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第一幕 四話 たった一度の過ち

8/19 一部改稿しました。

 さて、鮮夜の話を簡単に説明すると、こういうことだ。

 そもそも、アーサー・ペンドラゴンという存在は尊敬されるべき者ではない。

 騎士の中の騎士。故に騎士王という風に呼ばれることがあるが、それはおかしいと。

 何故なら騎士道を重んじる頂点にいる存在が騎士道を破ったのだから。


「アリアが騎士道を破ったってどういうことだ!」

「お前はどういうことだとか、どういう意味だのばっかりだな。カルナ」

「仕方ないだろ! 俺にはお前の言ってることがわからないんだから」


 やれやれ、と鮮夜はかぶりを振る。


「お前はその女アーサー。アリアの恋人なんだろ? なのに何も知らないのか?」

「もちろん、アリアから話は聞いているし、伝承も読んで勉強したさ」

「なら、何故アーサー・ペンドラゴンがエクスカリバーを手にしたのか。その理由をお前は知っているのか?」


 当たり前だろう、とカルナが言おうと口を開いた時。


「そのことはっ!」


 声を上げたのはカルナではなく、それまでずっと静かに、でも真っ直ぐに鮮夜の目を見つめて話を聞いていた、アリア・アーサー・ペンドラゴン本人であった。


「どうしたんだアリア? そんなに辛そうな顔をして。気分が悪いのか?」


 カルナがアリアの肩にそっと手を触れる。

 アリアは片手を胸に当て、もう片方の手でカルナの手を握る。

 震えるアリアの手をカルナは優しく、安心させるように握り返した。


「やっぱりな。その反応、あの伝承は真実なわけだ」


 アーサー・ペンドラゴンが有名な理由として挙げられる要因の一つは、誰もが知る《エクスカリバー》という聖剣を持つことだろう。

 しかし、よく思い出してみるといい。

 果たしてアリア。つまり、アーサー・ペンドラゴンが岩から引き抜いたのは《エクスカリバー》だったのか。

 いいや、違う。岩に刺さっていた聖剣は別のものだった。

 その銘は――。


「カリバーン。それが選定の剣の名前だ」

「カリバーン……」


 カルナも聞いたことがあるのだろう。そういう表情をしている。

 だが、対するアリアは悲痛な面持ちでいた。


「カリバーンとエクスカリバー。似ているが二本の剣は全くの別ものだ。なぁ、アーサー王。愛する恋人に真実を聞かせてないのは、カルナを信じていないってことにならないか?」

「アリア」

「そのね、カルナ。わたしは……」


 アリアが言い淀んだ時、カルナはそっとアリアを自分へと抱き寄せた。


「あっ、カルナ。あの……」


 恥ずかしさと嬉しさが混在しているのだろう。どういう反応をすればいいのか。アリアは判断に迷っていた。

 そんな彼女にカルナは優しく囁いたのだ。


「いいんだ、アリア。俺はアーサー王としての君を好きになったわけじゃない。あの日、君に出会い、救われた。そして、君にこの力をもらった。そのおかげで俺は今、大切な人のために戦えている。それだけでいいんだ。話したくないことは話さないでいい。アリアがいつか話したいと思ったら話してくれ。だけど、これだけは覚えておいてほしい」


 カルナはアリアの蒼い眼をしっかりと、真っ直ぐ射抜くように見つめる。


「俺は何があっても君のそばにいる。過去は関係ないんだ。君は既に新たな人生を歩んでいるんだから」

「カルナ……。うん。ありがとう。わたし、カルナになら話せる。カルナがいてくれれば、わたしはいいの。今のわたしはただのアリアなんだから」

「ああ、もちろんだ」


 二人の間には誰にも侵すことのできない、確かな時を越えた愛があった。

 それは誰の目から見ても明らか。愛ほど強い想いはないのだから。


「あれだけ嫌味ったらしく言った割に、かえってあの二人の愛を深める形になったな。鮮夜」

「うるさい、クー」

「で、アリア。おまえは鮮夜の言う真実を語るつもりなのか? このわたしたちに」


 桜花がアリアに言及する。

 アリアはだいじょうぶだから、とカルナに伝え、ブリーフィング・ルームにいる全員の顔を見た後、頷いた。


「はい。真実を語ります。鮮夜の言うことは紛れもない事実。鮮夜、あなたはあのことを言いたいのですね?」

「そうだ。アリア。アーサー・ペンドラゴン。アーサー・ペンドラゴンを有名にしている一因である聖剣エクスカリバー。そして、選定の剣カリバーンは別物。そもそも、アーサーが王になると言われたのは何故だ?」


 はいはーい、とスプレッドレイザーが言いたくて仕方がない子供のように手を上げる。

 年齢はここにいるドクター、セタンタに次いで三番目の二十二歳なのに、まだまだ若さを抑えられないのだろうか。


「確か、魔術士マーリンってのがいて、その人が予言したんだよね?」

「ああ。マーリンはカリバーンを抜いた者こそがブリテンを導く偉大な王になると予言した。その予言通り、カリバーンは引き抜かれた。アーサーという人物に」


 鮮夜は続ける。

 カリバーンを抜いたアーサーは名実ともに、ブリテンの覇王ユーサー・ペンドラゴンの後を継ぎ王となる。

 ブリテン統一のため多くの志を同じくした、騎士を引き連れて戦に勝利していく。


「強さ、誠実さ。アーサーが人々から羨望される要素はいろいろあったが、何よりも仲間の騎士たちが尊敬していたのは、アーサーの騎士道を貫く姿勢だろう」


 かつて、倭国日本には武士がいた。

 武士たちにも武士道というものがあった。武士道を貫くことが、彼らの大義あったのは確かだ。

 そして、ヨーロッパでは騎士が騎士道を貫く。強いだけではない。道を貫くことこそが大切なのだ


「だが、アーサーはたった一度だけ。とても騎士の中の騎士には相応しくない戦いをしたんだよ」

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