おっさんに恋するリリナ2 おかあさん
リリナは街の外れにある家に戻って来た。
以前は町の中の大きな屋敷に住んでいたが、父親が買い出しの最中に野盗に襲われて死んで、家業の商売が傾き店も屋敷も失った。
それ以来、この町の外れにある廃屋同然の小屋に住んでいる。
幸いな事に、街外れと言っても街壁の中に有るので、女三人で住んでいてもかろうじて治安は保たれていた。
大風で所々屋根を失い青空が見える天井。
モルタルが剥がれ、所々レンガが丸見えになった壁。
今のリリナの収入では食べるのがやっとで、それさえ直すことが出来なかった。
そんな壊れかけの小屋に母、リリナ、妹のリリカの女三人で住んでいる。
「お母さん、ただいま!」
「ゴホゴホ! リリナか、いつもすまないね。私が体を壊してしまったばっかりにあんただけに働かせてしまって」
「お母さん。もう大丈夫だから安心して! これからはお薬も買えるし、ご飯も沢山買えるし、お医者さんにも掛かれるし、温泉で湯治も出来るからすぐに体治せるよ! ほらこれ見て! このギルド通帳!」
「ゴホゴホ! どうしたの? この額!」
「ダンジョンで当たりアイテムを掘り出したんだ。もうお母さんにも、妹のリリカにも苦労掛けさせないから。お母さんはすぐに体を治せるし、リリカは学校に入れられるよ」
「リリナ、ありがとう!」
お母さんは、涙を流しながらギルド通帳を受け取った。
「ただ、もう僕はお母さんとは会えなくなると思う」
「なんでなのよ? これから親子水入らずでやっと普通の生活が出来ると言うのに!」
「僕、結婚することにしたんだ。遠い遠い国の素敵な男の人と。だから僕はこの家を出るし、もう戻ってこれないと思う」
「相手はどんな人なの?」
「人間のおっさん」
「ゴホゴホ! 人間族はやめなさいよ!」
「なんで?」
「人間族はフシダラで、嫁を何人も囲ってハーレムを作るのよ。そんな人間と結婚したら、あなたが歳を取って醜くなったら、きっと捨てれられるわよ! それにエルフの血を引く者と人間の子なんて産んだら絶対いじめられるから!」
「おっさんはそんな事しないよ! 僕のこと、物凄く大切にしてくれるもん。それに人間とエルフの血を引く子だからって虐められないって!」
「いじめられるわ。エルフの子に」
「そんなこと!」
「虐められたのよ。リリナには言ってなかったけど、私は人間の男の父親とエルフの母親の間に生まれたハーフエルフなの」
「お母さんが? お母さんはエルフだと思ってた」
「そうよ。私は見た目はエルフなのに、呪文が全く使えない出来損ない」
「そんな事初めて聞いた」
「リリナも薄々気がついてたんでしょ? リリナが魔法を一切使えないのは、お母さんが原因なの。見た目がエルフでも、魔法使えないエルフなんていじめられて当然よ」
「お母さん……」
「私のお父さんはね、最初、私のお母さんだけを愛すと言ってくれたけど、浮気性で次々に新しい嫁を娶ってね。それで捨てられたらしいの。だから、リリナには不幸になって欲しく無いから、人間とは結婚して欲しく無いの」
「でも、おっさんは僕の事を物凄く大切にしてくれるから、たとえ嫁が一杯に増えても僕の事を大切にしてくれると思うよ」
「本当にそうかしら? 若いうちはともかく、歳を取ったらどうなるかしら? ハーフエルフはエルフと違って人間と同じ速度で歳を取るのよ。歳を取ったら間違いなく捨てられると思うわよ」
「そんな事おっさんがするわけない!」
「あなたにはハーフエルフの旦那さんを貰って欲しいの。あなたの人生だから私はこれ以上口にしないけど、嫌がらせで言っているのではなくて、あなたの事を思って言ってるのよ」
「うん、わかってる」
「もし、その遠い国の人間と結婚するなら、もう会えなくなるかもしれないから、おばあちゃんにちゃんと挨拶してから行きなさいよ」
「わかった。じゃあお母さんさようなら。今まで育ててくれたことを感謝しています」
「戻りたくなったらすぐに戻って来ていいんだからね」
「うん」
リリナはお母さんに結婚の報告を済ませた。
だが、心からは祝ってもらえない様だった。




