第三幕 五十五話 The Museum Battle/激闘
「アリアは何処だっ!!」
ホールに木霊するカルナの想い。
彼の眼差しにはアリアに対する愛と目の前にいるヴィランへの敵対心が灯っていた。
「アリア? 嗚呼、あの女のことか。安心しろ。あの女は我々にとっても重要な存在だ。そう〝彼女〟を救済するためにな。だから、丁重に扱っている」
敵の言葉だがアリアが無事であることに安堵するカルナ。
しかし、鮮夜は違う。
「騙されるなよカルナ。コイツはヴィラン。オレたちの敵だ。丁重に扱ってるって意味が一致するか怪しいぞ」
確かにそれも一理ある。
再びカルナはエティエンヌを睨みつけて《エクスカリバー・星炎》を突きつける。
だが、エティエンヌは怯える素振りなど一切見せず、それどころか口元に笑みを浮かべた。
「フフフフフ……。そっちの青年はよく理解しているじゃないか」
「鮮夜だ」
「ん?」
「オレの名だ。青年なんて呼び方するんじゃねぇ。――アイツを思い出す」
最後の科白を鮮夜は呟くように吐き出しながらエティエンヌを睨みつける。
カルナでは微塵も感じなかったが、鮮夜の視線を受けた瞬間、エティエンヌは寒気を感じて全身の毛が逆立つ感覚に襲われる。
この間と同じ人物とは思えなかった。
「青年。いや、鮮夜と言ったな。貴様、この数日で何があった?」
「あん? 何の話だ?」
「貴様とはあの夜会ったな。その時、こんな――」
エティエンヌの態度に鮮夜は悟った。
「アーハッ! なるほど、そいうことか。アンタ、オレにビビったんだな」
「その物言いは聞き捨てならないぞ。人間が」
「今のオレは一応ヒーローやってるんでね。でも……」
鮮夜は左手に柄を取り出して構える。
「オレはアンタがこの街に、この国に、この世界に仇なす存在だから戦うわけじゃねぇ」
「なら、貴様は何のために俺の邪魔をする」
「オレはただ、アンタが在るのが我慢できねぇだけだっ!」
言い終わると同時に、鮮夜は大理石の床を蹴って加速する。
何とも戦い難い場所だが関係ない。
目の前に討つべきヴィランがいる。ならば、ヒーローはただそれを排除するだけだ。
相手との間合いを一瞬で詰める。
展開させた《ナハト・ノエル》を力を込めて一閃する。
「砕魔・一迅!」
「無駄なことを」
鮮夜の斬撃はエティエンヌの大戦斧によって受け止められてしまった。
しかし、鮮夜は別段焦ることもなく、そのままエティエンヌをその場に留めておくように刀を大戦斧に押し当てる。
「何の真似だ」
「すぐにわかるさ」
その時。エティエンヌは背後に気配を感じて振り向こうとするが既に遅い。
「砕魔・一炎ッ!」
エティエンヌに炎の斬撃が迫る。
「グゥッ!?」
前門の鮮夜。後門のカルナ。
鮮夜によって身動きが取れないはずのエティエンヌだったが、体を大きく仰け反らせることによって、カルナからの一撃を紙一重でかわしたのだ。
「嘘だろ」
「そこで止まるな、カルナ!」
叱咤する鮮夜。
仰け反り状態のエティエンヌは隙だらけ。
腹部に蹴りを叩き込む。
苦悶の声を上げて怯む敵。
くるりと踊るように鮮夜は回転して螺旋の遠心力を込めた一閃を振るう。
「死ねぇっ!」
「ガアアアアアアアッ!!!」
咆哮。
ミュージアム全体が震える。
エティエンヌはあえて崩れた体勢を利用してそのまま床を転げていき、鮮夜の攻撃をやり過ごしたのだ。
けれど、もちろんそれだけではない。
転がりながら右手で大理石の床を抉る。
あり得ないだろう。大理石を握力で破壊できるなど。
圧倒的な力を目の当たりにしてカルナは今一度、エティエンヌ=ド・ヴィニョルという騎士の恐ろしさを理解した。
エティエンヌが起き上がりざまに抉り取った大理石の床を弾丸にして鮮夜に投げ放った。
「マジかよっ!?」
それは最早、人が投げて出る速度ではなかった。
まぁ、厳密に言うとエティエンヌは神現者であって既に人ではないのだが。
「砕魔・打断!」
しかし、驚きつつも鮮夜は大理石の弾丸に向かって行く。
「怯むと思うなよ!」
「潰れろ。人間がッ!」
鮮夜とエティエンヌ。
何故だろう。この二人を見ていて、カルナは何処か似ていると感じた。