女騎士、おっさんとの晩餐!
湯船に湯を張っていた為か、それとも鎧の手入れをしていたせいなのか、女騎士はタップリ一時間ほど掛けてからお風呂から出て来た。
ジャージの胸元から見えるほんのり桜色に上気した肌と銀髪のコントラストが素晴らしい。
「いいお風呂でした。ありがとうございます」
深々と礼をする女騎士。
こんな冴えないおっさんに、そんなお辞儀はもったいのう御座います。
俺は女騎士に夕食を勧める。
まだ六時少し前で夕食を取るには少し早い時間だったが、女騎士さんはダンジョンを冒険してきて今すぐにでも寝たいのかもしれないからな。
一応聞いてみた。
「ぜひ戴きます」
女騎士さんをダイニングテーブルに案内する。
今日の夕飯はハッシュドビーフ、日本語で言うとハヤシライスってやつだ。
世の中にはビーフストロガノフと言うそっくりさんも有るらしいが、その違いはおっさんには良く解らない。
肉はあの噂の最高級和牛を使っている。
美人に金は惜しまない。
それがおっさんのジャスティス!
その肉をつかったハヤシライス。
まずい訳がない。
女騎士がハヤシライスを口に運ぶと、やはりとろんとした表情になる。
「おいしい」
そりゃね。
一皿一〇〇〇円分の牛肉使ってるもん。
まずい訳がない。
女騎士は上品さを失わない範囲で、結構な勢いでハヤシライスを完食した。
お代わりを勧めると、これまた美味しそうに食べきってくれた。
「おいしかったです。こんなにおいしい料理を食べたのは初めてです」
「ありがとうございます」
「こんなに食べてしまっては、はしたない女と思われてしまいますね。でも、あまりに美味しくて手が止まりませんでした」
そこまで褒められると、おっさん年甲斐もなく顔を真っ赤にして照れてしまうよ。
そういえばさっき買って来たお酒があるな。
お酒を飲ましていい歳なのかな?
宿帳を開いて年齢を確認してみる。
ぱらりぱらり。
名前 エステル(えっちゃんと呼んでください)
エステルさんか。
カッコいい名前だな。
でも本人希望は”えっちゃん”なんだけどそう呼んじゃっていいのかな?
さすがに宿屋のお客さんに向かって『ちゃん』付けで呼ぶのは失礼になるのかな?
種族 人間
年齢 二二歳
性別 女
なかなかのお年頃らしい。
いいね、いい!
今すぐ結婚できるお年頃。
おっさんも結婚準備だけは一〇年以上してるので、今すぐ結婚できます。
冴えないおっさんですが、この機会にどうでしょうか?
あ、なんか余計なことまで書いてある。
学歴・経歴?
履歴書かよ。
学歴
〇×〇〇年 王立大貴族学院初等部 主席卒業
〇×〇×年 王立大貴族学院中等部 主席卒業
〇××〇年 王立大貴族学院高等部 主席卒業
〇×××年 王立大貴族大学院卒業 主席卒業
大貴族大学院だと?
異世界にはすごい学校が有るもんだな。
こっちだと国立学校みたいなとこなんだろうか?
しかも全部主席卒業って、ガリ勉さんなんだな。
力も知性もある女の人って惚れてしまう。
職歴
〇×××年 四月〇一日 王立近衛騎士団所属
〇×××年 四月〇二日 王立近衛騎士団解雇
〇×××年 四月〇五日 ボッタクリ商会入社
〇×××年 四月〇六日 ボッタクリ商会解雇
〇×××年 四月一五日 冒険者ギルド入会
現在に至る
なんだろ?
この職歴。
宿に泊まるのに職歴なんてものは要らないんだけど。
書くなら現在の職業だけでいいんだけど。
律儀すぎるっていうか世間知らずって言うか。
育ちがかなりいいみたいだから、宿とかあんまり泊まったことが無いから、こういう余計な事を書いちゃうんだろうな。
書くにしてもなんでここまで詳細な事を書いたのか謎なんだけど。
それは置いといて……。
なんか騎士団と商会を入った翌日に解雇されてるのが気になる。
何かあったんだろうか?
聞いちゃいけないことだけど、もの凄く気になる。
個人の過去を詮索するのはよく無いことだけど、気になりまくる。
お酒を飲んでいい歳らしいし、お酒を勧めてそれとなく聞き出してみるか。
「エステルさん」
「わたくしの事は親愛の気持ちを込めてえっちゃんとお呼び下さい」
「では、えっちゃんさん」
「はい」
「お酒を用意してあるのですが一緒にお飲みになりますか? あまり高級なお酒は無くて庶民の飲むようなお酒しかないのですが、よろしいでしょうか?」
「ぜひ!」
上品にほほ笑む彼女の顔が可愛い。
おっさん今夜は色々サービスしちゃうよ!
お酒沢山飲ましていい雰囲気になってもらって、いちゃラブな展開期待しちゃうよ!
俺はチーズ鱈とかピーナッツ、缶詰なんかの酒のつまみを小皿に載せてテーブルに並べ、少し高級そうに見えるカットグラスに氷を入れてチューハイを注いだ。
ライチ味のチューハイだ。
甘いから女性でもとても飲みやすい。
えっちゃんはグラスを手にすると、グイッとコップを飲み干した。
気持ちいいぐらいグイッと!
「おいしい!」
えっちゃんは、お酒が好きなのか、もの凄くいい飲みっぷりだ。
おっさんも、えっちゃんに負けずに頑張ってお酒を勧めまくる。
「今度はパイン味です。ライチ味が好きならば気に入ると思いますよ」
「おいしいです!」
これまたグイッと飲み干した。
あまりお酒ばかり飲ませて、急性アルコール中毒になられて救急車のご厄介のなるのも嫌なので、ソフトドリンクをを出して小休止。
えっちゃんと軽く会話を挟む。
「この宿屋、噂通りの美味しい食事を出してくれるんですね、ハヤシライスはとても美味しいかったですし、お酒もとてもおいしいです」
「噂ですか?」
「ええ、今王都で話題になってるんですよ。ダンジョンにとてもおいしいご飯を出してくれる宿屋さんがあると」
「ありがとうございます。でも料理人でもないのに美味しいと言われると照れてしまいますよ」
「お酒も今まで飲んだことない味で、ものすごく美味しいですね」
「お気に入りましたか?」
「はい。ただ今飲んでるお酒は……刺激が少なくて、あまり好みでないのですが……。あ、ごめんなさい」
「今飲んでるのはお酒でないのですよ」
「どうりで……全然刺激がない訳ですね」
「えっちゃんさんは、かなりお酒が強いようなのでウィスキーでも飲まれてみますか?」
「それはどの様なお酒なのでしょうか?」
「蒸留酒と言われるもので、今まで飲んだお酒と違いかなりアルコール度数が高いものです」
「アルコールとはどのような物なんでしょうか?」
「うーん、なんでしょう。酔いの素といいますか、なんというか」
「ぜひ飲んでみたいです! わたし、酔ったことが無いんですよ」
おっさんはロックグラスに大きな氷を入れると、ウイスキーを半分ほど注いだ。
えっちゃんはこれまた豪快に飲み干す。
「ふー、おいしい」
「お気に入りましたか?」
「物凄い刺激ですね。喉が焼け付きそうな刺激です。なんだか初めて酔えるかもしれません」
えっちゃんは豪快にウィスキーを飲み干す。
おっちゃんは、ちゃんこそばを器に盛るおばさんの様にえっちゃんの空いたグラスにお酒を注ぎ続ける。
酔いが少し回って来たのか、えっちゃんの口が軽くなる。
話し方も、すこしくだけた感じになって来た。
「わたし、今でこそ冒険者に身をやつしているんですが、これでも昔はいい学校を出て騎士団にも入っていたんですよ」
「それはそれは。宿帳見ると、すぐに騎士のお仕事をお辞めになられたようなんですが、お仕事が気に入らなかったのですか?」
「いえ、私としては生涯掛けて勤め上げたかったんですが……。初日の新人歓迎会の飲み会の後、翌日出勤するともう来なくていいと言われて……。歓迎会の席でなにか失礼な事を言ってしまったのでしょうか? それからお酒には全く酔えなくなってしまったのです。冒険者の仕事はあまり私に向いてないし、だれかいい人がお嫁さんに貰ってくれないかな……」
いますよここに、いい人じゃないけど。
むしろ不良物件に近いけど!
結婚したがってるおっさんがここにいます!
心を悟られない様に、ニヒルな表情を作り誤魔化す。
「では今日は酔うまで飲んでみましょう。酔えないお酒程楽しくない物は無いですからね」
「ありがとうございます」
さすがに度数四〇パーセントを超えるお酒である。
酔えないと言ったえっちゃんの顔は徐々に赤らんできた。
あと少しで酔いそうな感触を得た時に時に、お酒が切れた。
「お酒が切れてしまいました。ごめんなさい」
「あと少しで酔えそうな気がしたんですが……残念です」
「おつまみも切れてるようですし、いますぐ買ってきますから少し待っててください」
俺はダッシュでコンビニに飛び込むと、比較的アルコール度数の高いウィスキー、ブランデー、日本酒、焼酎を買い込む。
そしてダッシュで家へと戻る。
えっちゃんに付き合って少し飲んでたので、ダッシュで買い物に行くのには少し無理が有った。
家に戻ると視界がグルグルしてる。
お酒が回ってしまったようだ。
完全に出来上がってしまった。
俺は最後の力を振り絞り、酒瓶をえっちゃんに渡す。
「も、戻りました。お酒を買ってきました」
「ありがとうございます。ではいただきます」
ブランデーをラッパ飲みし始めるえっちゃん。
上品さが微塵もない。
えっちゃんも出来上がってたようだ。
俺はぶっ倒れるようにソファーに横になった。
*
気が付くとえっちゃんが俺を揺さぶってた。
慌てて目を覚ます俺。
ダイニングテーブルの上を見るとすべての酒瓶が消えている。
酒瓶は空となって床の上に転がっていた。
「は、なんでしょうか?」
「起きてー! くー!だー!さー!いー!!」
「はい、起きました」
「あのー、おー!つー!まー!みー!ないんですけどー!」
「ごめんなさい。慌ててて買い忘れちゃいました」
「あら、そうなのね。じゃあ、おつまみは自分で何とかするわ」
「申し訳ありません」
再びソファーに横になる俺。
すると、えっちゃんが俺のズボンを脱がせ始める。
「な、なにしてるんです?」
「お、か、ず、は、あ、な、たっ!♪」
「えっ? おかずって……」
「ここに付いてるじゃないですかっ!」
酔い過ぎて完全に痴女モードに移行してるえっちゃん。
キス魔みたいなもんだろう。
僕のセカンド童貞をえっちゃんにくれてやるのも悪くはない。
俺は成り行きに任せることにした。
俺から誘ったんじゃないからな!
俺のせいじゃないからな!
酔いからさめて『私の初めてを奪われた!』とか泣き崩れられても知らないからな!
まあ、でも、やることやってしまったらちゃんと責任は取るつもり!
ちゃんとお嫁さんにして一生面倒見てやるから!
「じゃあ、りょうり始めるわよー♪」
「よ、よろしくお願いします」
なんか、えっちゃんは酔い過ぎて目が逝っちゃってるよ。
ちょっと怖い。
しかも片手に剣を持ってる。
剣!?
「な、何をしようとしてるんです?」
「おつまみがないので切り落として作ろうとしてるのっ♪」
「それってもしかして!!!」
「サクッ!と切り落とすから、動いちゃダメよっ♪」
「ちょいまったー!」
俺の股間の危機だ!
かつてない危機!
大ピンチだ!
俺は慌ててで、大ぶりの片手剣を持った目が完全に逝っちゃった痴女がすぐ横に立つソファーから、逃げ出した。




