った残りを貯蓄した金貨。
もちろんアイビィさんのお手伝いに対する給料もこの中から払っていた。
レベル上げの為には金を惜しまない。
そう割り切って払う。
その溜め込んでいた金貨が急激に減り始める。
現代社会でスキルアップをする為にビジネス書を買い漁ってセミナーに参加しまくっているエリートサラリーマン予備軍の新人と同じ理論。
金で経験を買う感覚。
だが元々の貯蓄が無尽蔵にあった訳でもなく、ついには底を尽く。
おっさんがあまりに使い物にならないので僧侶のアイビィさんも回復役で参加してもらう。
当然取得経験値も減ってしまう。
あまりいい状態ではなかった。
「このままでは食材も買えなくなってしまいますし、電気代も水道代も払えなくなってしまいます」
「確かにそうなんだが……」
「もう少しボス戦に行く回数を減らしてみたらどうですか?」
「悪いがアイビィさん、俺には急いでボスを攻略しないといけない理由が有るんだ。苦労を掛けるとは思うけどそれまでは今まで通りやらせてほしい」
そう力説しつつも目の前に迫ってくる破綻と言う最悪の二文字。
他の策を考えないと!
でも何もアイデアが浮かばない。
するとアイビィさんが疑問を言葉にする。
「ご主人様がボス戦に参加していると楽なのになんでみんな断るんでしょうか?」
「楽なのか?」
「はい。わたしが旦那様とダンジョンボスと戦ってて思ったんですが明らかにパーティーメンバーの攻撃力や防御力が見た目よりも上がっていて楽でした。わたしの回復魔法の回復量も明らかに上がってたの気のせいでは無いと思います」
そう言えば以前、フィーナさんと攻撃魔法の訓練をした時に万能の指輪に付いていたスキルの『範囲効果』と『魔力増強』『魔力錬成』のせいで意図せず巨大な火球が出来てしまいその凄まじい火力でダンジョンのボス前部屋の柱がへし折れ大変な騒ぎになったんだった。
間違いなく俺がパーティーに参加すれば攻撃力の向上は見込めるはずだ!
なら話は簡単だ。
こちらがお金を払うんじゃなくて、むしろ払ってもらう。
攻撃力向上のサポート役として有料でパーティーに参加する。
タダなら誰も要らないと言われる様な物も値段を付けてると途端に購買意欲が上がる!
人間の心理なんてそんな物だ!
逆転の発想だ!
更にアイビィさんがおっさんの後押しをする。
「あと旦那様と一緒にボスを倒してて思ったんですが、明らかにボスの討伐報酬の宝箱の中身が良くなっていました」
「そうなのか?」
「いつもは薬とか金貨でパーティーのうち一人ぐらいにノーマルの装備品が出る感じだったんです。でもご主人様とボスを倒した時は殆どが装備品でレア度もかなり高い物でした。間違いなく宝箱の中身向上にもかかわっていると思います。これを見てみて下さい」
アイビィさんがメモした討伐報酬の中身。
アイビィさんがボス戦に参加するようになってからの一〇戦程の取得アイテムが書かれていた。
リストを見るとほとんどの物がレアアイテムである。
「わたしは鑑定スキルを持っている訳では無いので詳しいアイテムの鑑定は出来ないのですが明らかに討伐報酬のレアアイテムが占める確率が上がっていると思います。通常であればレアアイテムは装備品のうちの一割程度の入手率なんですよ!」
「そんなにレアアイテムの入手確率が低かったのか。いつもレアばっかりなのでそんな物だと思ってたんだが違うんだな」
「ええ、ご主人様のお陰です」
「じゃあ、おっさんは宝箱のレア度サポートにも関わっているって事で考えていいんだな?」
「はい! レアアイテムの入手率が上がってるのはご主人様の素晴らしい能力です!」
おっさんは金を払う事を止めボス討伐支援サポートとして逆に冒険者に売り込むことにした。
ついでにアイビィさんも毎回一緒に行くことにした。
分厚い回復で確実にボスに勝てるようになる!
しかも入手アイテムはレア装備ばかり!
これをこれからの宿の目玉の追加サービスとした。
これはビジネスとして間違いなく成功しそうだ!
*
翌日、宿屋の受付カウンターの後ろに大きな看板が増えた。
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ボス攻略サポート
おひとり様金貨五枚でボス攻略をサポートします。
・パーティー火力向上(物理攻撃及び魔法攻撃)
・回復用員追加(当宿から回復魔導士を一人派遣)
・ボス討伐報酬の宝箱からのレアアイテムドロップ率の向上
なお、パーティー内でレアアイテムのドロップがなかった場合、サポート費用は全額返還いたします。
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俺はこの条件で有料ボスサポートサービスを始めることにした。
料金は一人金貨五枚。
こちらの世界では金貨一枚はおよそ一〇万円の価値だが向こうの世界では金貨一枚が一〇〇〇円位の感覚なんだそうだ。
一人頭五〇〇〇円のお手軽金額で受けられる追加サービス。
レアアイテムが出なかったら返金する。
その条件が利用者に受けた!
最初こそレアアイテムの出現頻度に疑問を持つ客もいたが返金制度があるので利用者には何のデメリットも無い。
異世界の冒険者の間でレアアイテムを多数手にしたパーティーの自慢話が語られるようになるとこのサービスの効果が話題になった。
ひと月も経たずに、皆このサービスを使ってくれるようになった。
宿代とボスサポート代で金貨一〇枚。
レアアイテムの在庫に悩まされずに今までの倍の金額が懐に入るようになった。
おっさんのアイデア商売は大成功だ。




