第四幕 五十九話 The Wake/目覚めるカルナ
エティエンヌが《聖旗》を手に入れた。
獅子のような騎士はそのままカーディフ・ミュージアムの壁を破壊して、闇夜の街へ姿を消した。
ちょうどその頃、フロアで瓦礫に埋もれて倒れていたカルナが目を覚ましたところだった。
「う、うぅ……。痛っ、はぁ。気を失ってたのか、俺」
体にのしかかっている瓦礫を払い、痛む体に鞭を打ちながらカルナは立ち上がった。
辺りを見回すと、綺麗なミュージアムは塵と破壊された壁や展示品が散乱する廃墟のようだった。
「酷い」
酷いとは言うが自分も全力で戦っていたので少しは彼のせいでもあるわけだが。
ヴィランをくじくためには致し方が無いと認識しておくのがいいだろう。
カルナは自分が倒れていた部屋を出る。
開けた空間には月明かりが差していた。
「いつの間にかこんなにも夜が深くなっていたのか」
崩れた天井から覗く夜空を見上げながらカルナは一人呟く。
しかし、そんなことを考えている場合だろうか。
一体何をしにきたか思い出してみるべきだと思う。
「……そうだ! 俺はラ・イールにアリアの居場所を問いたださないと!」
ようやく自分の状況を思い出し、カルナはフロアにラ・イールことエティエンヌ=ド・ヴィニョルがいないことに気づく。
それどころか。
「鮮夜にスプレッド・レイザーはどこに行ったんだ」
仲間もいないことに何故か不安を感じる。
けれど、真っ先に不安を感じるのはどうなのか。
鮮夜とスプレッド・レイザーはカルナが気を失っている間にエティエンヌを追いかけていないだけなのかもしれないというのに。
「はぁ、はぁ、はぁ。鮮夜! スプレッド・レイザー!」
フロアを駆けるカルナ。
彼にはわかっていた。不安を感じる理由が。
エティエンヌの強さはこの間とは比べ物にならなかった。
つまり、敵はそれほどまでに本気の想いを抱いていたのだ。
この場所で何かを手に入れるために。
あの騎士が本気になる理由など一つしかない。
彼女。つまり、ジャンヌ・ダルクに関係のあることだ。
自分たちが一体何のためにここへやって来たか、カルナは思い出す。
ここに来たのはそう。エティエンヌたちよりも先に彼らの目的のものを手に入れること。
そうすることで彼らの野望を少しでも妨害しようとした。
「でも、いきなり当たりだった」
エティエンヌもまたカーディフ・ミュージアムを訪れており、スプレッド・レイザーが先に倒れた。
カルナも鮮夜と一緒に応戦したが先に打倒された。
気を失う直前よりもミュージアムの損傷は激しい。
つまり、カルナが気を失っていた間も戦闘は続いていたということになる。
「鮮夜、スプレッド・レイザー! 返事をしてくれ!」
奥へと進んでいた時だった。
カルナはかすかに声を聞いた。
「誰だ? そこにいるのか?」
そこはホールになっていた。
床が抉られ、壁は崩れ、展示品は吹き飛び、まるで怪物が暴れたみたいだった。
そんな場所で声が聞こえた。
「か、カルナ……」
「スプレッド・レイザー!?」
壁によりかかるようにして座り込むスプレッド・レイザーを発見した。
駆け寄って無事かどうか確かめる。
コスチュームが血で染まっている。
ボロボロで傷だらけだった。
「酷い……こんな」
「良かったよ。君は意識を取り戻したようだね」
「ああ。ごめん。全然役に立てなくて」
謝罪するカルナにスプレッド・レイザーは首を振った。
「気にすることはないよ。僕だってこの様だしね」
無理矢理笑うスプレッド・レイザー。
こんな時でもヒューマーを忘れない彼の心意気にカルナは何だかほっとした。
「あの後、どうなったんだ?」
「僕と鮮夜がエティエンヌに追い打ちを仕掛けたんだけど、悉くやられてね。完璧なタイミングで放ったレイザーが逆にアイツの求めていた場所へ通じる扉を開けてしまうことになった」
「ラ・イールが求めているものって、まさか」
「そうだよ。ここにはジャンヌ・ダルクの聖旗があったんだ」
その事実に驚きを隠せないカルナ。
だが、それよりもスプレッド・レイザーが見つかったのだ。
気になることがあった。
「鮮夜はどこなんだ?」
そう。ホールにも鮮夜の姿はなかった。




