表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/290

第四幕 六十九話 The Two More/駆けつけた戦士

「ガアアアアアアアッ!」


 咆哮と共にばく進してくる野獣と化したエティエンヌ。いや、最早奴はラ・イールだ。

 まるで暴走特急だ。

 あんなものに激突されたらひとたまりもない。


「逃げるが勝ちだな!」


 アンカーを飛ばすために周囲を見回した時に気づいた。


「マジかよ。どれもこれも、なぎ倒されてるじゃねぇか」


 エティエンヌがラ・イールへと変貌した際の衝撃で木々などがなぎ倒されていたことを今更ながら思い出した。


「死ねぇぇぇぇ! 人間ッ!!」

「――ッ!?」


 声が出なかった。

 まるで巨大な壁のように立ちはだかるラ・イール。

 野獣は両手で振りかざした大戦斧を甚大な力で叩きつけてくる。

 無慈悲に。冷酷に。ただ、こちらを殺すためだけに。

《ナハト・ノエル》で防ぐことはできるだろう。

 しかし、防ぐことができたとしても攻撃を受けきることはできない。

 刀ごと潰されるのがオチだ。

 死ぬのか。ここで?

 あらゆる時間がスローモーションで流れていた。

 走馬灯は見えない。

 だったら、死ぬはずはない。


「オレはここで死んでなんかいられねぇんだ!」

「よく言った!」


 突然聞こえた声。

 鮮夜だけでなく、ラ・イールにも聞こえていたのだろう。

 今や野獣となったのだから聴力すら人間とは比較にならないはず。


「貫け、カサド・ドヴァッハ!」


 彼方から何かが飛来してくる。

 赤い光を帯びながら真っ直ぐラ・イール目掛けて。

 その速度は音速にすら届くほど。

 一瞬にして赤い光はラ・イールの眼前に迫った。


「ぐおおおおお!」


 鮮夜に向かって振り下ろされていた大戦斧を急遽、ラ・イールは自らの体の前に持っていく。

 刹那、とてつもない衝撃が辺りに広がった。


「うわっ!?」


 衝撃波に煽られて地面を転がって行く。

 何とか体勢を立て直して起き上がると、目の前に二つの影が降り立った。

 一つは背中越しでもはっきりとわかる。引き締まった体を持ち、戦士という言葉が相応しい男。クー・フーリンことセタンタ。

 もう一つはほとんどレオタード姿で露出が激しい、ミス・ファービュラスだった。

 セタンタが右手を天に向かって伸ばすと、回転しながら《カサド・ドヴァッハ》が戻って来た。

 そして鮮夜へと振り返る。


「おう、鮮夜。よく持ち堪えたな。あの突然変異体相手に」


 まるで教え子の成長を喜ぶ師のように話すセタンタだが、鮮夜は別にセタンタの弟子ってわけでもないから、何だか不満げだった。助けてくれたことにはもちろん感謝しているが。

 そんな鮮夜にしなやかな白い腕が差し伸べられた。

 ミス・ファービュラスだ。


「何で手なんて差し出してるんだよ」


 ミス・ファービュラスはきょとんとした表情で答えた。


「何だ。あの獅子を目の当たりにして怖がっているかと思ってな。手を握って落ち着けてやろうと思ったのだけど」

「別に怖がってなんかいねぇよ。ただ、突然変異体の力に少し圧倒されただけだ」

「フフッ、そうか」


 ミス・ファービュラスはオイフェの意識が強くなると、こういうことを平気でしてくるから厄介だと、鮮夜は思っていた。

 ミス・ファービュラスに悪気など一切ない。

 彼女は自分が思ったこと。感じたことを素直に表現しているだけ。

 まぁ、それが厄介ではあるのだが。


「で、あれがラ・イールだな」

「ああ。真化した姿だ」

「俺と戦ってた時でもあの姿にならなかったのに、どうやったんだよ?」

「別に何も。単に、ラ・イールがもう全力で素早くオレたちを潰そうと考えたからだよ」

「なるほどな。そう言えば、スプレッド・レイザーとカルナの姿が見えないが、二人はどうした? まさかラ・イールにやられたわけではないな?」

「アンタは二人が簡単に死ぬと思ってるのか? ミス・ファービュラス。二人はあそこの教会に行ってる。あれがラ・イールたちのアジト。神隠しの被害者がいるかもしれない。それに」

「アリアか」


 そうだ、と鮮夜は答えた。

 三人が雑談していると大爆発の煙の中からラ・イールことエティエンヌが姿を現した。

 ミサイルの如く撃ち放たれた《カサド・ドヴァッハ》の一撃を受けて、体から血を流していた。

 鮮夜がどれほど攻撃を与えてもあれほどまでのダメージを与えることはできなかった。やはり、半神半人のクー・フーリンは伊達ではないということだろう。


「はぁ、はぁ、はぁ……。そうか。貴様らもここに来たのか。光の御子よ」

「おうさ。テメェとはルルトンで決着がつかなかったからな。ここで続きとしゃれこもうや!」


《カサド・ドヴァッハ》を槍のように振り回して構えるセタンタ。

 エティエンヌもまた大戦斧を構える。


「して、鮮夜。この戦いにお前の出る幕はあるのか?」

「当たり前だ。オレはアイツだけはこの手で殺す」

「ふむ。何か奴に個人的な恨みでもあるのか? お前とは生きていた時代も違うだろうに」


 それは関係ない。

 エティエンヌはジャンヌ・ダルクを甦らそうとしている。

 つまり、愛した女を再びこの世に戻そうとしているのだ。


「オレができなかったことをやろうとしてる。そんなこと許せるはずがねぇ」


 その感情は鮮夜をアヴェンジャーではなく、リヴェンジャーに引き戻しているようだと、ミス・ファービュラスは思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ