第三幕 五十三話 The Cardiff museum/ポイントへ
鮮夜たちはカーディフの郊外に位置するミュージアム。
時刻は間もなく日が暮れる。
誰もいなくなったミュージアムは一際、不思議であり、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「こんなところに何があるって言うんだ」
愚痴る鮮夜にスプレッド・レイザーはさぁ、と首を傾げた。
彼自身、エティエンヌたちに唆されたヴィランズが何を探していたのか知らないのだ。
「でも、ポイントはここなんだ。きっと何かあるよ」
「その何かがわからなかったら、探しようがないだろう」
鮮夜の言うことは最もだと思う。
しかし、二人とは対照的にカルナの様子は少し違った。
「あのミュージアム。何か感じる」
「本当か、カルナ?」
「ほらぁ、だから言ったでしょ? 僕の正解だね」
初めから勝負なんてしていないと思いつつ、鮮夜はカルナに何を感じるのか尋ねた。
「はっきりとはわからないんだけど、ミュージアムの中から魔力を感じる」
厳密に言うとカルナは魔術士ではない。
魔術士なのはアリアの方だ。
カルナはアリアと契約しているため彼女の代わりに聖剣《エクスカリバー・星炎》を扱うことができる。
この聖剣はカルナとアリアの想いを結び合うことで形にする。
故にアリアの影響を少なからず受けているため、カルナは魔力を察知することができるのだ。
察知可能と言っても本当の魔術士に比べれば低いレベル。
鮮夜やスプレッド・レイザーが何か嫌な感じがする、と悪意を感じ取るのと同程度だ。
しかし、魔術士ではない鮮夜やスプレッド・レイザーには魔力を感知すること自体ができないので、カルナのおかげで助かった。
「ということは、ここは当たりってことか?」
「どうだろう。魔力を感じても、ここはミュージアムだろ? 昔の貴重な品がたくさん展示されている」
「うん。このカーディフ・ミュージアムはドクターとも関係があるからね。神秘に関係しているものもいくつかあるよ」
そんなものを平然と展示している奴らの神経が理解できないと鮮夜は思った。
「歴史的に価値のあるものでもあるからさ。隠すわけにもいかないんだ」
「まぁいい。とにかく中に入るぞ」
鮮夜とスプレッド・レイザーが我が物顔で閉館後のミュージアムに入っていく姿を見て、カルナが焦る。
「だ、大丈夫なのか? 勝手に入ったりして」
「平気だ。許可はドクターに取ってもらってる。今は警備しかいない。オレたちの自由にできる」
そうでなくては危なくて探し物どころではない。
警備が巻き込まれる可能性はあるが、そんなこと鮮夜の知ったことではない。
警備するのが仕事。
戦闘になれば戦うか逃げるぐらいはできるだろうと。
「ほら、カルナも早く来なよ。誰もいない夜のミュージアムってドキドキ、ワクワクするよ!」
「お前はもう少し緊張感を持て」
鮮夜に突っ込まれるスプレッド・レイザー。
「えー、でも、鮮夜は暗いし、カルナはアリアの心配でそれどころじゃないから、僕が〝わざわざ〟明るく楽しく振る舞ってるんだろー」
わざわざという所でスプレッド・レイザーがエアクォーツの仕草をした。
「嘘つけ。いつものお前じゃねぇか」
「ウップス。ばれたか。いいからいいから。ほら、行くよ!」
軽やかにミュージアムへ入って行くスプレッド・レイザーに、鮮夜とカルナも続いて行った。
そうして、鮮夜たちはカーディフ・ミュージアムに足を踏み入れた。
だが――。
「なっ、何だこれ……!?」
「体を締め付けるような威圧が――」
ミュージアムに入った途端、鮮夜とカルナは全身に襲い掛かる圧倒的なプレッシャーに立ちつくしてしまう。
「あれ? どうしたの二人とも。止まったりして。早く奥に進もうよ」
「……おい、スプレッド。お前、この状況で何ともないのか?」
「何ともないって、一体どういう意味?」
「俺たちの体に纏わりつくような、嫌な感覚だ」
「カルナまで。でも、僕は特に何も感じないけど」
あり得ない。
そんなはずはない。
ただの人間である鮮夜ですらこれほど叩きつけられているというのに。
「もしかして、さっき言ってた魔力なのかい? それだと鮮夜も感じないはずだけど」
「いや、コイツは……魔力なんかじゃねぇ」
話すのもやっとという感じだ。
カルナが鮮夜に続く。
「これは、そう。言ってみれば、純粋な悪意だ。それも尋常じゃない規模の」
そう言われてもスプレッド・レイザーにはいまいちピンと来ない様子だ。
そこでスプレッド・レイザーがポン、と手を鳴らした。
「だったら二人はここで待っててよ。僕が様子を見てくるから。そのー、純粋な悪意? それを放っている奴がいるかもしれない。見つけたらブッ飛ばしてくるよ!」
言い終わると同時に、スプレッド・レイザーは壁を蹴って三角飛びの感覚で一人先へ行ってしまった。
普通に走れないのかと思うが。
「ま、待て。スプレッド!」
鮮夜の声は虚しくエントランスホールに木霊するだけだった。




