第四幕 七十三話 The Other Side/いざ、教会の奥へ
さて、ここで物語は別の視点へ。
この流れならロジャーが、と思うだろうが、今回は違う。
鮮夜、セタンタ、ミス・ファービュラスが突然変異体としての本性を現したエティエンヌ=ド・ヴィニョルと戦いを繰り広げている間に、退魔士である皇カルナとヒーローであるスプレッド・レイザーは教会の中へ潜入していた。
ここには三つの可能性があった。
一つ、カルナの恋人であるアリア=アーサー・ペンドラゴンがいる。
一つ、神隠しで攫われた子供たちがいる。
一つ、ジャンヌ・ダルクの《聖旗》がある。
この三つの可能性が教会は孕んでいた。
教会に入ってからすぐにカルナとスプレッド・レイザーは外から大きな衝撃音を聞いた。
「うわぁー、結構ど派手にやってるみたいだね」
「スプレッド・レイザー。本当に鮮夜だけで大丈夫なのか? 相手はあのエティエンヌ=ド・ヴィニョルなんだぞ?」
「まぁ、そうなんだけど。実際、鮮夜が言ったことも一理あるんだよね」
「俺たちが邪魔ってやつ?」
「うーん、邪魔というかなんというか。カルナはヴィランを殺すかい?」
とても物騒な言葉をスプレッド・レイザーは何でもないように言い放った。
カルナは一瞬、ポカンとしたが、すぐさま冗談で言ってるのではないと判断して、真面目に答えた。
「……殺す。そういう言い方は嫌いだけど、綺麗事を言うつもりもない。敵を討つ時は討つさ。大切な人を守る。大切な人が生きる世界を守る。そのために悪しき神秘の存在と戦う必要がある。けれど――」
けれど、神秘の存在は人の境界から外れた者たちだ。
捕まえて刑務所にぶち込んで終わり、というわけにもいかない。
「そんなことないけどね。ヴィランズ専用のプリズンだってあるわけだし」
「でも、例えば神様が具現化されたらどうするんだ?」
「えっ――神様?」
「そう。しかもそいつは悪神で星をも破壊する力を持ってる。討つことができても、永遠に閉じ込めておくことはできない」
「……それは」
「お前たちの仲間にはクー・フーリンとミス・ファービュラスは、オイフェの生まれ変わりだろ? 二人を見ているならわかるんじゃないか? 戦士は敵を討つ。守るために」
「それでも僕は――」
「スプレッド・レイザーの想いはよくわかるよ。俺だってそうしたい。最後まで倒しはしても、殺しはしないでおきたい。でも、討つしかない敵もいる。鮮夜ほどじゃないけど、そこの線引きは心得ているつもりだ」
心優しいカルナ。
鮮夜にしてみればあまいのだが、カルナはカルナなりの想いがある。
確かにどちらかと言えば、スプレッド・レイザーなどのヒーローの考え方に近いのだろう。
たとえヴィランズであろうと殺すことはない。
けれど、アリアが関係しているのならば話は別だ。
大切な彼女を守るために、救うために敵を討つ必要があれば討つ。
無論、敵が人ならば捕まえることを優先させるが、人ならざる者である限り、討つという可能性は常に心にあるのだ。
「へぇー、鮮夜も君の話、もう少しきちんと聞けばいいのにね」
「そうかな?」
「うん。きっと、印象変わると思うんだけどな」
そうこう話しながら長い長い廊下を歩いていた二人は大きな鉄の扉の前にたどり着く。
「思いきり、この奥が妖しいって感じだね」
「それでも行くしかない。この先にアリアがいるんだ!」
カルナとスプレッド・レイザーは鉄の扉を開いて教会のさらなる奥へと足を踏み入れる。