第一幕 七話 魔術士アリア・アーサー・ペンドラゴン
8/23 一部改稿しました。
鮮夜の一言に、アリアはとても悲しい表情でカルナの手を強く、強く握っていた。
そうしなければ、とても立っていられないような気がしたから。
そうして、ここでようやくドクターが口を挟んだ。
「すまない。これは……僕が、最初にあんなことを言ったせい、だね?」
申し訳なさそうに言うドクターにセタンタが告げる。
「だな。ドクターは宇宙一の頭脳と閃きで問題を解決してくれるが、トラブルも引き込むタイプだ。空気読まねぇところもあるしよ」
「ホントだよ。頭いいんだから、もう少し後先考えて話したらいいのに」
スプレッドレイザーにまで指摘され、ドクターは本当に申し訳ないと項垂れた。
しかし、数秒経つとすぐに背筋を伸ばして、にこやかな表情で手を一度叩く。
「まぁまぁ、過ぎた時間は戻らない。いや僕は戻れるんだけど。ま、そんな話どうでもいいか。さて、だいぶ逸れてしまった。本題に入ろうか!」
ドクターは今回、倭国日本からカルナとアリアを呼んだわけを話し始めた。
「みんなが説明してくれたように、今回のインシデントには魔術的要素。つまり、神秘が絡んでいると思う。これを見てくれ」
テーブル中央に投影されているヴィジョンに手を伸ばし何かを掴むドクター。
投影されたヴィジョンそのものを掴んでいるわけだ。触れるだけならともかく、掴むこともできるとは驚きだ。
実際の感触はもちろんない。ただ、掴むという動作に反応しているだけだ。
ドクターが握っているそれはキューブ状の代物だった。
「これは僕が魔術を、というか魔力なのかな? をエネルギアに変換して視覚化したものだ。この魔術反応が子供たちの神隠しにあった場所。そして、喰い散らかしの現場で確認されている」
「ようはそのキューブが、敵が魔術を使ってる証拠になるってわけか」
「アーハッ! その通りさ、クー。この反応を追えば、そこに犯人もしくは、犯人に繋がる何かがあるはずだ」
ドクターがデバイス《JASMINE》を振るともう一度地図が浮かび上がる。
「このエネルギアの反応を照合すると―……。こうなる」
アイルランド・キングダムの地図に複数あった赤い点滅がダブリンとカーディフのみとなった。
「つまり、どっちかに犯人がいる。あるいは両方にいるかってことか」
鮮夜の言葉にドクターが頷く。
「今回は魔術に秀でている敵である可能性が高い。なのに、いつものメンバーは出払っている。だから、倭国日本から二人を招いたんだ」
「だがドクター。何故、その二人なんだ? 少年の方からは特に力は感じられない。それにアーサー王は魔術士ではないぞ」
わざわざ遠い異国から呼びつけたはいいが、役に立つのかとミズ・ファービュラスこと桜花は言及する。
ドクターはニコッと白い歯が見えるように笑った。
桜花はめんどくさそうに手を振って先を話すよう促した。
「その点は心配しなくていい。この二人は適任だ。そもそも彼女、アリア・アーサー・ペンドラゴンは聖剣を使うことができない」
「ええっ!? アーサー王なのに聖剣が使えないの?」
スプレッドレイザーはオーバーリアクションで驚きを露にした。
アーサー王なのに聖剣が使えないと知れば無理もないかもしれない。
「その代わり、カルナが聖剣を使うことができるのさ」
さらりと、ドクターが大事なことを当然のように話した。
「こいつが聖剣を?」
それまで目を閉じて体を壁に預けていた鮮夜だったが、ドクターの言葉を聞いて鋭い視線をカルナに送った。
「ヤップ。そして、アリアの方は聖剣の代わりに強大な魔術を扱うことができるのさ!」
「へぇ、こいつは面白い組み合わせだな」
本当に興味をそそられているのだろう。セタンタの表情には笑みが浮かんでいた。
隣の桜花にすぐに戦おうとするなよと念を押されているが。
「魔術士になったアーサー王と、アーサー王の聖剣が使えるガキか。いいんじゃねぇか鮮夜。俺たちはいつも通り、俺たちの想いに従って戦う。もうその女は騎士王じゃねぇ。だったら、お前もいちいち気にすることはないだろ? そもそも人手が足りないのは事実だしな」
納得いかない様子の鮮夜が口を開こうとした刹那――、コホンとドクターが咳払いをした。
「いいかい、みんな? 僕たちはスーペリアーズ。仲間なんだ。いがみ合うようなことはしないでくれ」
ドクターが今一度、メンバーの舵を取る。
「この二人も含めて今回、僕たちは神隠しと喰い散らかしのインシデンツを解明する。これは決定事項だ。いいね?」
全員肯定の意思を示した。
鮮夜は渋々だったが、それでも邪悪を許せない心はある。自分達が揉めている時間が惜しい。
私情は捨て、役割に徹するのだ。
そうして、ドクターの指示によりメンバーの振り分けが決まった。
アイルランド・キングダムのキャピトル。ダブリンを調べるのはドクター、桜花、スプレッドレイザーの三人。
そして、アイルランド・キングダム第二の都市カーディフを調べるのが鮮夜、セタンタ、カルナ、アリアの四人。
「俺と鮮夜で十分だと思うんだけどよ?」
セタンタはさらに分散した方が効率が良いのではと提案する。
「いいや。カルナとアリアはこの国のことを知らないだろう。だから、君と鮮夜には彼らを案内しつつ、インシデンツについて調べてほしい」
「ガキと女のお守りか」
そりゃ楽しいだろうな、とセタンタは皮肉気な態度を取った。
ちなみにアリアはアーサー・ペンドラゴンだ。今やこの国がユナイテッド・キングダムではなく、アイルランド・キングダムとなっていても彼女の故郷ではある。
が、現代の地理については知らないだろうという意味でドクターは言ったのだ。
「オレは嫌だぞ、ドクター。何でアーサーなんかと」
「もうやめてくれ」
言葉を挟んだのはドクターではなくカルナだ。
鮮夜は眉を上げて文句でもあるのかと言いたげな様子だ。
「アリアは確かにアーサー王だ。でも、それは過去の話だ。もう彼女はエクスカリバーを使うことはできない。その代わり魔術士としての力があるけど、アリアは王ではなく一人の女性として今回の生を全うしているんだ。さっきの話は確かに真実なんだろう。けど、お前の憤りの対象とするのはやめてくれ」
カルナの言うことも一理あるな、とセタンタが肯定する。
自分も確かにクー・フーリンとして駆け抜けた時代があった。
現代に蘇った今でも、あの時の記憶があり、戦闘技術もある。
けれど、在り方は同じだとしてもあの時代に生きた自分と、今の自分は確かに違うのだ。
「悪いなカルナ。さっき鮮夜が言ってただろ? 別にアーサー王だけが嫌いなんじゃねぇよ」
「そうそう。鮮夜はねぇ~、ヒーローとか〝正義の味方〟ってのが嫌いなんだよね」
エアクオーツで強調しながらスプレッドレイザーも続いて説明した。
「それはどうし――」
「お前らオレのことをしゃべりすぎだ! 目的地は決まったんだ。オレも文句ばかり言わない。だから、さっさと行くぞ」
カルナの言葉を遮る形で鮮夜はブリーフィングルームを後にした。