リリナからの手紙
えっちゃんをダンジョンへ送り出して一息ついていると、業者の人がやって来た。
えっちゃんが壊したドアを修理する為だ。
修理は意外なほど簡単だった。
ドアノブを外し、壊れたドアを撤去して、新しいドアにドアノブを取り付けるだけ。
十五分であっという間に工事が終わった。
「無理言って、急ぎで来てもらって、どうもありがとうございます」
「ドア交換なんて何処も急ぎですからね。こっちも商売ですし気にしないでください。なんか他に有りましたら声かけてください」
「あのー、いきなりなんですけど、ちょっとよろしいですか? ちょっと工事の見積もりしてもらいたい所が有るのですが」
俺が依頼したいのは、クローゼットに玄関を作る工事だ。
異世界人が来る度に、土足で家の中を歩き回られたら堪ったものじゃない。
そこで、靴を脱ぐ事を暗に促すような玄関を作りたいと思ったのだ。
ついでにしっかりとしたドアも付けたい。
勝手に異世界人が家の中に入って来てうろつかれると困るから、クローゼットの木製のドアを玄関ドアの様なしっかりとした感じの物にしたいのだ。出来れば壊されない様に金属製の玄関だと助かる。
「なるほどー、クローゼットに玄関状の入り口を作る工事ですか。随分と変わった注文ですね」
業者のおっちゃんとクローゼット前で打ち合わせを始めた。
おっさんとの詳細な打ち合わせは一時間ほど続いた。
「随分と変わってる注文ですが、問題無く出来ると思いますよ」
「ただ、一つだけ工事に条件が有りまして」
「なんでしょう?」
「午後四時から午後八時の間までで工事を行って欲しいのです」
「随分と遅い時間帯に工事を行われるのですね」
「申し訳ございません。工事開始時間の午後四時はそれまで会社から戻ってこれないのでその時間から始めてもらいたいのと、夜八時に終了と言うのは工事の騒音による近所迷惑を考えての事です。よろしいでしょうか?」
会社なんて通ってないから、四時の開始時間の言い訳は出鱈目だ。
単にダンジョンがクローゼットに現れている時間帯に工事をして貰いたくないだけだ。
「うちとしては残業感覚の時間帯に工事が出来るので歓迎しますよ」
「ありがとうございます。今言った工事計画で工事費はどれぐらいになるでしょうか?」
「そうですね、金属製の玄関周り込みで、二〇〇万円の費用になります」
「では、その金額でお願いします」
「解りました。工事は明後日の夕方四時からの着手で、三~四日間の工期になりますがよろしいですか?」
「よろしくお願いします」
俺は玄関工事の依頼を済ませた。
*
翌日、どわ美が戻って来た。
「ふー、つかれたっ! リリナに手紙を渡してきて、返事も貰って来たぞっ!」
「ありがとうございます」
「貸しだからなっ! 一か月も掛かって大変だったんだからなっ!」
「一ヶ月?」
「そうだっ! この部屋に辿り着くために、何度ダンジョンに潜った事かっ!」
「こっちでは二日しか経ってないけど?」
「マジかっ!」
「マジです」
「おかしいと思ったんだよなっ! 前に来た時、ここに半日も居なかったのに、二日ぐらい計算遭わなくてなっ!」
「時間の進み方が、こっちの世界とそっちの世界では違うのかな?」
「たぶんそうだろうなっ!」
「じゃあ、帰ってから一〇日ぐらい経ってるリリナは、かなり長い時間そっちの世界で過ごしてるって事になるのかな?」
「わたしが掛かったのが、こっちの世界の二日で向こうの世界の一ヶ月だったから、一〇日ならば半年近くだなっ」
「半年も時間が経っていたのか? なんでそんなに時間あるのに戻ってこないんだろ?」
「戻る気が無いんだろうなっ。わたしがリリナを見たのはリゾート地だったし、働きもせずに結構おいしい物食べて、食っちゃねしてたみたいだなっ」
「そうだったのか」
「もう忘れろよ、あんなおんなっ!」
「手紙見せて貰えますか?」
「これなっ! 貸しだからなっ!」
俺はリリナからの手紙を見て愕然とした。
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愛する旦那様へ
理由が有ってそちらには当分戻ることは出来ません。
ごめんなさい。
もう少ししたら、そちらに行けない理由をお話しします。
少なくともあと一年は戻れないと思います。
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「戻る気なしだなっ」
「一年は戻れないって、どういう事なんだ!?」
「金が惜しくなったんだろっ。ほとぼり冷めるまで逃げ続ける気だなっ」
あの愛は偽りだったんだろうか?
あの二人だけの熱い夜も偽りだったんだろうか?
戻ってこない事を考えると偽りとしか考えられない。
そうとしか考えられないのが辛い。
もう、リリナの心の中には俺とのあの夜は残って無いんだろうか?
そんな事を考えていると頬を熱いものが伝わった。
そしてその場に崩れ落ちた。
「リリナ……」
「もうあんな女忘れろっ。なんならわたしが一生そばにいてお主を癒してやってもいいぞっ」
「癒さなくていいから! 手紙を渡してきてくれ。お願いだ!」
「振られたと解ったのに書くことなんてあるのか?」
「ある!」
俺はリリナへの怒りを書きなぐった。
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リリナへ
なんで戻って来れないんだよ!
金が惜しくなったのか!
俺を騙したのか?
もう俺達に愛は無いんだな!
金なんてくれてやる!
戻る気が有るならもうとっくに戻ってるはずだ!
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「これを渡してきてくれ!」
「これをかっ? こんな物わざわざ渡すことも無いんじゃないかっ?」
「いいんだ! 俺のけじめなんだ! 渡してきてくれ! いますぐ!」
「わかったっ! 貸しだからなっ! なんでも言うこと聞いてもらうぞっ!」
「わかった」
「じゃあ、わたしを抱いてくれっ!」
「はぁ?」
「だから抱いてくれっ!」
「こうか?」
「ちがうっ! 抱き締めろと言ってるんじゃないっ! 男と女として抱いてくれって言ってるんだよっ!」
「はあああ??」
「好きなんだよっ! おまえの事がっ!」
「ど、どういうことだよ?」
「おまえの事が好きになったんだっ!」
「いつからだよ!」
「たぶん、お店でキスした時、いや最初に出会った時、洞窟で抱き締められたあの時だっ! 今迄結婚なんて考えた事も無かったが、あの時わたしに電撃の様な衝撃が走った! わたしはこの男と結婚したいと!」
「ちょっとまてよ! 今までそんな素振り全然なかっただろ?」
「恥ずかしかったんだよっ! おまえが好きなのを知られることがっ!」
「そうだったのか」
「お寿司食べた時に鑑定された時には焦ったっ! お前の事が好きなのが鑑定でバレるのがっ! バレて避けられるのが怖かったんだよっ! でも、お前にはもう好きなひとはいないんだろっ? ならわたしを好きになってくれよっ!」
「なんで俺を好きになったんだよ? 冷たい態度を取り続けてる俺に、いいとこなんてどこもなかっただろ?」
「そんなの知るかっ! 私だってわからないよっ! 好きになっちゃったからっ好きになったんだよっ! この一ヶ月、ずっとお前の事が頭から離れなかったんだよっ!」
「そうなのか」
「だから、わたしを抱いてくれっ!」
そう言うと、どわ美は服を脱ぎ棄てベッドに横になった。
ことわざに『据え膳食わぬは男の恥』と言う物が有る。
別に食べたくない物は食べなくとも恥では無いと思ってたが、いざ据え膳が用意されると食欲が湧き、貪る様に据え膳を食い尽くしてしまった。
全てを食べ尽くした俺の目を見つめながら、俺の唇に唇を重ねどわ美は言った。
「なかなか良かったぞっ!」
「そ、そうか」
好きでもないというか、なんの思いのない女との情事をしてしまった罪悪感が心の奥ををちくちくと刺す。
でも、どわ美の笑顔を見ていると、好きになってこの女に尽くしてやってもいいのかな?と思う。
こんなに好かれてるんだもんな。
そういう事から始まる恋が有ってもいいと思った。
「じゃあ約束だから行ってくるっ! 戻ったら結婚だからなっ!」
どわ美は手紙を持って、洞窟の中へと消えていった。




