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2 「ようこそ我が社へ」

 「確保できましたか」


 倒れた淳哉が握りしめていたままの携帯電話から、女性の声が響く。


 「デキタ。ネムラセタヨ。」


 先刻の黒い影、そして淳哉が気絶した原因である、2mはゆうに超えているであろう、無地の白いTシャツを今にもはちきらんばかりの獰猛な筋肉を纏う、銀髪の巨躯の男が、地面にのびている淳哉を片手で持ち上げて、もう片方の手で小さい携帯電話を壊さないように細心の注意を払いながら掴み、あまり流暢とは言えない日本語で返事をする。


 「はぁ…もっと丁寧に扱ってくださいよ。大事な仲間になるのですから…まあいいです、早急に本部まで連れてきてください。」


 「ワカッタ。ヨリミチシナイ。」


 大男はそう呟くと、大きな足で地面を強く蹴り出し、見かけからは予想できない速さで疾走し始めた。






 




 肌を包み込む暖かさと柔らかい感触。このまま永遠に眠っていたい心地すらするが、それを許さないようにだんだん視界が明るくなっていく。


 「………っ痛」


 まだ頭の中にかかっている靄が完全に取り除かれず、うまく思考が働かない。そして徐々に鈍い痛みを身体が思い出してくる。散り散りになった記憶を必死に掻き集めようとするが、強い衝撃の後は一切何も覚えていない。


 「メヲサマシタヨ。サッキハイキナリゴメンネ」


 目の前に急に大きな男の顔が現れて、思わず飛び上がる。一瞬にして脳がフル稼動を始め、淳哉は状況を整理するためにも辺りを見渡す。


 彼が横たわっていた場所は黒色の高級そうな大きいソファで、壁にはこんなインテリア実際に使う人がいたのか、と思わず驚いてしまう大きな鹿の顔の剥製が掲げられていたり、いかにも名の高い職人が丹精込めて作り上げたのだろう、素人目にもわかる程の精緻で鮮やかな柄の入った壺などが置かれてある。そして一番奥には、この部屋で最も大きく、光沢を放つ茶色の大きな木目の机と、それに負けず劣らず立派な椅子が配置されていた。


 「ようやくお目覚めかな。先程は私の部下が手荒な真似をしてすまなかった。私に免じて許してくれ。」


 丁寧な物腰で淳哉に対して詫びを入れてくる。おそらく、椅子に腰掛けているのだろう。しかし、背もたれを彼の方へ向けているので姿は全く見えない。ただ、声音から感じ取れる威厳に、淳哉は気づかないうちに萎縮していた。


 「どうやら求人を見てくれたんだね。こちらも深刻な人手不足に困っていたところなんだ。本当にありがとう、早速メンバーを紹介するよ。」


 「あの、実はまだ決心がついてるわけじゃなくて…」


 「ははは、じきに慣れていくさ」


 こちらの意見を全く介さず、あくまで自分のペースを貫こうとする相手に、淳哉は丸め込められる。


 「まず君をここまで連れてきたのが、このロイ。」


 椅子に座っている女性とおぼしき人に紹介された銀髪の大男がゴツゴツとした手を淳哉の方へと差し出してくる。


 「コレカラヨロシクネ。イッショニガンバロ。」


 風貌とは裏腹に優しい笑みを浮かべてくるロイにほんの少しの好意を持ち、握手に応じる。しかし、彼の目的は握手をすることにあったのでなかった。


 「モウヒトツアヤマル。コワシテゴメンネ。」


 ロイが淳哉の手に何やら黒い球状の塊を渡してくる。淳哉は受け取り、その物体に注目する。


 「割れたガラス…ボタンの破片…コード…これってまさか…」


 黒い球を構成する一部一部に見慣れた部分が存在する。そして徐々にそれが一体何だったのかを理解する。


 「ハシッテタラニギリツブシチャッタ。ケータイ、ヨワイネ。」


 一体どれほどの握力があったら鉄の塊をいとも簡単にここまで変形させることができるのか、驚きと落胆の感情が入り混じり、胸を渦まく。


 「ははは、済んでしまったことは仕方がない。私から新しいのをすぐにプレゼントするから勘弁してやってくれ」


 あくまで他人事なのだろう、まったく深刻に捉えていないことが簡単にわかるような言葉が椅子の裏側から飛んでくる。


 「そして後のメンバーはここにはいないのだが、受付嬢のメル。そして今は任務に向かっている奴が2人ほどいる。最後にこの会社の社長をやっている、クラハだ。宜しくな」


 そう言ってクラハは椅子を翻して立ち上がる。


 「!?」


 淳哉は驚愕のあまり声を失う。それもそのはずだった。そこに立っていたのは、言葉の丁寧さからは予想もできないような小さくて華奢な、桃色の長い髪をポニテールにし、目がくらむほどの透き通った白い肌のロリっ子だったのだから。


 「今、私を見て餓鬼だと思ったろ?」


 こちらの考えてる事はお見通しだ、というような余裕を含む笑みを浮かべる。


 「すいません。つい…」


 「まあ無理もない。いつも初対面の相手には思われてしまってな、もう慣れてしまったよ。—ただし、次はないぞ?」


 冗談交じりだが、確かに籠っているプレッシャーをひしひしと感じながら、淳哉は小さく何度も首を縦に振った。


 「とりあえず紹介は以上だ、他のメンバーはまた戻ってきたときに紹介する。おい、ロイ。こいつを連れてちょっと仕事に行ってきてくれ。」


 「ワカッタヨ。ケンシュウッテヤツネ」


 「ちょ、まだ俺は…うお!?」


 ロイは無理やり淳哉を担ごうとするが、必死の抵抗を見せてそれを回避する。


 「メンドクサイヨ」


 ロイは忽然と姿を消し、一瞬のうちに背後に回り、淳哉の首筋に手刀を当てに行く。同じ経験をつい先程したからだろうか、淳哉の防衛本能が働き、身体を反転させ、上体を下げてロイの脇の横をするりと抜けようとする。しかし努力虚しく、ロイは腕の動きを変更し、淳哉の背中めがけて肘を打ち込む。そして、再び淳哉は気を失った。


 「テイコウスルカライタイコトスル」


 「ははは、新入りには優しくしてやれよ。それにしても…中々いい動きをするじゃないか」


 クラハはまるで新しいおもちゃを買い与えられた子供のように目をキラキラと輝かせながら、地面に倒れ込んだ淳哉を見る。


 「ロイ、あっちについたらこれをこいつに渡してやってくれ」


 「シャチョー。チョットハヤスギナイ?」


 「お前がサポートしてやれば問題はないだろう。」


 そう言ってクラハは机の引き出しから銀色のケースを取り出して、淳哉を担ぎ上げたロイに渡す。ロイは少し考えたあと頷いて、部屋を出て行った。


 



 

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