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おっさんと魔法陣の先!

 魔法陣を踏み込むと、白く眩しい光に包まれて、おっさんはどこかの入口へと飛ばされた。

 徐々に明るさから慣れてきて、周囲の状況が見えてきた。

 ダンジョンの入り口だろうか?

 その部屋は小奇麗に整頓され、ソファー、ロッカー、カウンターデスクが置かれていた。

 あの小さなカウンターには冒険ギルドの受付嬢でも居るのかな?

 今は受付嬢の姿が見えないけどきっとそう。

 そういえばファルコンさん達が見当たらないんだけど、どこへ行ったんだろう?

 カウンターに行って呼び鈴らしきものを押す。

 でも誰も出てこなかった。

 ふとカウンターの上を見てみると、どこかで見た事の有るような気がするノートが置いてある。

 そのノートをめくってみると。


 ―――――――――――――――――――― 

 名前 どわ美

 種族 ドワーフ

 年齢 三四歳

 性別 女

 宿泊 一泊

 ―――――――――――――――――――― 


 あー、これね。

 宿帳だったんだ。

 うんうん。

 おっさんも名前書いて置くか……って、これおっさんの宿帳じゃないか!

 どうなってるんだよ!

 どうみても、おっさんの家に戻ってきちゃったよ!

 おっさん確かにボスを倒して、間違いなく魔法陣を踏んだんだけど!

 魔法陣の中に間違いなく進んだんだけど!

 なんで?

 なんで、宿に戻ってるんだよ?

 なんでなんだよ!

 ファルコンさん達は居ないし、おっさんだけ置いてきぼり!?

 訳わかんないよ!

 死んで生き返りなら宿屋に戻るのもなんとなく納得なんだけど、今度はちゃんと出口の魔法陣が出てたろ?

 そこにちゃんと入ったのに、なんでおっさんだけ宿屋戻されるの?

 訳わかんねー!

 これは自力でダンジョンから出ないとダメなのか?

 魔法でも剣技でも何でもいいから覚えて、自分の力だけでボスを倒して、この封印された空間から自力で出ないとダメなのか?

 とにかく強くならないと!

 でも疲れた。

 今夜はリリナの元に辿り着けると思ってたので、疲れが一気に噴き出たわ。

  

 *

 

 おっさんはソファーでふて寝をした。

 リリナに会いたい。

 リリナ……。

 リリナに土下座して、頭を踏まれて、リリナを信じ切れずに裏切った事を罵られたい。

 そして和解して、お腹がポッコリしたリリナと添い寝をして、今まであった事を腕枕をしながら色々話したい。

 リリナ……。

 リリナに会いたい。

 いい歳しておっさん、マジ泣きしてしまったよ。

 リリナと会いたくて泣いてしまった。

 そして寝てた。

 どれぐらい寝たんだろう?

 気が付いたらわき腹が痛い。

 ブスリ、ブスリと突き刺される様な感触が……。

 

「あのー」

「起きなさいよ!」

「生きてるわよね? 死んでないわよね?」

 

 声のする方に振り返ると、とんがり帽子と黒い服とローブを纏った、いかにも魔女っ娘みたいな服装をした女の子が、おっさんの脇腹を汚物を触れるかの如く、杖の先っぽでツンツンしてる。

 汚物プレイ最高ですっ!

 

「ここ宿屋よね?♪」

「お、お泊りですか?」

「うん、一泊ね、一泊♪」

 

 おっさんは、杖で突かれまくって皺くちゃになった服と、泣き濡れて皺くちゃになったゴミの様な顔を、手のひらで整える。

 時間は午後四時前になっていた。

 ちょっと寝たつもりがマジ寝してしまったようだ。

 宿帳に名前を書いて貰うように伝えると、おっさんは顔を洗って来た。

 

「フィーナさんですか。お泊りはご一泊ですね」

「そうよ♪」

「では金貨五枚になります」

 

 いつも通りの説明を済ませて、お風呂に入ってもらう。

 そしておっさんは、いつもの通り今晩の夕食の仕込みに入る。

 今日の料理はトンカツ。

 おっさんがトンカツを揚げ始めると、タップリ一時間半も風呂に入っていた魔女っ娘が、ダイニングにやって来た。

 

「いいお風呂だったわー♪ おっちゃん、料理出来たのかな? いいにおいだねー♪」

「いい匂いでしょう? 今夜のおかずは豚肉のカツです」

「カツ? 聞いた事ない食べ物だわ。期待しちゃうよ♪」

 

 刻みキャベツの上に、切ったカツを載せ、アクセントにプチトマトも載せる。

 そしてすりゴマを混ぜた甘口ソースの小皿を用意する。

 トンカツの完成だ。

 魔女っ娘は、洗った髪を上げ留めている。

 ジャージも着ているので、見た目はJKだ。

 今までは客には、おっさんのジャージを浴衣代わりの部屋着として提供してたが、それを女性に着せるのはあまりにも失礼なので、〇まむらで売っていた六八〇円のパステルカラーフリースのジャージを使っている。

 この値段でしっかりとしたジャージの上下が買える〇まむら恐るべし。

 ちなみに、おっさんのお下がりのくたびれたジャージは野郎客専用だ。

 トンカツは魔女っ娘に好評だった。

 いつしか食事は終わり、夕飯はアルコールを交わしての飲み会へと変わっていた。

 フィーナさんの年齢は、宿帳でお酒を飲んでいい二〇歳とちゃんと確認取ってある。

 お酒を飲みながら、冒険者の話に耳を向けるはとても楽しい。

 

「でねー。半魚人が出たから、特大のファイヤーボールを打ち込んでやったら、いいかんじに焼けちゃってね。ウェルダンよ、ウェルダン!♪ いい匂いが辺りに立ち込めてたてたのよ♪」

「まさか食べたり?」

「そのまさか! あははは!」

「たべたのか!」

「さすがに頭とか手のひらは気持ち悪くて食べれなかったけどね♪ 腕は食べたわよ。あははは!」


 頭と手のひら以外は食ったのかよ!

 ゲテモノ食い過ぎるだろ!

 でも、魔法が使えるならボスも楽に倒せるかもしれないな。

 ちょっと魔法の覚え方を聞いてみるか。


「ところで、フィーナさんはいつぐらいから魔法使えるようになったんですか?」

「たしかねー、五歳か六歳頃かな? 何がきっかけだったかな? 覚えてないや。あははは!」

 

 魔女っ娘は、アルコールが入ったせいかやたら上機嫌だ。

 鑑定しても混乱は現れてない様なので、今夜は楽しいお酒が楽しめそうだ。

 

「おっさんも魔法を使いたいんだけど、全然使い方が解らないんですよ」

「あー、魔法はね、素養が無いと絶対に覚えられないわよ。持って生まれた才能と言うのかな? 魔法にはそれぞれに素養ってのが有ってね、それを生まれた時に持ってないと使えないの」

「そうだったんですか」

 

 こりゃダメだ。

 俺に魔法の才能なんて有るわけがない。

 剣に掛けるしかないか……。

 諦めかけたところ、フィーナさんが嬉しいことを言った。


「あ、でもね、炎の指輪とか、万能の指輪とかあったら別よ。それが有れば魔法レベルが上がるからね。魔法の素養を持ってなくても、強引に上げることが出来るから、魔法を覚えられるきっかけになるの。でも、あれは魔導士の誰もが欲しがる激レアアイテムだから、なかなか市場に出回らなくて手に入らなくてね。わたしも炎魔法以外使えないから他の魔法の指輪が欲しいんだけどねー♪」

「それなら持ってますよ。これ」

「な、なにそれおっちゃん!!! 万能の指輪じゃないの!」

「一代継承品ですけどね」

「万能の指輪なら一代継承品だって関係ないでしょ! 超お宝じゃないの! わたしも他の魔法の指輪欲しいなー♪」

「要ります?」

「えっ?」


 おっさんはストッカーに行って小箱を取り出す。

 指輪の入ったキャラメルの箱だ。

 それを持って行き、無造作にテーブルに広げる。

 

「どしぇー! こ、これ雷鳴神の指輪と、こっちは水龍神の指輪で、こっちは大聖女の指輪じゃない!!! 大魔導士でさえ持っていない超超激レア物よ!」

「一代継承無しのSSR品です」

「欲しい! 欲しい! ください! で、おいくら?」

「あげますよ」

「えっ!? お金要らないの?」

「あげます」

「いいの? ホントにいいの? 後から返せって言っても返さないからね!」

「どぞどぞ」

「じゃあ、どれにしようかなー。圧倒的な威力の範囲攻撃が素晴らしい雷鳴神もいいけど、どこでも大量に水を出せる水龍神も、水不足の時に大儲け出来そうで捨てがたいわね。でも、大聖女を使って治療魔術のエキスパートになって、教会勤めで聖女様と呼ばれるのも悪くないかもね。うーんどれにするか悩むわー♪」

「全部どうぞ」

「えっ!???」

「全部差し上げますよ。万能の指輪を持つおっさんには不要の品ですし」

「いいのかよ、おっちゃん! これ一個で金貨一万枚はするよ? それを三個だぞ」

「ただし条件が有ります」

「条件?」

「はい」


 おっさんは二コリと笑ってやった。

 この指輪をエサに魔法を教えてもらうつもりだ。

 だけど、この魔女っ娘はおっさんの顔を見るとなぜか怯える。

 おっさんの笑顔は怯える程、下卑た顔でも見えるんだろうか?

 フィーナはゴクリと唾を飲み胸を押さえた。

 そして下を向きながら唇を噛むようにして言う。

 

「そ、そういう事なのね。確かにこの指輪を貰えるなら私の体ぐらい……。おっちゃんが、わ、わたしの体が欲しいとか言うなら少しだけ時間をちょうだい! あたしまだそう言うのした事ないから、心の準備が出来てないから、覚悟する時間を頂戴!」


 また俯いて唇を噛むフィーナさん。

 やっぱ変な風に思われてた。

 誤解しまくられ。

 こんど笑顔を見せる時はちゃんと練習してからにしよう。


「ちげーから! 違うから! そんな事しませんよ。魔法を教えて欲しいのです。治療魔法が普通に使えるようになって、怪我が自分で直せるようになったり、攻撃に使えるぐらいの炎の呪文が使えるようになりたいのです」

「そ、そんなことでいいの?」

「はい。この条件をお受けして貰えますか?」

「もちろんだよ!」

「じゃあ、交渉成立ですね」

「交渉成立だねっ!」

 

 二人は熱い握手を交わした。

 おっさんは魔法習得する糸口を手に入れた。

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