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幕間――VII The Villains/アリアの今

 鮮夜とカルナ、そしてスプレッド・レイザーがアリア捜索に出かけた頃、ある場所では、そのアリアをさらった元凶たちが話し合いをしていた。


「ふむ……。私たちの読みがあまかったのでしょうか?」


 薄暗い空間に浮かび上がる青白い球体。

 投影されたヴィジョンのようだが魔術のエネルギアを利用しているのだろう。

 ヴィジョンには次々にヒーローに打倒されていくヴィランズが映っていた。

 それを呆れた表情でジル=ド・モンモランシ・ラヴァルが見ていた。


「この時代の者たちがこれほどまでに脆いとはな」


 ジルの後ろから登場したのは威風堂々たるエティエンヌ=ド・ヴィニョルだ。


「ジル。俺たちが手引きした者のうち何人が目的を達成できた?」

「……言いにくいですが、私たちが報酬を与えると契約を持ちかけた者は全員、ヒーローたちに捕まったので、誰も見つけられてないんですよ」


 唸るエティエンヌ。

 苛立つというより新たな策を考えている様子だ。


「簡単な任務もこなせないとはな」


 果たしてエティエンヌが提唱した任務の内容が簡単か否かは賛否両論になるだろう。

 彼らがヴィランズに報酬と引き換えに与えた任務はある物を探させることだった。


「しかし、エティエンヌ。あなたもこの時代の者にあれを見つけられると思っていたのですか? ヴィランズなど悪事ばかりしていて知識も無いに等しいと言うのに」


 ジルの言い方は明らかにヴィランズたちを蔑んでいた。


「可能性を広げただけだ。期待など、はなからしていない」

「となると、いよいよ私たちで見つけなければなりませんね。彼女のためにあれは絶対に必要なのですから」

「わかっている」


 エティエンヌはしばし沈黙してから再び口を開いた。


「ところで、あれはどうなっている?」

「彼女ですか? 今のところ進展はありません」

「そうか……。見に行こう」


 血の匂いが充満する空間をエティエンヌとジルがゆっくりと歩いて行く。

 アリアのものではない。

 この暗く広大な空間に設置されている無数の檻の中から漂って来ていた。

 二人は気にならないのか顔色一つ変えずに進んで行く。

 鉄の扉を、それこそ巨大な銀行にある金庫の扉並に重く厚いものをエティエンヌは片手で軽々と開いた。

 さらに進んで行くと赤橙色の光を放つ場所にたどり着いた。


「相変わらずか」

「ええ。御覧の通り、ここに連れてきてから術壁を張っているので触れることすらできません」


 赤橙の光を放っていたのはエティエンヌたちにさらわれ、カルナが今現在も心から心配しているアリア=アーサー・ペンドラゴンだった。

 アリアは蒼い結晶体に覆われており、さらにその結晶体を赤橙の炎が纏わりついていたのだ。

 ジルが古書から異形を一体召喚して突撃させると、一瞬にして塵になった。

 断末魔すら上げさせずに。


「オオオオオオッ!」


 エティエンヌが大戦斧を叩きつけた。

 しかし、斧が結晶体に近づく刹那、炎がまるで生きた竜のように立ち昇り、エティエンヌの一撃を防いだのだ。


「これでは連れてきた意味がない」


 カルナや鮮夜たちを翻弄するためだけにアリアをさらったわけではない。

 エティエンヌたちの目的である彼女の救済に、アリアは最高の贄なのだ。


「あれも見つからず、器に準備を施すこともできない。ここに来て、また俺たちの邪魔をするのか奴はッ!!」


 奴というのが誰を指しているのかは定かではない。

 けれど、エティエンヌの怒りはまさにラ・イールの異名に相応しいものだった。


「まぁまぁ、落ち着きなさいエティエンヌ」


 ジルの言葉にエティエンヌの逆立つ鬣が元に戻る。

 さすがは百年戦争を共に駆け抜けた仲間なだけはあるのか、ジル=ド・モンモランシ・ラヴァルはエティエンヌの扱いを心得ていた。

 卑しい笑みを浮かべるジルにエティエンヌは問う。


「何か策があるのか? ジル」

「もちろん。私はあなたの知らないうちに黒魔術を会得したのですよ? 〝マティリアライズ・ミィス〟でしたか? その影響で具現化した今、私の黒魔術の力はさらに洗練され、強大になりました」


 だからこそ、鮮夜、カルナ、そしてアリアの三人がかりでも敗北したのだ。


「もう少々時間をください。必ず彼女の術壁を解きましょう。私もまた魔術士なのですから」


 そう。現在、アリアを守っているこの力は魔術なのだ。

 故に黒魔術士であるジルがその気になればどうにかできてしまう。

 同じ魔術なのだから。

 話を聞いて納得したのかエティエンヌは頷いた。


「わかった。器についてはお前に一任する」

「ありがとうございます」

「なら、俺はヴィランズたちが達成できなかった任務を遂行することにしよう」

「いいのですか? この国にあることは突き止めましたが、正確な場所まではまだ――」

「構わない。あれもまた彼女の一部。ここまで絞れていれば匂いでわかる」


 そうですか、とジルが答えた。


「では、私は引き続き、ここで術壁の解除を」

「俺はあれを手に入れてくる」


 そう言ってエティエンヌはアリアのいる部屋を後にした。

 確実に百年戦争の亡霊たちの目的が成就しつつあった。

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