第四幕 七十一話 The Fierce Fight/鮮夜の一撃
「はああああああ……って、おいおい、桜花! くそっ!」
セタンタがまさに、《カサド・ドヴァッハ》の切っ先をエティエンヌに突き刺そうとした矢先、彼の紅い瞳に映ったのだ。
闇夜を斬り裂く一筋の流星。
もちろん、今日このアイルランド・キングダムのカーディフに流星は降り注いではいない。
セタンタは突き出しかけた腕を止めて、大地を思いきり蹴り飛ばした。反動で大きく後方へと移動する。
「魔女の攻撃などくらうものかああああああ!」
離脱したセタンタとは違い、エティエンヌはその場にとどまり続けていた。
自らに迫る光を両手で持つ大戦斧で消し飛ばす。
「ぐおおおおおおおお!」
爆音が炸裂し、衝撃波が広がる。
ミス・ファービュラスから放たれた〝フォトン・スター〟をエティエンヌは変化した力で打ち払おうとした。
だが、対峙した攻撃は以前、ルルトンの街で受けたものとは異なり、圧倒的な威力を備えていた。
「この姿の俺が防戦一方だと」
実際、エティエンヌにはまだまだ攻撃手段はある。
しかし、彼は全力をここで出し切ることは微塵も考えていないのだ。
だからこそ、この程度の力で十分だろうと高を括り、大戦斧で迎え撃った。
「あっははは。私をなめないでもらおうか。百年戦争の亡霊。私はミス・ファービュラス。魔術と念動力を駆使すればおまえなど私の敵ではない!」
言い放つミス・ファービュラスを離れた位置からセタンタが呆れた顔で見ていた。
「あーあ。アイツ、完全にオイフェになってるじゃねぇか」
恐槍剣を一閃して再びエティエンヌへ仕掛けようとするセタンタだが、彼は気づいた。
ラ・イールと化したエティエンヌ。
ミス・ファービュラスの攻撃を消すのではなく、受け流すことで何とか回避したヴィランに物凄い速さで突き進む影をセタンタは捉えた。
「あれは、鮮夜か」
真っ直ぐ。ただ、眼前の敵を屠る。そのためだけに、鮮夜は全力で駆けていた。
ミス・ファービュラスの一撃に対応していたことで、エティエンヌは鮮夜の接近をこの時まで気づけなかった。
変化して鋭敏になっているはずの感覚は、ミス・ファービュラスの攻撃を最も危険なものだと判断し、そちらに集中しきっていたのだ。
「エティエンヌ=ド・ヴィニョル。アンタを殺してやる!」
「くっ、人間ッ!」
「オレは……アヴェンジャー。兼定鮮夜だ!」
穿たれる《ナハト・ノエル》の一刺。
鮮夜の存在に気づくのが遅れたにもかかわらず、エティエンヌは咄嗟に大戦斧を逆手に持ち替えて、刃の腹で鮮夜の一撃を受け止める。しかし。
「アンカー!」
すかさず、鮮夜はアンカーを射出する。
アンカーはエティエンヌの後方の地面に突き刺さり、瞬時に敵の背後へ回る鮮夜。
「破魔……」
鮮夜の眼はただ一点のみを見つめていた。
心臓ではない。もっと確実な場所を狙う。
鮮夜が捕捉しているのはエティエンヌの首。
セタンタも狙っていた。
戦士が敵を倒す時は首を狙う。
心臓は神秘の存在にとって破壊しても少しの間なら生きていられる者がいる。
しかし、首と身体を断ってしまえば絶命は必至。
故に鮮夜は利き足を軸に高速回転して遠心力と、自らの力を刀に込め叩き込む。
「断断っ!」
「そんな攻撃が通用すると思うのかぁ!」
「何――っ!?」
大戦斧ではなく何も持たない右手で敵は鮮夜の《ナハト・ノエル》を受けたのだ。