第四幕 六十一話 Go to the Church/アリアのもとへ
《なるほど。それはまた、災難だったね》
「あのねぇ、ドクター。何だか気軽に言ってくれるけど、本当に死ぬかと思ったんだから」
スプレッド・レイザーたちは目が覚めるまでに起きた一連の経過をドクターに伝えた。
無論、スプレッド・レイザーもヒーローなのだ。
常にヴィランと戦っている以上、死というものが一般人よりも身近にあるのは認識している。が、その規模があまりにも違いすぎる。
エティエンヌやジルは騎士。それも戦争が日常の世界のだ。
彼らは己の信じるもののために。そして、彼ら百年戦争の亡霊にとっては聖処女ジャンヌ・ダルクのために命のやり取りを文字通り、命がけで行っていた。
神現者として具現化された彼らの力はさらに強化され、街を崩壊させるほど。
数々のヴィランズと戦って来たスーペリアーズでも簡単に対処することはできない。
《悪かったよ。別に軽く言ったつもりはないさ。君たちの話を聞くに、あのエネルギア反応はジャンヌ・ダルクの旗、ということだろうね》
ドクターはヴィジョンの先で悔しそうな表情をしていた。
鮮夜たちが思ったように、ドクターもまた自分が提供した技術が使用されているミュージアムに、まさかジャンヌ・ダルクの《聖旗》があるとは夢にも思わなかったのだ。
自分が気づけていれば、被害をより抑えることができたかもしれないと。
「今はそんなことよりもドクター、アリアの居場所がわかるかもしれないんだ。エネルギアの反応が消えた場所は古びた教会だって言ったよな?」
カルナの話にドクターは頷く。
カーディフ南東にある古びた教会。そこでエネルギアの反応は消えた。
あれほど強大な力。恐らく魔力なのだろうが、魔力を感知できるのは同じく魔力を用いる者に限られる。
ドクターが魔力をエネルギアとして感知できる装置を生み出したと言っても、限度はあった。
しかし、その反応はあまりにも大きかったために感知することができたという。
「それが突然消えたってことか」
《そうだ鮮夜。本当に忽然とね。だから、余計に気になった。ジャンヌ・ダルクの旗ならば、納得できる》
「でも、突然消えたってどういうことなんだろ?」
スプレッド・レイザーが首を傾げた。
「行けばわかる。そろそろカルナの痺れも切れるだろう」
鮮夜に言われてスプレッド・レイザーがカルナを見ると、カルナの握る拳が震えているのがわかった。
《君たちはそのまま行くのかい? ダメージもあるのに》
「関係ねぇよ。敵の居場所がわかっているなら行って殺すだけだ」
鮮夜の瞳が憎しみの色に染まっているのをヴィジョン越しでも理解できた。
ドクターは止めることはできないと悟ったのだろう。
《わかった。セタンタとミス・ファービュラスにも連絡する。突入するのは二人が合流してからにしてくれ》
「ああ、わかったよ」
ドクターとの通信が終わり、カルナが二人の方へ体を向ける。
彼の表情は焦りよりも決意が見えていた。
「二人ともアリアを救いについてきてくれるか?」
カルナの頼みに鮮夜とスプレッド・レイザーは互いの顔を見て、フッ、と笑みをこぼした。
「当然でしょ。そのためにドクターに居場所を聞いたんだし。やられっぱなしじゃ、ヒーローとしての立場が無いからね」
「ありがとう、スプレッド・レイザー」
「それに、アリアだけの問題じゃない。可能性は絶望的でもまだ神隠しで消えた子供たちがいる。子供たちを助け出し、アリアを救い、そしてエティエンヌとジルを殺す」
そう。そもそも鮮夜たちは神隠しと喰い散らかしのインシデントを解決するために行動していた。
喰い散らかしはエティエンヌによって惨殺された事件だとわかったが、神隠しに関してはジル=ド・モンモランシ・ラヴァルによって男の子が攫われていた。
子供たちが生きているのか既に贄とされたのかは未だ不明。だからこそ、まだ助け出すという想いを鮮夜は捨ててはいない。
そんな鮮夜のことをスプレッド・レイザーはニコニコしながら見ていた。
もちろん、マスクで表情は見えないが、雰囲気でわかってしまう。
「何だよ、スプレッド。オレに何かあるのか?」
「ううんー。何だかんだ言って、鮮夜はやっぱり優しいよねーっと思っただけ」
「うるさい」
「ちょっ、ちょっと! 危ないだろ! 刀をこっちに振らないでよー」
「お前が悪い。さ、とっとと行くぞ!」
「まったく。はいはーい」
鮮夜たちが先に走って行く。
カルナは夜空に輝く星々に願う。
「アリア、今助けに行くから。無事でいてくれ」
三人はカーディフ南東にある教会を目指す。