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幕間――IX The Girl/エリザベス=アリス・ポートマン

「はい。これでわたしのことはわかったでしょう? 次はあなたのことを教えなさい」


 何とも自分勝手というか。

 しかし、少女――エリザベスの命令のような口振りで指示されても、別段嫌な気にはならなかった。

 きっとまだ幼い女の子だからだろう。


「むっ。今、わたしのことぜったいに小さい女の子って思ったでしょ!」


 本当に聡い子だ。


「これこれリジー。まだ名前を名乗った程度ではありませんか。他に言うことはないのですか?」

「わたしからこれ以上何を知りたいというの? わたしのことを知りたければ、そっちがわたしに言うように仕向けたらいいことでしょうに」


 こっちが仕向ける。

 言い方が少々物騒に思えるが、けれどこちらの言葉は、文字は彼女には届かない。

 そもそもロジャーに届いていること自体がおかしいのだから。


「私がいて良かったですね。さ、リジー。他に言うこともあるでしょう?」

「他に? うーん、そうね……」


 何だかんだと言って、エリザベスはロジャーの言うことは聞くようだ。

 ところでリジーとは何だろうか。

 エリザベスのあだ名なのか。


「ええ。そうですよ。エリザベスですからリジーなのです」


 ロジャーが空中に指で綴りを書いてくれた。

 なるほど。それで納得できた。


「わかった! わたしは八歳なの! もうこれしか思いつかないわ」


 八歳か。

 それにしては発育が良く、頭も切れるような気がするが、まぁこの場所やロジャーがそもそも神秘の存在なのだ。

 エリザベスもまたその類なのだろう。


「で、いい加減この人のこと教えてくれるんでしょうね?」


 ロジャーの方へ視線を送る。

 こちらの意図を理解してくれたロジャーは頷いた。


「こちらの方と、さらにこれをご覧になっているみなさんを含めて、この記憶図書館を訪れたお客様なのですよ」

「この人は今、目の前にいるけど、みなさんってどういう意味よ?」


 そうか。そういう認識すらエリザベスにはできないのか。

 もちろん。こちらも他の者たちを認識できないが、嗚呼、何だかややこしくなってきた。


「失礼しました。では、先に進めましょう。こちらのエリザベスことリジーは私と一緒にこの記憶図書館で様々な物語を体験している仲間、のようなものです。そして、リジー。こちらの方たちはあなたが別の物語を体験している間に、ここへたどり着いたのですよ」

「わたしがいないうちに勝手なことしないでよね」


 勝手なことと言ってもここの管理人はロジャーなので構わないのでないかと思うが。


「ありがとうございます。まあ、リジーはこのような性格ですからね。自分の知らないところで何か新しいことが起こるのは嫌なのでしょう」

「ちょっと、まるでわたしがわがままみたいな言い方じゃない」

「いえ、そんなことはありませんよ。リジーは見逃したくないだけですよね」


 その通りよ、とリジーが頷く。

 ひらひらとドレスが舞う。本当にお人形のようだ、という表現は彼女のためにあるかと錯覚してしまう。


「どうやら、リジーの可愛らしさが伝わったようですよ」

「あら、あなたなかなかいい眼をしているじゃない。見た感じ、そこそこいい容姿だし、ロジャーみたいにおじさんじゃないし」


 うん、とエリザベスは何か納得したようだ。


「あなた、わたしの家来になりなさい!」

「……」


 ……。

 ロジャー共々、絶句する。

 いきなり何を言い出すんだこの子は。


「これリジー。お客様をからかうのではありません。困っているでしょう」

「いいえ。これはもう決定したの。わたしとあなたはこれから一緒に行動するのよ! いいわね!」


 いいわねと言われてもこっちはロジャーの指示で鮮夜たちの物語を体験していて、この図書館から帰る方法も知らないのだ。


「リジー、少々静かにしてもらっていいですか?」

「なによ。わたしが邪魔なの?」

「お客様優先ですので。お客様はあることを知りたいのです」


 ですよね、とこちらへ視線を送ってくるロジャー。

 そうだ。エリザベスの登場に圧倒されて忘れていたが、大変な場面から引き戻されたのだ。

 ロジャーが答えてくれるかわからないが聞きたい。

 エティエンヌ=ド・ヴィニョルが手にした旗について。

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