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おっさんのボス攻略特訓開始

 夜の特訓に備えて、家に戻り仮眠をしていると、夕方になって女性四人組のパーティーのお客さんがやって来た。

 誰もがムチムチで、職に関係なく伝説のビキニアーマーを着ている、露出度抜群のお嬢さん達たちだった。

 思わず顔をうずめたくなりそうな豊満なお胸に、おっさんは思わず顔を赤らめてしまいました。

 

「こんにちは。四人なのですが今日は泊まれますか?」

「えーと、今夜はですね、私用が有りまして、宿は営業しない予定なんですよ」

「えーっ! せっかく伝説の宿屋を見つけたのに、泊まれないんですか?」

「申し訳ないです」

 

 ビキニアーマーのお嬢さん方が今夜の宿を失い、今にも泣きそうな感じで困り果てている。

 でも、泣かれても、今日の特訓をキャンセルするわけにもいかないしな……。

 申し訳ない。

 ヒックヒックと鼻を鳴らし始めた泣きそうなお嬢さんを、舐めまわす様に見ているのもなかなか乙な物。

 おっさんが美女鑑賞をしていると、困った彼女達を見かねてアイビィさんがやって来た。

 

「泊めてあげましょうよ」

「でも、今夜は特訓が有るので、お客さんのお世話が満足に出来ないので、そういう訳にもいかないかと」

「今夜の宿の番は、わたしがしますよ」


 おっさんが出かけてる間に、宿屋主が居ないことをいいことに、若さからくる有り余る欲望を抑えきれず、DQN男でも連れ込まれてパコパコ乱交パーティーでもされたら、おっさんのメンタルは確実にブレイク。

 だからダメ!

 絶対にムチムチ軍団を泊めるのはダメ!

 

「大丈夫ですよ。わたしの特訓は回復呪文だから、みんなとやらなくてもあなたと二人だけでも出来ますから。一回泊まってるから、宿屋でやる仕事は解っていますし、ご飯さえ作ってくれれば、お酒の相手とかは私がしておくから、安心して下さい」

「おねがいです! 泊めて下さい!」

 

 ムチムチ軍団も、大きなお胸をプルプルさせながら、おっさんに泊めて欲しいと懇願してくる。

 これは、泊めてあげたら感謝されて何かしらのお礼が頂けるかも……。

 その大きなお胸に顔を挟まれて窒息プレイしてみたいです。

 うん、泊めてあげよう!

 この宿屋は基本的に客室が一つで、二段ベッド二つとソファーベッド一つで五人までが定員。

 でも、普段おっさんが使ってる寝室も客間に転用出来る様になってるので、合計一〇人までは収容可能。

 このパーティーが泊まるベッドはちゃんとある。

 宿の番も、アイビィさんがしてくれる。

 そうなると、断る理由はどこにも無かった。

 

「わかりました。私用で夜間出掛けるので、お世話が行き届かないことが有ると思いますが、それでもよろしいならお泊りください」

「やったー!」

「お風呂に入れるのね!」

「ごはんも食べれる―!」

 

 ムチムチ軍団は大喜びだ。

 早速、宿の宿泊ルールを説明して、風呂場にムチムチ軍団を案内するアイビィさん。

 一度宿泊しただけなのに、結構手慣れた感じだ。

 これは後で、ちゃんとしたお礼を渡さないといけないな。

 

 今日の夕飯は唐揚げだ。

 急遽人数が増えてしまったので、あまり手間の掛かる食事は作れないのでそうなった。

 唐揚げは大量に作っても、それほど手間が掛からないのに、美味しいのがいい。

 そして嫌う人も殆どいない。

 万人が好む理想の御馳走。

 ニンニクとショウガを混ぜた醤油ダレに、鶏もも肉を漬けてしばらく置いておく。

 衣は小麦粉に片栗粉を少し混ぜ水溶きした物で、カリッとした食感の衣に仕上げる。

 これで誰もが喜ぶ唐揚げの出来上がりだ。

 トラブルが有るとしたら、レモンをかける派とかけない派の争いだが、小皿にレモン汁を用意しておけばそのトラブルは事前に回避出来る。

 レモン汁と共に塩コショウ、ポン酢、七味の薬味も用意する。

 これだけ用意しておけば、唐揚げと言う一つの料理が何種類もの味で楽しめる。

 実際、ムチムチ軍団も舌鼓を打って喜んでくれた。

 

「なにこれ! サクサクしてるのに中はジューシーで美味しいわ!」

「この七味と言う赤いスパイスに付けると美味しいわ! 辛いのに爽やかな味がしてとても気持ちいい!」

「やっぱこの塩コショウだね! 鶏肉のジューシーさと合わせて、物凄いインパクトがある!」

「わたしはこのレモンよ! 物凄くすっきりした味になるわ!」

「ポン酢ね。ポン酢! ゆずの香りと醤油と酢のハーモニーが堪らないわ!」

 

 どれも好評だった。

 ファルコンさん達も美女と楽しくご飯を食べる。

 ただ一人だけ楽しんでいない人がいた。

 シリィさんだ。

 ファルコンさんがむちむち軍団に取られるんじゃないかと、気が気じゃないみたいで、終始ファルコンさんの腕を抱きしめてる。

 前々から薄々感じていたけど、シリィさんはファルコンさんの事が好きらしい。

 ファルコンさんも、それを拒否することなく受け入れてる感じ。

 相思相愛の仲らしい。

 ファルコンさんも美女とは話すものの、シリィさんを気遣ってシリィさんの手のひらをずっと握ってる。

 逆にフリーのオジーさんはかなりエキサイト!

 美女に抱きついたり、四人同時に膝枕をさせるエクストリーム膝枕を披露したりと、やりたい放題。

 一人でおいしいとこを持って行きまくるオジーさん。

 超うらやましい!

 給仕をしている、アイビィさんとおっさんは苦笑い。

 エロジジイ死ねっ!

 即刻通報されてもおかしくないレベルだが、類い稀なる話術と、引くべき時は引いてるので美女たちも嫌がってるような素振りは無い。

 おっさんもこんな生き方してみてぇ。

 夜はおっさんの特訓に付き合ってもらうから、夜中に変な過ちを犯すことも無いだろう。

 楽しい食事の時間は過ぎてゆく。

 

 *

 

 気が付くと夜九時となっていた。

 食事会からそのまま移行した宴会も終わり美女たちは寝室に、おっさん達はアイビィさんに留守を頼み、ショッピングモールへと向かう。

 閉店一〇分前に駐車場に辿り着いた。

 

「よし、駐車場の物陰に隠れて閉店時間を待とう」

 

 駐車場の隅に座って隠れていると、警備員が三人やって来た。

 

「こんなとこで何やってるんです? そろそろ閉店なので帰ってくれませんか?」

「何かよからぬ事を考えてるようでしたら、警察に引き渡しますよ」

「すいません」

 

 平謝りで駐車場から出るおっさん達。

 階下のトイレで閉店時間まで警備員をやり過ごそうとすると、これまたすぐに見つかってしまった。

 どうやら監視カメラが駐車場全体に設置されていたらしく、そこからずっとおっさん達を追跡してたらしい。

 当然の如く店外に摘まみ出された。

 

 *

 

「追い出されちゃいましたね」

「ですね」

「閉店しちゃいましたね」

「ですね」

「監視カメラが有るみたいだし、ここで練習するのは無理かな?」

「監視カメラ?」

「解りやすい言葉で説明すると、遠くからその場所の様子を見る機械みたいなものかな? 現在の様子が遠くでも見れるんです」

「なるほどねー。いまの様子が見えるんだ。じゃあ、それはわたしにまかせて。魔法でなんとかするわ」

 

 シリィさんが自信有り気に自分の胸をトンと叩く。

 

「でも、もう入口閉まってるから中に入れないのでもう無理かも」

 

 それを聞いたファルコンさんがなぜかドヤ顔になる。

 

「ふっふっふーん、そう思うだろ? でもな、シリィならやれるぞ」

 

 そういって、シリィさんの頭をポンんと撫ぜる。

 シリィさんの頬が赤く染まった。


「シリィは優秀じゃからのう」

「みんな手をついでください。飛ばされないようにしっかりとね!」

 

 シリィさんがおっさんの片手を握ると呪文を唱えた。

 すると、透明の大きな丸い球の様なベールに全員が一緒になって包まれる。

 

「こ、これはいったい?」

「シリィ得意の風の呪文さ」

「風のベールに包まれたんじゃ」

 

 すると、足元から突風に煽られて球が宙に浮く。

 見ると足元に有ったはずの地面がどんどん遠ざかる。

 その球は地上からショッピングモールの屋上まで一気に飛び上がった。

 一気に鳥の視点、航空写真の様な視界に切り替わった。

 

「落ちる!!!」

 

 おっさん一人でビビりまくり。

 他の三人はそれを見てニヤニヤしている。

 あまりの事で、おっさん、マジでチビったよ。

 見えない球はショッピングモールの上空で何度か旋回した後、屋上駐車場に降り立った。

 

「ほらな! 上手くいっただろ?」

「監視カメラには、時を止とめる呪文を掛けておいたから、もう映像は朝までずっと止まってるはず。朝までだれもこないはずです」

「これは凄いな! すごいよホント! シリィさん凄いよ!」

「そういわれるとうれしいけど、風魔法だからね……。あんまり使い物にならないんだ」

「風魔法ってダメなの?」

「おいおい、ズバッと一言で、使えないと言うなよ」

「風魔法使いのわたしが使えないのは事実だし」

「まあそうなんだけどよ。使えないのは風呪文だけで、シリィは凄く優秀だぞ」

 

 ファルコンさんの言葉を聞いて再び頬を赤く染めるシリィさん。

 

「なんていうかシリィは器用貧乏って奴だ。シリィはよ、魔導士としてはかなり優秀なんだけど持って生まれた素養が不遇の風だったから、魔導士としての活躍の場が無いと言うか、何というか。他の素養の回復呪文や炎呪文や弱体呪文を少しは使えるぐらい優秀なんだぞ!」

「風魔法ってそんなに使えないんですか?」

「ぶっちゃけ一言ってしまえばそうなる。炎魔法や雷魔法だと、見た目派手な攻撃が出来るだろ? でも風魔法なんて風車回すとか、どんなに頑張っても竜巻の突風で敵を転がすぐらいしか出来ねえ。あとは今使った移動魔法ぐらいにしか使えないんだ」

「それは使い方間違えてるんじゃないかな?」

「間違えてるだと!? シリィを罵るのは許さないぞ!」

「いや、今の移動魔法だって、敵を天高く迄持ち上げてそこで魔法を止めたら、敵を地面に叩きつけるとんでもない破壊力の魔法になると思う」

「なにっ!!! その手が有ったか!」

「えっ!!! なんていう使い方なの?」

「なんだ! その悪魔の所業のような使い方は!」

「そんな使い方思いもしなかった!」

「お主は悪魔か!」

「いや、普通に考えれば気がつくでしょ」

「それに風の攻撃呪文も使い方を変えればかなり強力な呪文になりますよ」

「ど、どう使うんだよ!」

「こちらの世界にはかまいたちって言うのが有るんです。触れたら切り刻まれる突風なんです」

「風の呪文じゃそんな事出来ないだろ?」

「単体ではね。でも、突風の中に刃物、いやガラス片でも何でもいい。切れる物を混ぜたらどうなりますか?」

「どうなるって……うお! うおおお!! うおおおおおおお!!!」

「敵に無数の刃物を送りつけて、切り刻めます!」

「そんな使い方が有ったのか。そんな使い方を思いつくなんておっさん悪魔かよ!」

「いいえ。ただの宿屋のおっさんです」

 

 おっさんが何気なく言った一言が、風魔法を攻撃魔法へと昇華させるヒントとなり、魔力をブレンドした金属片が敵の軍団を切り裂く大旋風、後の異世界を震撼させた最強攻撃魔法『鎌イタ血』をシリィが生み出すヒントとなった。

 

 *

 

 誰もいない駐車場に上空から降り立ったおっさんの特訓が始まる。

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