第五幕 八十五話 The Break Time/セタンタとスプレッド・レイザー
そうして、それぞれの一日がまた終わる。
セタンタはミス・ファービュラスこと雪渓桜花と鮮夜の経過を確認するために医療塔へ。
戦士であり、敵と判断した者は確実に殺すセタンタ。
しかし、それはあくまでも彼が戦士で、彼なりの心情、想いがあるからだ。
何だかんだとセタンタは仲間、自分の気に入った者に対しては親身になってくれる。
ミス・ファービュラスは因縁あるオイフェの転生体だが、この時代では雪渓桜花なのだと割り切っている。
鮮夜に対しても、復讐心を持つことは普通のこと。
言わば、悔しさの極みがアヴェンジやリヴェンジだとセタンタは思っている。
故に、鮮夜の在り方もまた正しく、嫌いではない。
医療塔へやって来て、それぞれの病室を確認する。
鮮夜もミス・ファービュラスも共にゆっくりと呼吸して落ち着いていることがわかり、ふと笑顔をこぼすセタンタ。
「ゆっくり休めよ」
一言呟いて、セタンタは医療塔を後にする。
自分は平気なのだ。だから、やれることをやろうと。
とは言っても、エティエンヌ=ド・ヴィニョルとジル=ド・モンモランシ・ラヴァルの捜索はドクターに任せているので、セタンタは今度こそエティエンヌを討つためにトレーニング・ルームで鍛錬にいそしむだけだ。
そんなセタンタの心にはある引っかかりがあった。
カルナだ。
カルナは今、アリア=アーサー・ペンドラゴンを救うことだけを考えている。それはいい。当然だ。愛する女を救うために全てを捧げることにセタンタは一切不満はない。
しかし、カルナにはより戦える要素があるのではないかと感じていた。
セタンタは戦士であり、ドルイド。つまり、魔術士でもある。
戦士の勘もあり、魔術に精通しているために神秘を感じることができる。
カルナからは確かに神秘の力を感じていた。
それはあの炎の聖剣。《エクスカリバー・星炎》があるからだ。
「アイツまだ、あれを使いこなせてねぇな」
そこでセタンタは考えることを止めた。
カルナのことは鮮夜に任せればいい。
鮮夜が一番、カルナとアリアを気にかけていたのだから。
「さて、いっちょ槍で修行しますかね!」
◆
スプレッド・レイザーはカルナを部屋へ送り届けた後、スーペリアーズ・マンションの自分のフロアへと戻って来た。
自分のフロアというのは、スプレッド・レイザーに与えられているのは一室ではない。
彼にはワイフがいる。
ここスーペリアーズ・マンションが正真正銘、彼の拠点であり、家なのだ。
そのため、マンションの六十九階全てがスプレッド・レイザーの所有となっている。
リフトが開くとそこが玄関になっていた。つまり、リフトの扉が玄関の扉でもあるのだ。
長い長い白亜の廊下を抜けると映画の世界かと見間違うほどの光景が広がっていた。
もちろん、この豪華でおしゃれな内装はスプレッド・レイザーではなく、彼のワイフが考えたものだ。
スプレッド・レイザーは忍び足でリビングを抜けて、二階へと進んで行く。
バスルームで脱いだマスクとコスチュームをじっと見つめる。
そこで大きなため息を吐いた。
「はぁー、これどうしよう。また、怒られちゃうかな」
ワイフに怒られると言ってもその理由は別段、コスチュームをボロボロにしたからではない。
ここまでボロボロになっているということは、即ち、スプレッド・レイザー自身も傷だらけになっているということだ。
ワイフはそれが心配で仕方がなかった。
スーパーヒーローとしてのスプレッド・レイザーを信頼しているし、誇りに思っている彼女だが、彼女にとってはスプレッド・レイザーであり、アンドリュー・パーカーなのだ。
スプレッド・レイザーも、アンドリューも愛しているワイフ。
愛ゆえに怒ってくれていることはスプレッド・レイザーも理解しているので、いつも素直に聞いていた。
「アンドリュー? 帰って来たの?」
「ああ、ハニー。ちょうど今、帰って来たんだ」
さて、彼女に怒られた後は、しっかりハグをして安心させてあげなくちゃ。
そう心に刻んでワイフのもとへ足を運ぶスプレッド・レイザーだった。
◆
そうして、スーペリアーズの面々が思い思いの時間を過ごしている時、深い眠りについていた鮮夜は、ある夢を見ていた――。