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第四幕 六十六話 Avenger vs Knight/エティエンヌの正体

「な、に――っ!?」


 直撃したはずだった。

 確かにそう見えた。

 しかし、《ナハト・ノエル》の切っ先はエティエンヌの心臓を貫くことはなかったのだ。

 彼の右腕。たくましく鍛え抜かれた鋼のような腕。その先にある獣のような素手で《ナハト・ノエル》の刃を直接握りしめ、鮮夜の刺突を止めた。


「くっ、おおおおおおっ!」


 踏み込む足に力を込める。

 じりじりと少しずつだが刃はエティエンヌの心臓へと近づく。

 エティエンヌの右手には血が滲み、《ナハト・ノエル》の刃を伝って滴り落ちていく。

 痛みを感じないのか敵の表情は微塵も揺らいでいなかった。


「これで捕まえた」

「しまっ――」


 このまま圧し切ろうとしていた鮮夜だが、この状況自体が実はエティエンヌが望んでいたものだったと気づく。


「ぐおらぁ!」


 刀ごと鮮夜を持ち上げるエティエンヌ。

 じたばたする鮮夜だが既に視界は反転していた。


「地に落ちろ!!」


 エティエンヌは鮮夜を捕らえたまま大地を蹴る。

 地面が抉れる勢いで教会の屋根に届くほどまで跳躍して、全力で鮮夜を振り下ろした。


「――くそがぁ!」


 圧倒的な重力加速度が体を硬直させる。

 体勢を立て直すことができない。

 地面は瞬きをするごとに迫って来る。


「がはっ!?」


 背中から思いきり激突した衝撃で血を吐く鮮夜。

 激痛に眼を細めるが、狭まった視界にはエティエンヌが映る。


「今度はこちらからいくぞ。人間ッ!」


 大戦斧を乱回転させながら鮮夜に向かって急降下していくエティエンヌ。

 どうやっているのかは定かではないが、敵は空中で壁でも蹴り上げたように一気に加速して迫りつつあった。

 痛みに悶えている場合ではなかった。

《ナハト・ノエル》をしっかりと握りなおす。

 だが、まだ動かない。

 ギリギリだ。ギリギリまで敵を引きつける。


「死ねぇ!」


 大戦斧の先端にある鋭利な棘が突き出される。

 今度は鮮夜の心臓に敵の凶刃が直撃する間際だった。


「アンカーッ!」


 右腕を伸ばしてアンカーを射出する。

 木に突き刺さったことを確認して一気に巻き上げる。

 しっかりと地に根付いている大樹はちょっとやそっとでは微動だにしない。

 おかげで鮮夜は大樹へ瞬時に引き寄せられることでエティエンヌの攻撃をかわすことに成功した。


「危ねぇ危ねぇ。死ぬところだったぜ」


 さっきまでいた場所はエティエンヌの攻撃によってクレーターが出来ていた。

 何て奴だ。人間業じゃない。

 もちろん奴はヴィランだ。そして神現者。人じゃない。

 けれど、〝マティリアライズ・ミィス〟で具現化されたから人が神秘の存在に変わるわけじゃない。

 人間が〝マティリアライズ・ミィス〟によって具現化されればやはり、人間のままだ。人ではないが。

 つまり、エティエンヌは具現化される以前から人間じゃない。或いは、歴史では語られていない秘密があるということか。


「おい、アンタ。何でそんな力が出せるんだよ。歴史じゃ、アンタはただの騎士だろうに。それが、まるで妖や異能者と同じぐらいの身体能力じゃねぇか」


 こちらの問いかけにエティエンヌはしばし考える様子を見せる。

 話すか話さないか迷っているのだろうか。

 嗚呼、こちらに話す義理は無いってことなのか。


「……そうか。貴様は俺が何なのか理解していないのだな」

「はぁ? 何なのかってどういう意味だよ」

「そうだったな。この時代は神秘を内包する時代に回帰したと言っても、まだ日が浅い。神秘に関することは伝わってないことの方が多いというわけだ」


 だから、それがどういう意味かこっちは聞いているんだ。

 さっさと答えろ。

 時間を稼ぎながら相手の隙を伺う。


「俺は人間ではないんだよ」

「人間じゃないってことはもちろん理解してる。アンタは神現者だからな」


 こちらの答えにエティエンヌは静かに首を横に振って否定の意思を示した。


「いいや。俺はこの時代に具現化されるより前。つまり、彼女と共に駆け抜けていたあの百年戦争の時から人ではなかったのさ」


 エティエンヌの口から紡がれた言葉にオレは絶句した。

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